10月4日 後編
メイドさんのお名前はミユさんというそうで、年齢は秘密だそうです。多分30歳くらいだと思います。
ミユさんはまず、お掃除を教えてくれました。屋敷中のお部屋を隅々まで綺麗にするんです。
「舐められるくらいにピカピカにしなさい」
というのを何回も言われました。お屋敷はいろんな味がしました。
旦那様のお部屋はイカのような匂いがして、舐めてみると新車みたいな味がしました。
奥様のお部屋はお化粧の匂いがして、床もお化粧の味でした。
長男である俊輔様のお部屋はタバコの匂いがして、床と黄色くなった窓はミントの味でした。
長女である凛華様のお部屋は真っピンクでとても可愛らしく、ミスタードーナツの匂いと味がしました。蟻が来そうだな、と思いました。
恭輔様のお部屋は汗の匂いがして、床は塩味でした。味付けしていないおにぎりを転がしたらいい感じになりそうです。
ミユさんは次に、犬の餌やりをしてこいと言いました。ワンちゃんいたんですね、このお屋敷。
湿り気のある、魚介のような匂いのするドッグフードを犬小屋に運びます。
大きいです。軽自動車1台分くらいの大きさはあります。マシロ、と書いてあります。
「マシロちゃん、どうぞ」
「ガルルルルルルル!!」
めちゃくちゃ警戒されています。
「わたしね、今ひとりなんだぁ。お屋敷にはみんないるけど、それでもひとりなの」
「ガルルルルルルル!!」
ドラマやアニメみたいに上手く行きませんね。
「おヌメです! よろしくねっ!」
にっこり笑ってみせました。どうですか? わたしの笑顔。
「ニャン〜」
大人しくなってくれました。さすがわたしですね。
撫でてみましょう。
「ニャ〜ゴロゴロゴロゴロ」
喜んでくれているみたいですね。ワンちゃん触るの初めてなんですけど、こんな感じなんですね。
「はい、召し上がれ」
警戒心を解いたところでもう一度餌皿を差し出します。
「うめぇ! うめぇ! ガツガツガツガツ!」
美味しそうに食べてくれています。マシロちゃんはわたしと仲良くしてくれそうです。
お洗濯や食器洗いはミユさんがやってくださったそうで、わたしはお風呂に入ってこいと言われました。6番風呂です。ミユさんはこれで帰るそうです。
あったかいです。まだ人並みに動けるわけではないので、これだけ動いただけでも今のわたしには大変なのです。そんな疲れた体にこのあったかいお湯。たまりません。
なんだか眠たくなってきました。
お母さん⋯⋯お母さん⋯⋯
つらいよ⋯⋯会いたいよ⋯⋯
ってお風呂で寝たら危ないですよね! 危ない危ない⋯⋯あれ。
わたし、泣いてます。泣いた覚えはないんですけどね。
お湯をかぶって、今の涙をなかったことにしました。
明日から学校です。ちょっぴり心配ですが、今まで退屈だったので、動き回れるのは嬉しいです。明日が楽しみです⋯⋯