10月4日 中編
「お前には我が家の召使いとして働いてもらう」
おじ様がわたしに言いました。めしつかいってなんでしょう。お米で戦う能力者でしょうか。
「おじ様、めしつかいってなんですか?」
そう聞いた瞬間、奥様のビンタが飛んできました。
「おじ様じゃなくて旦那様でしょ! 恩知らずな子ね! 手が汚れちゃった⋯⋯」
わたしは恩知らずのようです。
「分かりました」
「召使いとは、家で雑用をこなす人間のことだ」
「ざつようってなんですか?」
「この子はもうほんとに⋯⋯!」
手が出そうになった奥様を旦那様が止めました。
「まぁまぁ。雑用とは、ここでいえば家事だな。炊事洗濯掃除など、家のことをいろいろ任せるということだ」
そういうことなら!
「得意です!」
「そうか、それは頼もしいな。よろしく頼むぞ」
旦那様はわたしの頭を撫でてくれました。顔の皮膚を触らないように、上の方だけ撫でてくれました。奥様はそれを睨んでいました。
旦那様がお部屋から出ると、奥様がわたしに近づいてきました。
奥様はわたしの頭を叩きました。
「色目使ってんじゃないよ!」
いろめってなんでしょうか。こわいので終わるまで耐えます。
何分か頭を叩いてスッキリしたのか、奥様もお部屋を出ていきました。
さて、わたしはこれからどうすればいいのでしょうか。
「おいおヌメ、お前僕の部屋に来い」
次男の恭輔様です。同い年なのに自分のお部屋があるなんてすごいです。
「早く来い」
恭輔様のお部屋は、サッカー一色でした。ボールが何個も置いてあって、ポスターが壁中に貼られています。
「お前、そこに立て」
壁際のところです。
「動くなよ」
恭輔様はわたし目がけてボールを蹴りました。動くなと言われていたので、ボールはお腹に直撃しました。殴られたような鈍い痛みが背中まで突き抜けます。
わたしはその場に膝をついてしまいました。
「座っていいなんて言ってないだろ」
わたしは頑張って立ちました。お腹はまだ痛いです。
「次はちゃんとキャッチしろよ」
動いてよかったみたいです。
2発目は顔に当たりました。キャッチしようとしましたが、速すぎて取れませんでした。
「ざっこ!」
わたしは雑魚だそうです。
結局、10発中1回しかキャッチ出来ませんでした。10回目が終わった頃に、奥様がわたしを呼びに来ました。
「なに遊んでるのよ、早く夕飯の支度を手伝いなさい」
キッチンに行くと、可愛い格好をした大人の女性がいました。メイドさんでしょうか。
「こんにちは、今日からここに住まわせていただいている、おヌメです」
「げ⋯⋯なにその顔」
今のところ100%の確率で聞かれてますね。入院中からこうなることは予想していたので傷ついたりはしませんが、毎回説明するのはめんどくさいです。
「かくかくしかじかです」
「へぇー、その顔の汁、ごはんに落とさないでね」
心配はしてくれませんでした。いいんです。住むところがあるだけで万々歳です。わたしは強いですからね。
1時間くらいかけてみんなの夜ご飯を作りました。「初めてにしては使える」とメイドさんが褒めてくれました。名前を聞くのを忘れていたので、またあとで聞こうと思います。
それにしてもすごいですよ、ここのごはん。高級食材ばかりです。ソートーなお金持ちですね。
「いたーだきます!」
皆さんそろってお食事開始の挨拶をして、食べ始めました。わたしも食べ始めます。こんな分厚いステーキ、食べたことがありません。噛み切れるのでしょうか。
「おヌメ、ちょっと席を立ちなさい」
奥様が言いました。食事中にみんなが食べてるのに席を立つなんて、いいのでしょうか。でも奥様はこわいので、わたしは立ちました。
「A5ランクの和牛ステーキなんて、あなた食べたことあるかしら?」
A5ランク? 和牛? 聞いたことのない言葉ばかりです。お金持ちの世界はすごいです。
「ないです」
「そうよね、いきなり良いものを食べてビックリしちゃったらよくないから、私が手を加えてあげるわね」
「なにするつもりだ、市子」
旦那様が怪訝そうに見ています。
「こうするのよっ」
奥様はわたしのステーキを床に投げつけました。
「コラっ!」
旦那様が怒りました。わたしの味方をしてくれるようです。
奥様はさらに、その上からスリッパで踏みつけました。
「はいお食べ」
そう言ってお皿に戻しました。みんな黙って見ていました。
「市子、やりすぎだ」
旦那様が言ってくれました。
「じゃああなたのと交換なさる?」
「⋯⋯⋯⋯」
旦那様は黙ってしまいました。
「大丈夫です、わたしこれ食べますから」
喧嘩させる訳にはいかないので、わたしが間に入りました。
「大丈夫、じゃないわよ。本来なら引き取り手がなくて何も食べられない子なんだから、ありがたいと思いなさいよ」
そうでした。贅沢を当たり前にしてしまうところでした。
「失礼しました。いただきます」
わたしはそう言ってお皿を受け取りました。
「食べ終わったらそこ拭いておきなさいよ」
奥様が床を指さして言いました。ステーキの肉汁とソースが光っています。
ナイフとフォークを使うのは久しぶりだったので上手く出来ず、恭輔様と凛華様に笑われました。
ステーキのお味なんですけど、今まで食べたことのない美味しさでした。これがA5ランク。これが和牛。柔らかすぎです。わたしは感動しました。この世にこんなに美味しいものがあるだなんて⋯⋯
ごはんを食べ終えて床を掃除していると、メイドさんからお声がかかりました。




