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おヌメの日記  作者: 七宝
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10月4日 前編

 今日は待ちに待った退院の日です。お母さんはまだ意識が戻らないのですが、わたしはなんとか治って、人並みとはいかないまでも動けるようにはなったので、退院していいそうです。


 さて、わたしには頼れる親戚がいません。どうしたものでしょうか。

 1人で困っていると、看護師さんが走ってきました。なんでも、遠い親戚の家で受け入れてもらえることになったそうなのです。


 その人たちは家族総出で迎えに来てくれました。車には6人乗っていました。


 運転席に白い手袋をしたダンディなおじ様。その後ろに同年代くらいの太めのおじ様、隣にはおじ様の奥様と思われる貴婦人。またその後ろに高校生くらいのお兄様が1人、隣には中学生のくらいのお姉様が1人、そしてその後ろの席のわたしの隣に、わたしと同い年くらいの男の子が1人。


 あれ、この車長いですね。すごい、こんなのテレビでしか見たことがありません。


「お前、すごい顔してるな」


 おじ様たちのお(うち)に向かう途中、隣の男の子がわたしに言いました。

 わたしのこの酷いお顔は、火傷による後遺症なのです。

 痒くて痒くて、かいちゃだめって言われてたんですけど、夜中にボリボリかきむしってしまったんです。その結果がこの血膿のぬめった、ジメジメしたお肌の醜いお顔です。


「お前、名前は?」


 男の子はわたしに興味津々です。仲良くしてくれるとうれしいなあ。

 でも、わたしは火事のショックでいろんな記憶を失っちゃっていて、名前も忘れちゃってるんですよね。


「名前は、分かりません」


「変なの」


 わたしは変だそうです。


「名前がないなら、〈おヌメ〉っていうのはどうだ? 顔がヌメヌメしてるからピッタリだろ?」


「やめんか恭輔(きょうすけ)。その子には〈ありす〉という名前がある」


 太めのおじ様が言いました。確かにわたしは看護師さんたちに〈ありすちゃん〉と呼ばれていました。

 でも、実感がないんです。わたしみたいな醜いお顔の子が、ありすちゃんなんて名前なわけがありませんよね。多分本当の名前が別にあるはずです。


「ふーん、でも、ありすって感じしないから僕はおヌメって呼ぶよ」


 やっぱり恭輔くんもそう思うんですね。気が合いそうです。


 家に着くと、運転手さんがドアを開けに来てくれました。すごいです。

 おじ様の家もすごいです。家というより、屋敷です。大きすぎます。こんなのテレビでしか見たことがありません。


 わたしたちを降ろすと、手袋のおじ様はまた運転席に乗り込んでどこかへ行ってしまいました。家族ではなかったみたいですね。


「ありす、今日からここがお前の家だよ」


 おじ様がにっこり笑って言いました。


「改めて自己紹介をしよう。私は秀次(しゅうじ)、こっちが妻の市子(いちこ)だ」


 おじ様と奥様のお名前、頑張って覚えないと。


「さっき聞いたと思うけど僕は恭輔! 10歳だ! よろしくな!」


「よろしくね、恭輔くん」


「は?」


 恭輔くんが急に真顔になりました。こわいです。


「お前、自分の立場分かってる?」


「えっ」


 どういうことでしょう。


「お前は僕たち全員より下なの。だから僕のことは〈恭輔様〉って呼ぶの。分かった?」


 なるほど、そういうことですか。


「分かりました」


「アタシは凛華(りんか)、中2よ」


 わたしより4つ上ですね。


「⋯⋯⋯⋯」


 高校生らしきお兄様の番だと思うのですが、口をお開きになりません。


「おい、自己紹介くらいちゃんとしなさい」


 おじ様が肩を叩きました。


「⋯⋯俊輔(しゅんすけ)だ。18だ」


 ということは、もうビデオ屋さんのあの暖簾(のれん)をくぐれるのですね。


 わたしのことは皆さん知っているみたいだったので、自己紹介は省略して、みんなで屋敷に入りました。

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