1 『RPG』
破裂音がしたほうへ行ってみると、首の骨が面白い方向に曲がった死体と目が合った。
死体は脳天が割れていて、薄ピンク色の脳味噌が道路に飛び出していた。
鼻は潰れて原型を留めていない。顔面は皮膚が垂れ下がっていて、至近距離で爆撃でも受けたように変形していた。
死体は私より年上の、しかし若い女のものだった。全身血まみれで髪の毛が短いので一瞬性別がわからなかったが、小さくも膨らんだ胸や股間におちんちんがないことから、それがわかった。
女の死体は裸だった。
私の目の前は死体を中心に鮮やかな赤色に彩られていた。
道路に、マンホールに、電柱に、自転車に、自動販売機に、ゴミ捨て場に、側溝に、民家の塀に、マンションの一階のベランダに──視線を巡らす限りのあらゆる箇所に血が届いていた。
夏の太陽の暑さにめまいと吐き気を覚えながら、私はこの死体が身を投げたのであろうタワーマンションを見上げた。
けれど私の貧弱な眼球は激しい光線によって失明したように眩み、その屋上まで到達することは叶わなかった。
死体から流れる血が、道路の細かな溝一つ一つに沁み込んで、あたりを血の海にしていく──。
そして死んだばかりの人間の臭いは私の鼻の穴を見つけると、ものすごい速さでなかへ入り込んできた。
蝉が近くで鳴いていることに、今ようやく気づいた。
周りには人の気配がまったくない。車の音も聞こえない。人工的な物音が一切しない──。
私はその光景に見入った。
やがて蝉の鳴き声がさらに大きくなり、耳障りに感じられてきた頃、私はようやく現実を現実として認識し始めた。
私は止めていた足に命令を送り、死体と死体の血をよけて、本当なら毎日使っているはずの通学路をまたぎこちない足取りで歩き始めた。
死体を振り返ったりはしなかった。
夏の朝の生温かい空気が吐き気を催す臭いとともに私の肺を満たした。
私は嘆息し、しかし安心していた。
何年かぶりに見た自分以外の人間が、もの言わぬ死体でよかったと。
もう一度空を見上げた。見上げずにはいられなかった。
私は雲の彼方に想いを馳せ、自分の夢がもうすぐ叶うことを確信した。
私は小さな笑みを浮かべながら、静まり返った世界を一歩ずつ踏みしめていった。