第23話:強襲
第二都市インティス――路地裏。
酒場で祝宴を上げたフィリとルミネが気分良く、夜の路地裏を歩いていた。
「そういえば、フィリさんは修練所? に住み込みなんでしたっけ」
「うん。修行という名目で掃除と料理とかする代わりに家賃タダにしてもらってるから助かってるんだ」
「フィリさんは偉いなあ……」
資金に余裕があるためそれなりに高い宿屋に泊まっているとは言い辛く、結局ここまで何処に泊まっているかについては言葉を濁していたルミネだった。
「修行の一環だからね。それにカエデさんもダラスさんも良くしてくれてるし。時々イジワルだけど……」
「ふふふ……なんだか家族みたいで羨ましいです。私には家族と呼べるものはありませんでしたから」
ルミネは思い出す、アガニスの図書塔に籠もっていた日々を。今思えば悪くない日々だったが、あの頃はとにかく退屈だった。
本とランプ、そして星空だけが家族だったのかもしれない。
「いつか、ルミネの住んでいた塔にも行ってみたいなあ」
「いつか行ってみましょう。冒険者はDランクに上がると、一度登録した街とは別の街で活動をしないと、それ以上はランクが上がらないそうですし、旅に出ても良いかもしれませんね」
「なんか、ランク上げって大変そうだよね。結構依頼受けてるけど、全然Eランクに上がる気配ないし……」
「くーん」
レギナが、もう少しの辛抱よと言わんばかりにフィリを慰めた。
「あはは、ありがとう。そうだね、頑張るしかない。とにかくEランクに上がるにはひたすら依頼をこなすしかないし」
「はい。明日も頑張りましょう」
「明日もよろしくね、ルミネ!」
二人が笑顔でそう言い合っていた時、レギナは一人、不穏な空気を察知していた。
「コン!」
「へ? 何か来るって?」
「……っ!! フィリさん! 上です!!」
ルミネが警戒の声を発したと同時に、巨大な何かが二人の目の前に降ってきた。それはあまりに重いのか、着地すると地響きが鳴り、石畳の地面を割れるほどだ。
「見……つけたぞ!! フィ……リ!!」
それは――銀の重鎧を全身に纏い大剣を構えた、重戦士と喚ばれる類いの姿をした男だった。顔はヘルムで見えないが、隙間から見える目はなぜか赤く発光しており、息が荒い。
そして何より、その声にフィリは聞き覚えがあった。
「貴方は……バンダルさん!?」
それは、【遊撃する牙】に所属していた重戦士バンダルだった。彼は男色であり、特に顔の良い少年が好みだったため、常にそういう目でフィリを見ていた。
フィリにはそれがたまらなく嫌だったが、幸い手を出されることはなかった。
「フィリ……フィリ……フィリ!! 俺の……物となれ!! ウガアアアアアアアア!!」
バンダルが獣のような雄叫びを上げると、大剣を一閃。
「ルミネ! 戦闘援護お願い!」
「はい!」
大剣をバックステップで避けたフィリの言葉にルミネも素早く反応し、杖を掲げた。
「どなたか存じ上げませんが、喰らいなさい!――【アンバーショット】」
ルミネの杖から、土属性と金属性を組み合わせて出来た魔術――雷を纏う石つぶてを放った。
高速で射出された雷弾だが、バンダルは異常なほどの膂力で、降っている途中の大剣の軌道を無理やり変え、それらを打ち落としていく。
「うそ……それになんで雷撃が効いていないの!?」
重装備の相手には雷が効くと思っての選択だったが、結果としてダメージを与えている気配をルミネを感じ取れなかった。
「バンダルさん、なぜ!」
「アアアア!! 殺す殺す殺すぅうううう!!」
カエデに匹敵するレベルの速度で迫る大剣に、フィリが左手の短剣――黒天を合わせた。
「っ!?」
金属音が路地裏に響き、火花が周囲を一瞬明るくした。
フィリの手に残るのビリビリとした痺れる感触。上手く合わせたつもりだったのに、直撃を防ぐのが精一杯だった。
「ウガア!!」
更に連撃を重ねてくるバンダルに対し、短剣を使い防いでいくが、本来、とっくに発動しているはずの武器破壊が効いていない。
「どうして!?」
「フィリ君、この人とこの人の武具に……何かしらの魔術が掛かっています!」
魔力で目を凝らしたルミネがバンダルを見ると、その身体と武具に不吉な黒色のオーラが纏っていた。
「武器破壊が出来ないのはそのせいかな!?」
「分かりませんが、魔術も効いていないみたいで厄介ですし、何よりこの人……」
ルミネは冷静に観察すると、その異常な姿をどこかで見たことがある気がしてきた。
「そうか……この人……あのオーガと似てる」
フィリと初めてパーティを組んだ時に倒したゴブリンシャーマンとオーガのコンビ。あの時の赤いオーラを纏ったオーガと似ているのだ。ヘルムで顔は見えないが、きっとこの人も苦悶の表情を浮かべているに違いない。
「つまり……フィリさん、警戒してください! おそらくどこかに魔術師がいます!!」
重戦士強襲




