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第11話:カエデ

 翌朝


「おはようございまーす。あれ? 扉は?」


 倦怠感を感じながらも修練所にやってきたフィリだったが、どうも修練所の様子がおかしい。


 まず、扉がまるで爆発魔術を喰らったかのようにひしゃげている。良く見れば扉の外側に、足の形をした跡が残っていた。


「ん? 誰だ?」


 そう言って出てきたのは、全身痣だらけになったダラスだった。だがその顔からは邪気が抜けており、どこか晴れ晴れしたような表情を浮かべている。


「あ、ダラスさん。フィリですよ」

「あん? いや初対面だと思うが? まあいいや、悪いが修練所は今やってなくてな。っていうのも俺以外の奴が全員倒れちまって。ったく情けねえ。誰か知らんがまたにしてくれないか」


 まただ。昨日あれだけ一緒に訓練したのに、なぜか自分のことを忘れている。フィリは、今朝からまたレギナの姿が見えないところも、ガルド達の時と同じだと感じていた。


「まさか……何かに襲われたんですか?」

「その通りだよ。狐耳のおっかねえ女でな。狐獣人って言うのかね? とにかく、俺達全員がボコボコにされちまってな。んでよ、気付いたら居なくなってたし、何か言っていた気がするんだけどいまいち覚えてなくてな」

「狐獣人……ガルドさんの時と一緒だ」

「あん? ガルド? Aランクのいけ好かねえあいつか?」


 ダラスがそう聞き返そうとした時、風が吹いた。フィリが気配を感じ、振り向くと――


「おそらくガルドの坊やを襲った奴と、うちを襲撃した奴は同一人物だろうな。私のいない時に来るとは、やれやれ……運の良い奴だ」


 そこには青髪を後頭部で結った女性が立っていた。布を使った独特の衣装――遙か極東に位置するとある島国の伝統衣装――を着たその女性は腰に差した細く湾曲した剣に左手を置いており、興味深そうにフィリとダラスを見つめていた。


 フィリはその女性の柔らかな物腰の中に、どこか抜き身の刃のような鋭さを感じていた。

 この人……多分強い。フィリはそう感じずにはいられなかった。


「か、カエデ……さん、こ、これは!」


 ダラスが必死に言い訳しようと口をパクパクさせるが、


「おう。どうしたダラス。まるで憑きものが落ちたみたいな顔をしているぞ。まさか性根まで叩き直されたってか? あっはっは!」


 その女性――この修練所のトップであり、Sランク冒険者かつ王国一と名高い剣士であるカエデが、大笑いしながらダラスの肩にポンと手を置いて、そのまま中へと入っていった。


「お前は見たところ新人冒険者だろ? 今どきわざわざ修練所に来るなんて変な奴だな。面白いからあたしが見てやるよ。ほれ、入んな」


 カエデはそう言って、入口でどうすればいいか分からず佇んでいたフィリを手招きした。


「えっと……僕はフィリです。まだFランクですけど……強くなりたくて」

「私はカエデだ。で、こっちがダラス。他にも男衆がいるが全員ロクデナシでな。まあ私が面倒を見てやってるんだがお行儀がすこぶる悪くてなあ。迷惑かけるかもしれんが、それもまた冒険者だろ? あっはっは!」


 バンバンと背中を叩かれて困惑するフィリだったが、カエデはお構いなしに会話を続けた。


「で、お前は短剣使いか。しかも二刀流。それに……ふーん。面白いな。いや面白くない。嫌いだな。うん、嫌いな感じだ。ダラス!」

「は、はい!」

「ちょっと稽古付けてやれ。実戦形式で。手を抜くなよ」

「うっす!」

「あ、じゃあまた木剣借りますね」


 そう言って、フィリが鎧を脱いで木剣を借りようとすると――カエデがそれを制止した。


「いや、その腰の武器を使え。鎧もそのままでいい。ダラスも真剣使え。あん? 剣がない!? 折られた、だあ!? 馬鹿かお前! ちっ、もういい、私がやる」


 カエデがダラスを足蹴にしてどかすと、模擬戦スペースにいたフィリの前に立った。


「さて……まあ心配せずとも殺したりはしない。だけど――()()()()()()

「は、はい!」


 目の前の女性からただならぬ殺気を感じ、フィリが目を見開きつつ短剣を抜いた。昨日使った木剣よりも重いが、逆に手に馴染む感じがあった。


 その様子を見て、ゆらりと流れるような動きで腰の剣をカエデが抜き、構えた。それは花びらのような刃紋が走る、細く長く反りが入った剣で、持ち主同様に美しかった。


 ただ相手が構えただけなのに、なぜかフィリは圧倒されていた。嫌な汗が背中に流れる。


 昨日のダラスとの訓練とは比べ物にならないほどの恐怖を感じた。だがふと隣に気配を感じると、いつの間にかレギナが側に立っている。


 それだけで、フィリは自然と笑顔になれた。


「良い表情だ。では、虎天流師範……カエデ・キサラギ――いざ、推して参る」


 それが、訓練開始の合図だった。


みんな大好きもとい、私が好きなだけのポニテ女侍でござる……姉御系ですね


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ハイファン追放ざまあの新作です! 竜王の力で規格外でチートな国作りをする王道的なお話です! お楽しみください!

ハズレスキルというだけで王家から辺境へと追放された王子はスキル【竜王】の力で規格外の開拓を始める ~今さら戻れと言われても竜の国を作ったので嫌ですし、宣戦布告は部下の竜達が怒り狂うのでやめてください~



興味ある方は是非読んでみてください
― 新着の感想 ―
[一言] 抜刀術とかマスターしてるんだなー くノ一が仲間にいそうですね
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