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そのな~な!

時雨の一言あらすじ:ゴブリンをたくさんやっつけた。

 

 あれから早いものでゴブリンナイトの襲撃から三日経った。


 最初の頃は絶えず緊張の糸を張り巡らし、宿の窓から顔を出しては、通りすがる人を常に【鑑定】を使い眺めていた。

 私なりに警戒を緩めなかったんだけど、今は宿の窓から小鳥のさえずりを堪能するほどまでにリラックスしている。


 てか街の人から『窓から青い目をした女性が睨んできて怖い』とのクレームを受け、ハヤテからやめろと怒られたのが原因だったりはする。


 しかしあれだけゴブリンキングがどうのと煽られたわりには、ここ数日は平和そのものだった。そして私達は改めて町長さんに呼ばれ、ご自宅に伺った。


「ずっと足止めさせてしまって申し訳ございません。あれから暫く経ちますが、一向にモンスターが動き出す気配はございません。もしかするとあのゴブリンナイトの言葉は嘘偽りの虚勢の可能性も……そもそもゴブリンキングなんて存在は居ないのかも知れませんね」


 応接室に通され、温かい紅茶をお呼ばれしながら話を聞いているのだけども……うん、美味しいね、この紅茶! やっぱ人化っていいなぁ~!


 ちなみにハヤテは顎に手を置き悩んでいるみたい。折角の紅茶が冷めちゃうよ? 飲まないなら私が貰うよ?


「そうですね、あれだけの大軍を失った訳ですし、残存戦力はほぼ無いものと考えて良いかも知れません。もしくは恐れをなして逃げ出した可能性もありますね」


 まあ、この街にゴブリンキングが襲って来ないという保証は無いけど。でもそれを気にしていたらこの街で一生を過ごす事になっちゃうもんね。


 きっとはハヤテの強さに尻尾を巻いて逃げたに違いない! でもゴブリンって尻尾あったかしら……。


「それでは私達はこれから東にある水の都に向け出立します。宿に荷物を取りに行き、そのまま発たせていただきます。ご挨拶はこの場で……」

「そうでございますか。何から何までありがとうございます。またいつかこの街にお立ち寄り下さいませ」


 深くお辞儀をして見送ってくれる町長さん、礼儀正しくてとってもいい人だなぁ。

 それはそれとして、ハヤテは折角出してくれた紅茶は飲まないんだね。紅茶、嫌いなの? それとも砂糖が入ってないと飲めないお子ちゃまなのかな?


 ぷすぅ~♪ 可愛いいところあるじゃないの♪


 ≫


 隣を歩くハヤテはローブと杖を新調しており、刀を腰に二本差して片手に杖というマッチョな魔法使いとなっている。

 もう訳が分からない風貌だけど、本人は大満足しているのでもう放置する事にした。


 ちなみに余談になるけども、私の下着もしっかり購入してもらった。洗い替えがないと、ちょいちょいノーパン、ノーブラになってしまう。聖霊とはいえ、そこは人のルールにのっとらせてもらうわ。


 ゴブリン襲撃の時は夜だったからバレずに済んだけど、日中のノーパン、ノーブラは事案になっちゃう。具体的にはお嫁にいけなくなる。


 少し脱線しちゃったわ。話を戻して、ハヤテの戦闘スタイルは実際かなり特殊。使える魔法自体は最弱だけど、使い方が常軌を逸しているのがポイント。その工夫とアレンジは誰にでも出来るものではないとは思う。


 少しはハヤテの使う魔法を認めて行こうと思うんだけど、出来れば刀も使って欲しいのが本音ではある。特に時雨を使えばもっと楽になると思うんだけどなぁ。


 宿に着くと既に出立の用意はしてあったのか、すぐに荷物をまとめ終わったハヤテが部屋から出てきた。


 カウンターで店主さんと会話して、そのまま出口に向かわずに地下室に下りて……ってどこ行くの!?


「ちょっと、ハヤテ! そっちは出口じゃないよ!? どこに行くつもり!?」

「そんな事は分かってる。いいか、刀。俺とここで暫く過ごすぞ」

「うぇい!?」


 なんか変な言葉が出ちゃった……ち、地下室で? なんで? いや二人で過ごすのは嬉しいんだけども、何故に地下室? 出来れば陽の当たる高原とかに家を建てて住みたいんだけど?


 ハヤテの後を追い、地下へと続く階段を降り切ると、備蓄されている食料や水などが目にとまった。どうやらここは食糧庫も兼ねているみたい。


 土壁に囲まれ、辺りの空気は少しひんやりしており、少しばかり肌寒い。


 確かに食料を保管するには適した場所みたいだね。でも私は食料じゃないんだけど?


「刀は本体に戻れ。そのほうが俺も空間を広く使えるし、食料も消費しなくてもよくなる」

「嫌だよ!? というか私もご飯食べたいし!」

「ちっ……味を占めやがったな」


 その舌打ち聞こえてますけど? ここ地下室なんで良く響いて筒抜けなんですけど?


 でも味を占めたというのは間違っていない。だってご飯って……超美味しいんだもん!

 確かに時雨に戻ればお腹も空かないんだけど、もうあの味を知ってしまった以上、わざわざ戻るなんてことはしたくない。


「私は薄暗い鞘の中じゃなくて、これからは太陽の下で生きていきたいの!」

「ここはその鞘の中と同じ薄暗い地下だ、このノータリン刀。ちなみに脳足りんと言う意味だ」


 はい、解説まで付けてくれてありがとうございますぅ!


「それにしても……なんでこんな所に居座るの?」

「ここには食料もあるし、万一の時の避難所にもなる為、トイレもある。隠れて籠城するには持って来いの場所だ」


 隠れて籠城? 何故に?


「……お前はゴブリンキングが街を襲ってこないと思ってるのか?」

「え? ま、まあ可能性としてはあるかと思うけども。でもこれだけ平和だし、逃げ出しちゃったのかな~って」


 私の発言に深いため息を吐いて地面に腰を下ろした……なんか死ぬほど馬鹿にされたような気がする。


「たかが三日程度で襲ってこないと踏ん切りをつける町長……こそがゴブリンキング。俺はそう睨んでる。だから俺はあの場での飲食は避けた。まあ向こうさんも俺を警戒してたしな。白昼堂々と毒を盛られる可能性は低いとは思ったが一応、念の為にな」

「へぇ~、そうなんだぁ……って言って!? そういう事は前もって! 普通に私は紅茶すすってたし! 下手したら私、死んでたかもしれないじゃん!?」

「今、生きてるから大丈夫だ。それに毒で死ぬ刀なんて聞いた事がない」

「死ぬわっ!! あたしゃ聖霊だけども、人化してる時は体は生身の人間と変わら――」

「静かにしろ」


 ハヤテは即座に立ち上がり、体を壁に押さえつけられ、両頬を片手でつままれた。


 おかげで私の唇はタコさん状態……あの、何度も何度も繰り返すけど私、自分で言うのもなんだけど美少女なんだからね!? 結構スタイルや顔には自信あるんだよ?


 おっぱいの大きさ以外は……。


「ほひゅほひゅっ! ふぐぎゅ~!」

「ええい五月蠅い!」

「ふぉごおっ!?」


 タコさんのお口で必死に抗議していたところ、もう片方の手で口を押さえられてしまった。てか壁に後頭部ぶつけたけど!? いてえんですがっ!


 それよりもちょっと待って! そんな押さえ方されたら、息出来ないから! というかお手てにチューもしちゃってるよ!?


「……そうかですか、お二人は旅立たれましたか」

「ええ、先程お立ちになられました」

「うん! そうだよ、町長さん!」


 何か声が聞こえる……町長さんと店主さん、それにリリィちゃんの声!? 


「言っただろう、ここは避難所だ。地上の声が通るように細工された造りになってる」


 どうやら細いパイプのようなものから音が聞こえる。そうか、これが地上と繋がって……あ、あの、それはそうと、ちょっと真剣に苦しくなってきたんだけど?


「あの二人には大変お世話になりました。いつか改めてお礼せねばなりませんね」

「はい、そうですね。またお越しになられた際には是非、またうちの宿に案内させて頂きますよ。な、リリィ?」

「うん!」

「はは、そうしてあげて下さい。それでは私はこれで失礼しますね」


 ちょっとヤバいってば……なんか、力が入らなくなって、景色が白く……ハヤテってば……ハヤ……。


「やはりな……わざわざ確認しに来たという事は……っておい、刀、重いぞ。もたれかかってくるんじゃ……おい、刀!?」


 私を呼ぶ声が聞こえたけど、そこまでで意識は刈り取られた。ハヤテの手によって。



≪≪≪



 ぼやけた景色が映った……茶色の天井が見える。それになんか体が激しく動かされている感覚がある。胸の辺りかな……。


 意識が朦朧とする中、ハヤテが見えた。と思った途端いきなり唇が重なった。と同時に、信じられない空気の塊が肺に吹き込まれた。


 膨らむ、私、膨らんじゃう! 風船じゃないよ私は!?


「ぶはっ! 死ぬわぁ!!」

「ふう、危ないところだった……」


 目を見開きハヤテを払いのけて呼吸を整えた……い、今の何!? キスなの!? この前のゴブリンに射られた時と同様にムードの欠片もなかったんだけど!?


 女の子はそういのう大切にしたいんだからね! というか寝てる時に襲ってくるなんて一歩間違えば犯罪だからね!?


 ま、まあ好き同士なら許されるところもあるんだけど……。


 私の横で額の汗を服の袖で拭うハヤテ。珍しく相当焦っている様子……こんな表情は子供の時から見た事がない。


「だ、大丈夫? なんか汗だくになってるみたいだし、一体なにが――」


 うん? なんかスース―する……というか寒いんだけど?


 体を起こして下を向くと、可愛らしい小ぶりのおっぱいが見えた。うん、間違いなく私のだ。

 丸見えだね。ブラが完全に上にずらされてる……はっ?


「おんどりゃあああ! 何しくさってんじゃああああ! 夢と希望が詰まりに詰まった乙女のおっぱいが丸出しやないかいっっ!!」

「仕方がないだろう、命にはかえられん。止むを得なかったんだ。なにせ息してなかったからな。蘇生術を行うに辺り、邪魔な衣服を除けただけだ」


 はい? 息してなかった?


 あ、そう言えば口を塞がれてから意識が無くなって……危ねっ!! 私リアルに死にかけてるじゃん! とうかハヤテに殺されかけた!


「おい、気が付いたんなら早く服を着ろ。丸見えだぞ、その夢の欠片とやらが」

「おどれがひん剥いたんだろうがぁ!! 責任取ってよ!? もうお嫁に行けないじゃないの! それに欠片とはなによ、欠片とは! これで完品じゃいっ!」

「刀がお嫁とは奇怪な話だ」

「聖霊だって言ってるでしょ!? 聖霊はお嫁に行けるのっ!!」


 ああっ! もうヤダ、最悪! こんなのって、こんなのってないよぉっ! 乙女の純情がぁ……。


「分かった、分かった。じゃあ俺が責任持って月に一回は手入れしてやる」

「責任って刀の手入れじゃねえやい……! ちくしょぉぉ……!」


 床にしゃがみこんで泣きじゃくった……いろいろと大切な物をこの一瞬で失ってしまった……。


「ほんと五月蠅いな……とりあえずゴブリンキングが現れても刀はここに居るんだぞ」

「絶対嫌っ! そんな事言って私をほっていく気でしょ! 純粋無垢で可憐な美少女を汚したんだぞっ!? もう一生ついて行くからねっ!?」

「ああ、分かった、分かった」


 全く、最初からそう言って……え? い、今、了解してくれた?


「この刀はレイマン兄さんにいずれは返さないといけない。その為には肌身離さず持っておかねばならないからな。むしろ離れられたら困るのも事実だ」


 ……複雑だよ、その理由。


「だがこれから戦闘の際には絶対に俺の後ろから離れるな。そして危なくなったらすぐにこの刀に戻れ。命を最優先に考えろ。いいな、それが連れて歩く為の条件だ」

「あ、は、はい……」


 鬼気迫る表情を作り真剣に語られた……な、なんだろう。そんなに真剣に見つめられちゃうと、なんかドキドキしちゃうじゃないの……。


「よし。それではまずさっさと服を着ろ。夢が剥き出したぞ」

「そういう所を気遣い出来るようになってよっ! というか脱がしたのハヤテでしょ!」


 顔面真っ赤にしながら手の平におっぱいを収めて怒鳴った。


 くぅぅ、刀でも人化したらちゃんと恥ずかしいって感情が生まれてるんだからね!?



≪≪≪



 強姦から二日経ったその日の晩、今日も時雨を使った筋トレに励むハヤテを横目に私はパンを頬張ってる。


 腰に下げている時は足腰の高負荷トレーニングアイテムとなり、手に持つ時はダンベル代わりにされている私の本体……本来の使い方をされる日は来るのかな。


「ねふぇ、ハヤテいひゅまでふぉふぉにいふの?」

「口の中の物をしっかり処理してから話せ、このブタ刀」


 酷いっ! 遂に家畜にまで落ちた!?


 というか段々お口が悪くなってきてるよ!? ベルリバー家に居た時の兄や姉に対するあの謙虚さは何処に行ったの?


「んぐっ……誰がブタ刀よ! 誰が! それにそんなブタ刀を裸にひんむいて胸を晒したのはどこの誰よ!」

「遂に認めたか……」

「ブタ刀のくだりじゃねえやい! 大事なとこはそこじゃないから! 後半! 後半の部分だよ!」


 再びパンをかじって留飲を下げる事にした。


 まったく! 本当にデリカシーの欠片もない奴! 女の子の扱いを一ミリも分かっちゃいないよ!


「ハヤテお兄ちゃん! 時雨お姉ちゃん!」


 パンをリスのように口に頬張っている最中、血相を変えたリリィちゃんが地下室に下りて来た。


「ふぃふぃふぁん!? うぐっ!?」


 喉にパン詰まったぁ!? や、やばい! し、死ぬぅ!?


「やはりノータリン刀だな。何度同じ過ちを繰り返せば気が済むんだ?」

「きゃあ!? お姉ちゃん!? 大丈夫!?」


 窒息死しかけている私を心配してくれるリリィちゃんを尻目に、ハヤテはその光景を尻目に時雨と桜雨を置き、代わりに杖を持ち直していた。


 だ~か~ら~あ~……持ってけってばぁ、刀をよお!?


「リリィちゃん、俺の刀二本とそこで喉を詰まらせてる奴の世話を頼めるかな。それといいかい、ここから絶対に出ちゃダメだ。必ず迎えに来るから待ってくれ」

「んぐんぐっ……ぷはぁ! 待って、私も行くってば!」


 飲み物で喉のつかえを押し流し、素早くにハヤテの腕にしがみついた。どうだ、乙女の必殺技『胸が当たってる? いえ、当ててるんですよ?』攻撃は!?


「汗臭いからくっつくな」

「酷っ! 臭くないし! それに汗ならハヤテの方がかいてるし! ほらその証拠に……すんすん……あれ、いい匂い?」

「匂いを嗅ぐな、気持ち悪いぞ。この匂い刀」


 もはや刀なの袋なのか分からない名称に!?


 でもなんであんなに汗かいて筋トレしるのにいい匂いしちゃうのよ!? イケメンは汗まで香ばしいの!?


「刀と遊んでいる時間はない。仕方ない……だがリリィちゃんはそこに残るように。少し刀臭いかも知れないが我慢してくれ」

「うん!」

「おお~い! 二人共酷くない!? なに、刀臭いって!? 錆び!? 錆びの匂いなの!? もしくは汗の――って腕ぇ!!? もげるっ!? そんなに強く引っ張たら腕取れちゃうってばっ! ちょい、聞いてる!? ねえっ!?」


 私が叫ぶ中、ハヤテは私の手を引いて地上への階段を登って行った。そのあと、何度か浮遊感を味わった。何回か浮いたよ?


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