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そのろくぅぅ!

時雨の一言あらすじ:ハヤテがゴブリンを手あたり次第に叩き出した。

 

 顎、胸、鳩尾、テンプルと、急所へと寸分の狂いなく、そして躊躇なく急所へ流れるような動きで炎をまとった打撃を見舞い、次々にゴブリンを倒していくハヤテ。


 すでに倒れて動かなくなったゴブリンは二ダースを超えている。


「せいっ、はっ! ふんっ!」

「ぎゃわっ!! ぎょ、ぎゃふ……」


 急所へ疾風怒濤の三段攻撃が見事に決まり、ゴブリンの断末魔が響いた。


 次から次へと迫りくるゴブリンを、炎の掌底で打ち倒していくあの技は……母上仕込みの体術、確か十六夜の舞ってやつだ。


 ハヤテの流れるような動きにつられて揺らめく炎に、ついつい見入ってしまっていた。


 闇の中に猛る炎は、まるで演武でも見ているかのような華麗さがあった。いっそのこと炎武とでも名付けた方がいいのかも。


 ハヤテはその後も合気道と拳法の合わせ技みたいな体術を駆使し、華麗にゴブリンを蹂躙していた。


 尚、倒れたゴブリンは微動だにしていない。おそらく絶命しているっぽい……そう言えばゴリラパパもママさんの一撃で動かなくなってたもんね。


 ゴリラの方は並外れた生命力があったから二時間ぐらいしたら目を覚ましていたけど。


 確かに颯も合気道は会得していたけど、ここまで攻撃的な動きじゃなかった。どうやら世代を紡いでいる間に、こちらの技術と融合して新しい戦闘法に進化したみたい。


「な、なんだあいつ……どっちが化け物か分かったもんじゃないぞ?」


 いつの間にやら集まったフル装備の冒険者さん達がハヤテを遠巻きに見ながら漏らした。


 確かに炎を拳にまとわせてモンスターをどつきまくる光景なんて、私も長年、刀やってるけど初めて見たわよ……。


「どのゴブリンだぁ!? 俺の杖を壊した奴はっ! ふんんっっ!」


 あ、完全に逆恨みしてる……そういえば爆発魔法って着弾と同時に爆発する特性があるんだっけ。


 あの時、私は目を閉じていたから全て見た訳ではないけど、ハヤテは着弾の際に飛んでくるつぶてや、飛来する爆発魔法を杖と自身の体で受け止めてくれてたんだと思う。


 なんだかんだ言ってしっかりと守ってくれる……そんな風にされたら、惚れてまうやないかい! いやそれ以前にも既にその傾向はあったけどさ……この女たらしめ♪


 体をくねらせながら再びハヤテに目を向けると、変わらずにゴブリンをフルボッコで沈めており、ゴブリンが持っていた松明が周辺に放り出され、遠目からでもハヤテの活躍がより鮮明に伺えるようになっていた。


 周りの炎の明かりと、揺らめく拳の明かりで照らし出されるその姿がいよいよ神秘的にすら見えて来た。


「ヤバ、超かっこいい……」


 思わず内股になって先程から握っているハヤテの刀を抱きしめた。


 って、別にあんたの事が好きなんじゃないからね!? あんたの御主人様が好きなんだからね! 勘違いしないでよね!?


 聞こえてはいないだろうけど一応、先輩刀としてツンデレではないことをハヤテの持参した刀、桜雨ちゃんに忠告しておいた。


「お、おい、あれって……もしかしてゴブリンナイトじゃないか?」


 モブ冒険者さんが指差す方向に、渋々ハヤテから目線を外しそちらに目を向けた。


 そこにはかつての持ち主から強奪したのであろう、完全武装のフルアーマーを装備した、一回り大きなゴブリンがハヤテの方に向かって歩み寄って来ているのが分かった。腰には立派な剣も帯刀されている。


 その装備から、完全に素手で勝負出来る相手じゃない事は一目瞭然だった。

 私は咄嗟にその鎧ゴブリンを【鑑定】した。もち、人が居るから無言でね。



 ゴブリンナイト【魔真化】


 LV37  


 HP 4250/4250

 MP 222/250


 力    305

 魔力    68

 素早さ  173

 体力   298

 頑丈さ  197

 知力    35


 スキル 剣術LV5 爆発魔法LV2  

 特技  なし



 強っ!? さっきのゴブリンとは桁違いの強さがあるんじゃない!?

 普通、ゴブリンの上位個体なんて毛が生えた程度がデフォじゃないの!? それに特技こそ持ってないけど、剣術を使えるゴブリンってなによ!?


 しかも爆発魔法も使え……あ、こいつだったんだ、遠くから私達を狙撃してきた奴は!


「ちょっとそこのモブ君! この武器をあそこで戦ってる人に渡してきて!」

「モブ!? お、俺の事か!? 俺の名前はスプ――」

「名前なんて聞いてないから! 早くしてっ!」


 私の鬼気迫る顔に凄く悲しそうな表情をしながら桜雨を受け取ってくれた。ちょっと強引さはあったけど、ごめんね、モブ君、今は一刻を争うの。


 ステータスを見たところによると、日中に出会ったインフェルノに比べれば全然可愛く思えてしまうのだけど、錯覚してはいけいない。このクラスのモンスターなら簡単に単騎で町一つぐらい壊滅させれる力を持っている。


 それに何より、相手が金属の鎧と武器を装備しているのも具合が悪い。ステータス以上の脅威があるのは見て取れる。


「……オ、マエ、ツヨイナ。ワガ、ドウホウ、スデ、デ、スベテ、タオス、トハ」


 そのたどたどしい声が聞こえた瞬間、刀を渡したモブ君と一緒に驚愕した。


 ゴブリンが……喋った!? 魔法も使うし、そんな賢いゴブリンなんて聞いた事ないよ!? ぐぎゃぐぎゃ言ってるだけじゃないの!?


「お前だな? 爆発魔法を使った奴は……。おかげで杖とローブがお釈迦になったじゃないか! それにぞろぞろ連れて来やがって!」


 ゴブリンナイトとハヤテがやり取りしている最中、背後から小癪にもだまし討ちを狙い、同胞の死体に紛れて足音を忍ばせて迫る最後のゴブリンが居た。


 しかし、ハヤテの間合いに入るや、後頭部にも目があるのか、ノールックの裏拳が眉間に決まり、黒煙を上げながら地に沈んだ。


 これでゴブリンは全滅となり、ハヤテだけで百匹以上を相手して倒した事になる。インフェルノ戦で消耗しきっている筈なのに……馬鹿げた体力の持ち主だわ。


「コチラモ、ヨソウガイ、ゴブリンキングサマ、ゲキドスル……ダカラ、オマエ、コロシテオク」


「そのキングとやらが激怒するからなんだって言うんだ。街を襲ったのも当然許せないが、俺の装備をダメにしたのは尚許せん! それにやれるものならやってみろ。俺の初級火炎魔法とっておきで返り討ちにしてやる」


 ゴブリンナイトは腰の剣を抜き、ハヤテは構えを取り直した。


 なんか盛り上がっちゃってるけど、確かにインフェルノとは違ってゴブリン相手なら火の魔法属性は多少は有効だと思う。


 でもね、魔真化っていう謎に強いゴブリンを一人で百匹以上撃破したのは偉業だけど、九十九%は体術によるものだからね? ゴブリン達は完全に打撃で沈んだ訳であって、決して魔法に屈した訳じゃないからね? そこ、勘違いしないでね?


「おい、姉ちゃん、あいつは武道家なのか? 魔法使いなのか? それとも剣士なのか? そもそもこの武器って渡す必要あるのか?」


「そんなに一度に質問しないでよ! あれは剣士! ああ見えて立派な剣士なのよ! さっさと渡してきて頂戴っ!」


 困惑しているモブ君とそんなやりとりをしていると、ゴブリンナイトとの戦闘が始まってしまった。


 ちょっとぉ! グズグズしてるから間に合わなかったじゃないの! 役に立たないんだからぁ! だからモブなのよ!


 ハヤテに迫るゴブリンナイトの剣速は想像以上に早く、まるで騎士の訓練を積んだかのような剣捌きだった。


 剣術LV5は伊達じゃないって事ね……。


 でもハヤテはなんとか自慢の体術で剣撃を躱していた。


 そんな二人が再度距離を縮めた瞬間、大きな鈍い金属音が鳴り響き渡った。

 そのあとすぐさま再びお互いに距離を取ったのだけども、ハヤテの胸は浅くてまはあるが切り裂かれ、シャツから血を滲ましていた。


 ……やられてるじゃないの! 致命傷じゃないだろうけど結構痛そうだよ!? 私だったら痛くて号泣してる自信があるもん! 


 それにしても何よあれ……本当にゴブリンの動きなの!? ハヤテの攻撃はヒットしてるみたいだけど、やっぱりダメみたい、だって――


「キカナイ、スデデハ、コノヨロイ、クダケナイ」


「その鎧、なかなか固いじゃないか……拳じゃ厳しいか……」


 まさかあのハヤテに先制で一撃入れてくるなんて……それにやっぱり素手じゃ攻撃力が足りないみたい。

 もうっ! だから刀を使えって言ってるのに! ハヤテなら斬鉄ぐらい出来るでしょ!?


「シ・ネ」


「嫌な……こった!」


 振り降ろされた剣を紙一重で避けると同時に、遠心力を用いた鋭い蹴りをゴブリンナイトの胴体に放つハヤテ。

 その際、いつの間にか両拳にまとっていた炎は消えており、代わりに足にと集まっていたのが見えた。


 その様子を見た次の瞬間、金属の砕けた音が響き渡り、その刹那、生々しい肉をえぐる音も聞こえてきた。


「バカ、ナ……?」


初級火炎魔法とっておき【肆式 弓張ゆみはり】……俺の魔法を舐めてるからこういう目に合うんだ」


 燃え盛る軸足を地面に食らいつかせ、ゴブリンナイトのお腹に足を突き刺しながら語っていた。

 きっと内臓が焼け焦げちゃってるね。そういう効果もあるんだね……火炎魔法の最大限の威力を発揮しているね。


 それにしても魔法のおかげで鎧を大破させた感を出してるけど、ちょっと待って。確かに掌底よりも蹴りの方が威力はあるんだろうけどさ、でも魔法の力で攻撃力自体が上がった訳じゃないよね?

 それ、魔法じゃなくて自力で貫いたんだよね。ぶっちゃけ、鎧を蹴りで破壊出来る程の体術を使う魔法使いなんて居ないよ?


 ゆっくりと緑の血がまとわりついた足をゴブリンナイトの体から引き抜くと、追い打ちをかけるように軸足を入れ替え、ゴブリンナイトの顎めがけて蹴り上げた。同時に両足の炎も消えたのが松明の光で見えた。


 ハヤテのその姿は服は焼け焦げ、ズボンも同じく焦げて裸足になっていた。


「あのあんちゃん、一人で百匹を超える統率の取れたゴブリンと更にゴブリンナイトまで倒しやがった……一体何者なんだ?」

「勇者だ……あの人は勇者だ!」


 隣で呆気にとられているモブ君に変わり、誰からともなく発した言葉に周囲がざわつき始めた。


 まあ、魔王を倒した末裔ではあるから、あながち間違いはないんだけど。勇者ではないんだよね~。


 ハヤテにもその声は届いたようでこちらに向き直った。


 雄々しい姿勢ではあるんだけど、服が焦げてしまって半袖、半パンみたいになってしまっており、まるで小さな子供の服を着てるみたいだった。

 少し笑いが出そうになったのを、それはもう必死で堪えていたのは内緒のお話。


「俺は勇者なんかじゃない……魔法使いだ」

「いや、百歩譲って勇者じゃなくても、完全に武道家の動きだろ!? 魔法をまとわせて戦うのは珍しかったけど、それよりも武術の方が断然すごかったから!!」


 周りからのツッコミを乗せた称賛の声に、少しばかり不機嫌そうな表情になるハヤテだったけども、無事ゴブリンの襲来を防ぐ事が出来た。


 ただ、ゴブリンキングなる存在を聞いてしまった以上、この先の決戦は避けては通れないと思う。


 それにしても一歩外に出れば四天王と遭遇して、街に着けば着けばで大群で押し寄せるゴブリンに襲われ、更にその上位個体と死闘を繰り広げたあげく、親玉まで目を付けられたかも知れないなんて……。


 不運にも程がない? 私って呪われてるのかな……将来は魔剣になるのかしら。


「しかし、実は言うとこの技はあまり使いたくなかった。いちいち服が燃えてしまうのがこの技の何よりの弱点だ」


 私の方に帰って来て愚痴を漏らしていたのだが、それならば言わせて頂こう。


「じゃあ刀を使えば?」

「いや、いい。これも魔法使いになる為の修行の一環だからな」


 ダメだ……本当に刀使うつもりがないらしい。そのままぺたぺたと素足のまま、ハヤテは宿へと向かって行った。


 その後ろ姿は……ちょっと面白かった。



≪≪≪



 翌朝、町長さんに呼び出されたハヤテと私は街の中央部に位置するご自宅へと向かった。


「まずはお礼を言わせて下さい。この度はディストの街を救って頂き、ありがとうございます。この村に住む全ての住人を代表しましてお礼申し上げます」


 応接室のような所に通されて深々と頭を下げるのはこの街の町長さん。なかなかの男前さんでナイスミドル。若い子からマダムまで人気が出そうな容姿と顔立ちね。独身かしら?


「いえいえ、通りすがったのも何かの縁ですから!」

「なぜ刀が偉そうにするんだ? お前は何もしてないだろ」


 うぐっ、確かにそうだけどさ……。てかいい加減に名前で呼びなさいよ……。


「しかしこれほどまでモンスターが活発に動き出すとは……それに統率の取れたゴブリンの襲来。強さも以前までのものとはケタ違いです。ひと昔前までこんな事はありませんでした……これはもしや魔王が復活した証かも知れません」


 この前に遭遇した四天王が居る以上、もう魔王の復活は確実なものだとは思ってる。

 確かにその影響でモンスターが活性化してるのかも知れない。現に謎の魔真化なんてスキルが付いてる訳だし。


「魔王か……やはり魔法が得意なんでしょうか?」

「はい? そ、そうですね、魔の王というぐらいですからきっとそうなのではないでしょうか? 私には詳細は分かりかねますが……」


 何を質問してるんだか……町長さん、困っちゃってるじゃないの。ちなみに私は何処かの誰かさんみたいに、魔法がロクに使えない人が魔王をやってるとは思わないよ?

 まあ、実際には魔法も使うし、剣も使う、何でもありの存在だったけどね。実際戦ったから身に染みて知ってるもん。


「魔法を得意とするのなら個人的に少々興味はあるが……それに比べてゴブリンキングとかいう奴は魔法はロクに使えなさそうだな。そいつって本当に強いのですかね?」

「少なくとも先日のゴブリンナイトよりは手練れと考えるべきでしょうな。そして重ね重ね申し訳ありませんが、どうぞお力を貸していただけませんでしょうか」


 深く頭を下げて再びお願いされた。先ほど以上の脅威が迫っている訳だから、戦力としては逃がしたくない存在なんだろうけど。てかハヤテはどうして魔法の有無に興味示してるのよ……。


「ねえねえ、ハヤテ、助けてあげようよ」

「ああ、もちろんだ。目の前で助けを請われて逃げ出すようじゃ、ベルリバー家の名が廃ってしまうからな。それでは家族にも申し訳が立たない。協力させてもらいます」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 町長さんは何度もお礼を述べられ、私達は再び宿に戻った。


 次の相手はゴブリンキングかぁ……。どうせまた馬鹿みたいに強いんでしょ? 旅の始まりなんだからもうちょっとイージーモードにしてくれないかなぁ……。


 急に濃過ぎるわよ……つい昨日まで私、一日中、ぼ~っと風景を眺めてたのよ?



≪≪≪



「ふむ……」


 宿に戻ってくるや、なにやら本を片手に難しい顔をしながら悩むハヤテ。


 この世界において本は貴重な物であり、大変高価な物となっている。って颯は言ってたけど。

 まあ、間違いなく実家から持ってきた物だと思うけど何の本だろう。もしかして大人の本かな? ドスケベね。


 ハヤテもお年頃ってやつだもんね……でもちょっと内容は気になるかも。ハヤテってどんな性癖なのかしら? 美少女系? お姉さん系? 巨乳系だったらその本は窓から捨てさせてもらう。


「ねえ、ハヤテ、一体何の本を見てるのぉ~? も・し・か・し・て、女の子には言えないやつぅ?」

「刀の脳みそでは理解出来ない内容が書かれた本だ」


 あ、そっか。私じゃ理解が出来ない内容の本なんだ~!


 って馬鹿にし過ぎじゃない!? とかなんとか言ってアブノーマル系の本なんじゃないの!? 男の子なら秘蔵のアイテムのひとつやふたつ持っていても不思議じゃないかも……ここは徹底的に洗い出してやるわ!


「ふふ……舐めないで欲しいわ! 私だって聖霊の端くれよ? 長年生きて知識量はそんじょそこらの人とは比べ物にならないぐらい凄いんだから! いいから見せて見なさい! それとも本当に女の子には見せられないものなのかな? それなら仕方ないけどね!」


「ほう、そこまで言うなら見てみるか?」


 まあ、えちえちな本ってのはもちろん冗談だけどね。十中八九どころか、ほぼ100%の確率でそんな変な本ではないことは分かってる。でもちょっと悔しかったから意地悪してやったのよ。


 ハヤテから差し出された本を鼻息を一つ上げてから開いた……中身はこれでもかという程の文字の羅列だった。


 いやいや、騙されてはいけない。万に一つの可能性として官能小説の可能性もあるもんね。じっくり中身を読めば内容が暴かれ……暴かれ……。


 しばらく本を持ってにらめっこしていたのだけど、優しく本を閉じた。

 冷汗がこめかみから流れ出たのを感じつつ、平然を装ってハヤテに返した。本を手に取ってものの数十秒だったと思う。


 まず、小さな字がこれでもかと言うほど敷き詰められていた。そしておそらく兵法について書かれているのだろうけど、訳が分からない用語と難解な文章で綴られていた。


 この本を読む為には用語を調べる本が必要だよ……。


「そう言えば私、お買い物に行かないといけなかったんだ! また今度ゆっくり読ませてね!」

「だから言っただろうに。ちなみにこの本はシエル姉さんが書き綴ったものだ」


 シエルちゃんて頭いいもんね! そしてそれを見て理解するハヤテも。もう姉弟揃って博識さんなんだから!


「それに買い物と言っていたが、金なんか持ってないだろ。万引きでもするつもりか? この泥棒刀」


 なんか泥棒猫みたいな言い草……というか私の呼び名のバリエーションがどんどん増えていくんですけど? ねえ、毎回考える方が辛くない? いいんだよ、時雨って呼んでくれてさ!


「時雨お姉~ちゃん!」


 ドアの向こうから無邪気な声が聞こえて来た。あの無邪気な天使の声はリリィちゃんだね! 良し! ナイスタイミングだよ! このまま誤魔化しちゃえ!


「は~い♪」


 ドアを開けると今日も満面の笑みが可愛らしい女の子が映った。うんうん、子供は元気が一番だね!


「時雨お姉~ちゃん! あのね、パパがもう一部屋用意出来たって!」

「ほう、それは助かる」


 私がリアクションを取るよりも早く、背中から声がかかった。


 ええぇ……このままで良かったのにぃ。ナイスタイミングだったけどバッドニュースだよリリィちゃん……。


「おい、刀。俺は宿の店主と話してくる。その間にちゃんと自分の荷物はまとめておけ」

「はぁ~い……」


 なんか追い出される感じだよ……でも今までが異常だったんだもんね。若い男女が同じ部屋っておかしもんね……。

 でもベッドは譲ってくれたし、紳士な一面は見れたし、ぶっきらぼうに優しさには触れる事が出来たよ……。ちなみに、聖霊に年齢はあってないようなものだけど。


「よし、リリィちゃん、パパの所に案内してくれるか?」

「はあ~い!」


 それにしてもあの魔法以外には不愛想なハヤテが随分とまあ……初めて会った時には手も繋いでいたし。


 ……ま、まさか、ハヤテってロリコ――


 瞬きをする間にクッションが顔面に向かって飛んで来て、綺麗に麗しい私のお顔にめり込んだ……いや、地味に痛いんですけど? 


「邪気を感じたんだが……気のせいか。てっきり刀の悪霊にでもなったのかと思った」

「誰が悪霊じゃい! せ・い・れ・い! 何度も言わせんな! むっきぃぃい!!」

「済まない、五月蠅い奴で。昨夜からずっとやかましくしてしまったからな。俺からしっかり詫びておく」


 おお~い、私の事を謝りに行くんか~い……。


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