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そのよぉぉん!

時雨の一言あらすじ:いきなり四天王が出て来て絡まれた。



 

「魔法使いだぁ? 笑わせるんじゃねえ、お前のその体つき、何処からどう見ても明らかに戦士じゃねえか」

「笑わせるポイントが何処にあった? 本人がそう言っているんだ。もう一度だけ言ってやる。俺は魔法使いだ」


 さっき私達に喋るなと言っていた、四天王インフェルノが興味を持って聞き直してるし……。

 まあ、その疑問は私も同意見だからツッコまずに聞いておこう。それにもうジョブチェンジして魔法使い業を始めちゃってるよ……。


「その証拠に俺が修練に修練を積んだ、【初級火炎魔法(とっておき)】を見せてやろう」


 可愛い火の玉を手の上に浮かべたところ、インフェルノから笑いが起こった。


 でも何も間違っていない。そこは間違いなく笑う場所だとは思う。私は笑えないけど。


「くはっ……に、人間! 面白いじゃねえか。このインフェルノ様に向かって火で挑む事もだが、魔法も魔法だ! まさかそのカスみてえな火でおしまいじゃないよな!?」

「これが俺に使える最高にして最大の唯一使える魔法だ」

「くくっ……ぐ……だあっはっっは!!」


 インフェルノが耐えきれなくなってお腹を抱えて笑い出した……もう完全にツボに入ったらしい。


 ちなみに何度も言うけども私は笑えない。


 相手は魔王直属の四天王、さっき見た恐ろしい高ステータスを誇っている。今も油断しまくってふざけているけど、強さは折り紙付き。正直逃げたい。


 でもまあ、時雨本体が重くて逃げれないけどね……。自分で言うのもなんだけど、人化して初めて感じましたよ、自分の重さを。


 私ね、万が一、いえ、億が一生き残れたらダイエットするんだ……。


「ガハハっ、はぁはぁ……た、堪らねえ、こんなに笑ったのは久しぶりだぜ? いいぜ、俺を笑わせてくれた礼だ。お前の全力をぶつけて来な。俺は一切避けねえで受けてやるからよぉ?」


 もはや笑い過ぎて涙目になりつつハヤテを挑発している……。でも悲しいかな、ハヤテの魔法じゃダメージなんか入らない。


 ゴブリンですら『あっちっち!』程度だったし、ましてや今度の相手は四天王、更に火属性持ち……。


 私、今度生まれ変わったら何になるのかなぁ。高枝ばさみとかだったら、ちょっとやだなぁ……。ほら、毛虫とか嫌だし。


「ほう言ったな、絶対後悔させてやるからな。刀、お前、少し下がってろ」


 先程から掴んでいたハヤテの足から手を離し、後ろに下がった、ちなみに時雨は引きずった。


 いやこれ、マジで重いんだけど……。


 手の平の浮かべた火の玉をインフェルノに向け、狙いを定めるハヤテ……この子、さっきから冷静だけど本当にそれでどうにかなるかと思ってるのかな? ここまで来るとマジで頭の病気を疑うよ?


「だっはっはっ! さあ、来いよ?」

「俺の初級火炎魔法とっておきを舐めるなよ?」


 ハヤテの手の平から打ち出された火の玉ちゃんは、インフェルノに向かって真っすぐ飛んで行き着弾した。


 宣言通り直撃を受けるもの、表情は先程と変わらず笑いを浮かべたままだった。

 少しばかりの黒煙をスス汚れと黒煙を上げただけだった。もちろんノーダメージですよね? はい終わったぁ……。


「ハヤテぇ……」

「破っ!」


 もう一発飛んで行った。


「もうダ――」

「破っ!」


 私の泣き事を無視して一発、更にもう一発、尚、一切インフェルノには影響はない模様……だったのだけど、その後もインフェルノに向けられた手の平からは途切れる事なく火の玉が出続けている。


 その数や十発、二十発、三十発ぅ!? それに回数を追う毎にどんどん間隔が狭まって……こ、これって魔法を連射してるのっ!? 


「お、おい!?」


 初めてインフェルノが焦った声を出した。しかしハヤテは連射を止める事なく、左手も向け言葉を放った。


初級火炎魔法とっておき【壱式 さく】!! 」


 技の名前、むずっ!? その言葉どう意味よ!? サクってなによ! にしても魔法の両手打ちって何気に凄くない? 実質、倍の量を放てるって事になるし。


 色々とツッコミたい思いを胸に秘め、戦闘を固唾を飲んで眺めているんだけど、その間もハヤテの突き出された両手からは途切れることなく高速で弾き出されていた。


 火の玉は全弾インフェルノのボディに着弾し、黒煙をけたたましく上げていた。

 被弾した数はとっくに百発を超えており、インフェルノ姿は黒炎で見えなくなっていた。


 にしてもこんな魔法の使い方……今まで見たことないよ。奥様が扱う調理用の火種魔法が魔改造されて極悪レベルになってるよぉ! まさに塵も積もればってやつだね……。


「ぐおおっ!?」


 尚も連射スピードが衰えない火球の勢いに黒炎の中から遂にインフェルノが声を上げ、次の瞬間、後ろの背景に無数の火球が飛び出して行くのが見えた。


 ハヤテはその様子を見てさっきの……えっと、なんだっけ? 壱式ってやつを一時停止して風で煙が晴れるのを待っていた。


「て、てめえ……ふざけやがって……」


 しばらくして黒煙がはれ、インフェルノの姿が出てきた。


 魔法が着弾し続けた腹部は焼け焦げ、未だそこからは微かに黒煙が上がっていた。そしてその腹部からは先の景色が見えた。


 地面には緑色の血が絶え間なく流れ落ち、血だまりを作っていた。


 当のインフェルノは、こめかみの血管が浮き出る程に怒り狂っている様子が見てとれた。


 それにしても、意地張って本当に宣言通り防御せずに食らい続けるなんて……避けるなりなんなりすればそこまでのダメージを負う事もなかったと思うんだけど。


 ……プライドの塊みたいな奴ね。でもその代償として完全に致命傷を負ったわ。いくら魔族の自然治癒力が高いとはいえ、あの傷はそんな一瞬では治らない筈!


 それにしても連射かぁ……確かに一発一発は弱いけど、ピンポイントで同じ位置にずっと絶え間なく打ち続ければ、一念岩をも通すってやつだね。


 でもおかしいわね……いくら初級魔法とは言え、あれだけ打てば普通魔力切れ起こすよね? ハヤテのMPってそこまで高くなかった筈だけど?


「おい、お前、名前なんつった……」

「魔法使いハヤテ」

「魔法使い、ハヤテか……覚えてろ……次は殺してやる」


 緑色の血を地面に残し、インフェルノは消えた。どうやら転移魔法かアイテムでも使ったみたい。


 完全に死を覚悟したけど……助かった、嘘みたい……。


「ハヤテぇ! 貴方、凄いじゃ――」


 時雨本体を引きずり駆け寄ってハヤテの顔を見ると、大量の汗が噴き出ており、疲労困憊の表情であった。

 踏ん張る両足は震えており、目も虚ろ。この症状は……魔力切れの際に起こるものね。


 インフェルノの撤退に気が抜けたのか、はたまた限界が来たのかは定かではないけど、目のハイライトが消え、そのまま力無く私の方に倒れてきた。


「おうふっ!? いだぁぁぁっ!!」


 激戦の疲れから倒れてしまった事をどうこう言うつもりはないんだけど、場所が悪い!


 私のおっぱいにヘッドバッドしてきやがった!


 くっ、緩衝材が少なめだから結構痛い――ってだれが貧乳じゃい!


 と、一人心の中でノリツッコミを決めつつ、放り投げてやろうかとも思ったんだけども、命を助けてくれた恩人をそわな邪険に扱うわけにはいかず、なんとか踏ん張って受け止めた。


 そのままなんとか膝を折り、地面に寝かせ、私の膝に頭を置いてあげた。大ダメージを受けた私の可哀そうなおっぱいを撫でながら。


 にしても完全に疲労しきっている……よくよく考えれば初級魔法とはいえ、あれだけ連続で放てば、上級魔法よりも総合魔力量は消費しているかと思う。

 どうしてあんな膨大な量の魔法を使えたのかしら……。


 ちょっと状態を確認してみようかしら。何か分かるかも知れない。


 再びスキルを発動するべく、ハヤテを見つめた。


 今回はシンプルにHPとMPだけでいっか……これなら目力そんなに入れなくていいし。


 聖霊……ビジョン!! う~ん、これでもないな……。なんかいい技名ないかな? 



 ベルリバー=ノイストン=ハヤテ


 LV33  剣士……だとは思う。ちょっともう自信ない……。


 HP 25/3240 

 MP 1/195



 瀕死ぃぃぃ!? 攻撃されてた記憶はないけどぉ!? てかそれ以前に職業欄がおかしいでしょ!? ふざけてるの!? それとも本気で迷ってるの? 私のスキルって一体何なのよ……。


 自分自身の能力に自問自答を続けていると、ハヤテがうっすらと目を開けて呆けた顔を見せたきた。


 無防備な状態だと年相応に見えるわね……。私がずっと膝枕してあげてたんだからね、少しは体力も回復したでしょ?


「……蒼い眼……刀か、大丈夫だったか……?」

「もう! 全然大丈夫じゃなかったよ! もうほんとダメかと思ったんだから!」

「……なに! 何処か怪我でもしたのか!? 見せてみろ!」


 膝枕から起き上がるや否やスカートを捲し上げられた。


 女の子座りしていたので、パンツとむっちりなふとももが丸見えになった。

 そのまま間髪入れずにシャツも捲し上げられ、夢と希望が詰まっている、若いつぼみ状態の胸を優しく包んでいるブラも露出した。


 つまり、とんだ痴漢行為がなされた訳だ。


 パンツとブラが露見させたまま、まじまじと体を眺めるハヤテ……一気に顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。


 今まで刀だった自分が言うのもなんだけど、人化することにより人の感情がより理解出来るようになった。喜怒哀楽はもちろん、今まさに襲ってきているこの感情も……くっそ恥ずかしいってことがね!!


「なにするんじゃい!! 死ねぇぇえ!! 今すぐここで!!」


 力が入ったままの蒼い眼に涙を浮かべながら、フルスイングで平手打ちを放ったのだけど、あっさりと躱された。


 くっ、相変わらずの動体視力! さっきまで魔力切れで倒れてた癖に生意気ね!


「嘘を付くんじゃない! どこも怪我なんてしてないじゃないか! ったく! 紛らわしい!」

「え、あ、うん、ごめん……う、嘘? は付いてなかったような気はするんだけど……」


 なんか物凄い気迫に押されたので思わず謝った。


 てかどうして痴漢された私が謝らないといけないの? でもなんか雰囲気と威圧に負けた……で、でも一応は心配してくれた訳だもんね? と、特別に許してあげるよっ!


 あ~、目、疲れた……解除、解除っと。でも言っておくけど私、今回はたまたま許してあげたど、チョロインじゃないからね!?


「そ、それにしてもあんな魔法の使い方があったなんて。でもハヤテの魔力量であんな数の魔法を打てないよね? 一体どんなカラクリなの?」

「俺のスキルだ。刀は俺の事を盗み見て知ってるだろう?【魔力変換】のおかげだ」

「盗み見るとはなんか言い方が悪くない?【鑑定】ってそういうものだから。それにそんな謎スキルは聞いた事がありませんよ~だ! ちゃんと教えなさいよ! てかあの技名は何よ! どんな意味があるのよ!?」


 改めてハヤテからスキルの能力と理由を聞いたのだけども、そのおかげでやはりハヤテが馬鹿だと言う事が確認出来た。


 実はインフェルノの闘いの時、火炎魔法を連射をし出した早々には魔力切れに陥っていたらしい。


 魔力切れとは、先程のハヤテの症状みたいに倦怠感や脱力感が襲って来る症状であり、気を失う事すらもあるって颯の奥さんが言っていた。

 故に、魔力を失った魔法使いはそれだけで死に直結するというのは有名な話。


 だけど、ハヤテは魔力切れの状態になっているにも関わらず、倒れる事なく魔法を打ち続けていた。


 そのトリックは至ってシンプルだった。意識が飛びそうな状況を気合で耐え続けていただけ。


 それを聞いた時私は自分の耳を疑った。しかも魔力が無くなった後は、自分の生命力を捻出して魔力に変換出来る【魔力変換】のスキルを使っていたらしい。


 意識が飛びそうな状況を歯を食いしばって堪えつつ、ごりごり生命力を削られて魔力に変えて魔法を放つ。

 そしてまた魔力切れになって倒れそうになるのを根性という精神論のみで堪えて、また体力を魔力に変換って……それってただの拷問って言わないかな?


 体を鍛えている意味って……このスキルを使う為だったのね……。


「とりあえずハヤテの魔法の仕組みは分かったけど……あの技の名前の意味は何なの?」

「……なんだ知らないのか? 刀の聖霊なんかをやってるくせに」


 この冷たい目よ……完全に私を馬鹿にしてる目だ。むかつくわね……。


「御託はいいからさっさと言いなさいよ! それともあれ? 子供から大人に変わる思春期の間に発症するっていう『なんか難しい文字と人が使わない文字を並べれば恰好いいんじゃね?』的な感じで——」

さく……月の呼び名だ。新月を指す。技名の呼称はルーティン効果にあやかり、精度向上を促す為だ。刀の考える下らん理由からではない」


 結構身近な物からの命名だった……。それにしても私、さっきら随分とけちょんけちょんに言われてね? また泣くぞ?


「しかし、今日は久しぶりに限界まで魔力と体力を使い込んだな。超回復して明日はきっとまた魔力量が上がってるに違いない」


 確かに魔力は使えば使うほど総量が増えるって颯の奥さんも言ってたけどさ。しかし使い方が無茶苦茶だね……。体力まで削り倒して使ってるもんね……。


「まあ正直な所、さっきの柄の悪い四天王が油断してくれておかげで助かったのはある。逃げられたのは残念だが、今度は正々堂々と俺の初級火炎魔法とっておきで倒してやる」

「いや、マジで刀使おうよっ!? 毎回魔力切れ起こしてガクブルになるより絶対効率いいからさ!?」

「刀は要らない、魔法がいい。だってそっちの方がカッコいいからな」


 屈託のない笑顔を向け、全否定するハヤテに私の中で何かが弾け飛んだ。


「おどりゃああああっ! なんで使わへんねんっ!? 絶対有利やて言うてるやろがぁぁっ!!」


 はっ、いけない、私とした事が、つい颯が使ってた言葉なまりが出ちゃった。


「いや、無理無理。あんなもの振り回せれるか、くそ重いのに」


 手の平を左右に振られながら冷たく言い放たれた一言に、私は地面に両手を付き、頭を垂れ、何も言えなくなった。


 その地面は何故か濡れた跡が一つ二つと出来上がっていった。


 とりあえずまさかの億が一の確率で生き残ったので、ダイエットを慣行しようと思う……。


「ううっ酷いよぉ……女の子に向かって『くぅっそぉ重めええ!』なんてぇ……びえぇぇぇ!!」

「ただでさえ五月蠅いのに泣き出すな。それにそこまで巻き舌で言った覚えはない。全く、仕方ないな……ほら、姉さんが焼いてくれたクッキーやるから泣き止め」


 鼻水をすすりながらハヤテが荷物から取り出した包みを見ると、中には美味しそうなクッキーが入っていた。


 見た事はある。シエルちゃんお手製のクッキーだ。これ、みんな笑顔で食べてったっけ。ゴリラなんていつも感涙に咽び泣いてたわね……そういえば私、食べ物を食べるのって初めて……。


 好奇心と何とも言えない未知の体験を目の前にし、小さな胸は高鳴った……いや、胸はこれから大きくなるんだけどね! 今は期間限定で小さいだけだし!


 多分!


 相変わらず愛想のないハヤテの顔を見て、もう一度鼻をすすってから。クッキーを摘まみ、口の中に入れてみた。


 ……とても甘くてサックサク! この口の中に広がる幸せになるこの感覚はなに!? こ、これが食べ物を食べるって感覚かぁ~!! これが美味しいって感情なんだぁ~。


「……って食べ物を食べてたら余計太るわっ! いや、美味しいけどさ!?」


 太ってるって言うくだりで食べ物で釣るのはどうかと思う……でも人化ってお腹空くのも弱点だなぁ。とりま、このクっキーは全て私がもらったぁ!


 ハヤテの手からクッキーの包みを奪い取り、三枚程、一気に口の中に入れた。噛み応えと幸せが三倍増しだぁ~♪ まさに甘味とサクッと触感のハッピーセットぉ~!


「……ほんと、良く食う刀だ」

「んぐんぐ、わふぁしのなまふぇはしぐふぇだっふぇいっふぇ――ううっ!?」


 クッキーが喉に絡まって……な、なに、これ!? 口の中が渇いて飲み込めない――く、苦しい! 口の中の水分が全部クッキーに持ってかれたぁ!? こ、呼吸がぁぁ、じ、死ぬぅ……!


「刀がクッキー食って喉に詰まらせる……なかなか興味深い現象だな。ところで喉って刀で言うどこの部分なんだ?」

「そ、そんな事より、み、水うぉぉ……」


 四天王を追い払ったのにまさかのクッキーで死にかけた。クッキーを食べる時は、しっかり飲み物を確保してから食べようと誓った瞬間だった……。


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