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そのにぃ!

時雨の一行で分かるあらす:次期当主をかけた兄弟対決を眺めてる。

 

「では行くぞ、ハヤテっ!! はぁぁぁぁっ!!」


 あ、ふざけたステータス内容にツッコんでたら始まっちゃった。


 気合一閃、先行で仕掛けたのはレイマンちゃん。一足飛びでハヤテとの距離を詰め、木刀を横薙ぎに払った。


 その剣速たるや常人の目では捉える事の出来ない速さ。


 刀である私だから辛うじて見えたけど……ずば抜けた身体能力を持ってるねぇ。


「くっ!? この遅さは!? 成程、そういう事ですか!」


 え? ハヤテ、今なんて言ったの? これで遅いの? ぶっちゃけ、めちゃめちゃ早かったけど?

 しかもそう言う事ってどういう事よ?


 ハヤテが放った言動には謎が残ったけれども、当のハヤテは迫りくる初撃をガードに徹して辛うじて凌いだ。

 しかしレイマンちゃんの突進の威力に足は床から離れ、後方に飛ばされてしまった。


 流石は兄といったところね、実力の差が浮き彫りに――


「自ら後ろに跳んだかっ!」


 え? 自分から跳んだ? ちょっと、なんかさっきから考えが的外れてて恥ずかしいじゃないの……。

 い、いえ、違うし、し、知ってたし! なんかそういうの常套手段っぽいし!


「そこっ!」


 ハヤテが後方に着地した瞬間、先読みして回り込んでいたシエルちゃんが、左方向からしなやかな一撃をハヤテの顔面に向けて放っていた。


 そうか! さっきハヤテが言った『そう言う事』って二人がかりで攻めて来るって事だったんだ! それに木刀を持っていない左側面からの攻撃とは! これは決まっちゃったか!?


 てかイケメンの顔面がピンチぃぃぃ!! 実の弟の顔を本気で狙っちゃうのぉぉお!? 手加減の『て』の字もないじゃないの!


「ふんっ!」


 自身の顔面に木刀が迫ってくる中、冷静に状況を判断するや、体を超スピードで反転させ、ハヤテはシエルちゃんと向き合った。


 絶体絶命の状況下でまさかの攻撃に転じたハヤテ。


 遠心力を付与させた目にもとまらぬ一撃はシエルちゃんの木刀と衝突し、その二つの木刀は一瞬鍔迫りあったが、獲物がその衝撃に耐えれず、お互いの木刀は中程から折れ、砕けた木片が宙を舞った。


 しかしその反動から、仕掛けたシエルちゃんの方がふっ飛ばされ、床に何度かバウンドして倒れた。

 ハヤテは同じ反発力を受けたにも関わらず、その場で踏みとどまっていた。


 まさか、突進した方がふっ飛ばされるなんて。なんて強靭な足腰と腕力なの……。


 とはいえ絶技を発揮した後の僅かな硬直が見られた。しかしそんな針の穴ほどの隙を逃すレイマンちゃんではなく、容赦無い上段からの振り下ろしが既にハヤテに迫っていた。


 ……いくら木刀とはいえ、あのスピードで脳天を打ち砕かれたらドエライ事になるよ!?


 くらったら絶対、頭ぱっかぁ~んになるって!! ねえ、さっきから二人とも本気で殺る気で来てない!? 相手は血の分けた実の弟だよ!?


 言っておくけど木刀でも人を殺せるんだよ!?


「やめてぇ~!! マジでハヤテ死んじゃうぅ!?」


 泣き叫ぶゴリラ芋、でも私も流石にそう思う!! やめてあげてぇぇぇ!!? ストップぅぅぅ!!


 致命打が打ち下ろされている刹那、ハヤテは素早く折れた木刀を捨て、あろうことかタイミングを合わせて掌底で上空から飛来する木刀の横っ面に打ち込んだ。


 刀身は縦の力には滅法強いが、横の力には弱い。結果、レイマンちゃんの木刀は折れ、当たるべき刃は宙を舞った。


 な、なんて動体視力してるのよ、この子……。狙って出来るような技じゃないよ? 振り下ろされる木刀を掌底を打ち込んで折るなんて……。


「ふんっ!」

「ぐうっ!?」


 折れた木刀に目を取られていると、ハヤテから苦悶の声が上がった。

 理由はとてもシンプル。レイマンちゃんの回し蹴りがハヤテのお腹に食い込んでいたから。


 そのままハヤテは三メートル程きりもみ状態で後方に飛ばされ、受け身も間に合わず床に叩きつけられた。


 こ、この兄弟マジで凄いわ。武器破壊される事まで見透かしてたのかぁ。てか実の弟にも容赦ないねぇ……超痛そうなんだけど。


「はい、終了! もうおしまいっ! 勝者レイマン! シエルぅ、ハヤテぇ~! 怪我してない!? てか息してるぅ!!?」


 顔は見えないけども。きっととんでもない顔をしているに違いない。セリフだけ聴いてると女子だね。


「いてて……流石レイマン兄さんだ。全てを見透かされているみたいだったよ。どんな攻撃をしても返されていた気がするよ」


 お腹を押さえながら起き上がり、兄を褒めたたえる弟君。かなりいい所まで行ったんだけどね、やっぱ兄には敵わないか。

 でも二人揃って最初から末弟狙いだなんて。まあ、弱い子から狙うのは戦いの基本で――


「よく言うよ。あの時、本気で木刀を振り下ろしていなかったら先に砕けていたのは、俺の顎だったじゃないか。あの刹那のタイミングですらカウンターを狙ってくるなんてね。本気のスピードで振り下ろさなきゃ意識を刈り取られる程のダメージを受けるところだったよ」

「しかしほんとそんな細腕なのに化け物染みた体力と腕力よね。いくら私が軽いからって、突進した方が武器も壊されて弾き飛ばされるなんて……普通はあり得ないわよ?」


 あ、そうなんだ……。弱いからじゃなくて、強いから二人でかかって行ったんだ……って、これも知ってたし! ハヤテが凄いの知ってたし! 私の推しだし!!


「なにはともあれ結果が全てだ。勝者はレイマンである。それでは現時刻をもってベルリバーの当主はベルリバー=ノイストン=レイマンとする! ぐすっ……これでもう兄弟で争わなくて済むね……パパ、嬉しいよ……」


 高らかに宣言するのは泣き虫ゴリラ――もとい前当主。その優しさはもう評価してあげたい。


「兄上、姉上、それに父上、母上、折り入ってお話がございます」


 気付けば足を畳み頭を下げる黒髪の少年が居た。ハヤテが物申すなんて珍しいじゃないの。二対一の戦いに不服があったのかしら?


「俺、この儀式で自分の弱さを痛感いたしました! だから世に出てもっと見聞を広め、将来、レイマン兄さんとシエル姉さんの力になれるよう一から鍛え直したく思っております! どうか旅の出立のご許可を下さい!」


 え? 全然違う話だし、いきなりの超展開なんだけど? ハヤテ、この家、出て行っちゃうの? やんだぁ~! 私の推しなのにぃ~。


「レイマン、ベルリバーの当主はお前だ。答えてやるが良い」


 横から出てきて偉そうなゴリラさんだねえ。さっきまで鼻水垂らして泣いてた癖に……。

 しかし急に家を出たいなんて……この家に居れば何不自由無く暮らして行けるのに。もったいなくない?


「それが目的だったのかい。全く、食えない弟だよ。うん、許可するよ。ただし、条件がひとつあるけどね」

「うぇっ!? 許可しちゃうの!? そこはダメって断るところじゃないの!?」


 まさかの返事に狼狽えているゴリラ……うん? レイマンちゃんが私の方に来て……あら、景色が変わって……え、私、持たれてる? 


「この刀を持って行く事。我がベルリバー家を忘れぬようにね」

「し、しかし、それはベルリバー家の――」

「ダメぇ! レイマン! それ、とっても大切なやつなのおぉ! 持って行っぢゃああっ!? おヴぉお!?」

十六夜いざよいの舞……」


 落雷を思わす程の豪快な音が稽古場に鳴り響き、ゴリラが倒れた。そこには一人の人影があった。


 その正体は肺に溜まった空気を静かに、それでいて大きく吐く母上だった。


 着物の袖が舞い落ちるその先の突き出された左右の手首は、九十度に曲げられており、掌底の形が作られていた。


 腰の入った左右の二連撃の掌底……それがゴリラの鳩尾に決まり、足元で痙攣させるに至っていた。


 流れるような動きに烈火の威力だね……そういえばみんなの体術の基礎である十六夜の舞は母上仕込みだもんね。

 にしても一撃であの筋肉ゴリラを落とすとは……。厳密には二連撃だけど。


「ハヤテ……貴方の家はここですよ。ちゃんと帰ってきなさい。その刀と共に」

「……はい!」


 ゴリラの意見は総無視なんだね……いや、私的には願ってもない外の世界の空気に触れるチャンスなんで、全然オッケーなんだけどね。


 ところで……ゴリラ、白目剥いて泡拭き出したけど大丈夫かな?



≪≪≪



 雲一つない晴天の下、私はハヤテの腰のソードホルダーに装着され、家族総出の見送りを受けている。


 ちなみに隣には桜雨さくらあめと銘打たれたハヤテが幼い頃からずっと使用している刀と相席している。

 大先輩の私と一緒と緊張するかも知れないけど、安心して。私は優しいからさ! 委縮しなくてもいいんだよ?


「ハヤテぇ~、思い直して! 一緒に暮らそっ!? なっ? パパ寂し――行くがよい、我らがベルリバーの名に恥じぬ行いを心掛け、貫くのだ」


 母上が十六夜の舞いの基本姿勢を取り、左手がゴリラをロックオンした途端、急にしたり顔になった……その判断が一瞬でも遅かったらまた白目剥くところだったよ?


 にしてもこの世代はカカア天下だったね。それにしても久しぶりの外の空気に景色はいいなぁ~! いやあ~最っ高~! ひゃっふぅ~♪


「はい、それでは行って参ります!」


 深いお辞儀をしてハヤテは一度も振り返らずにその場を後にした。


 きっとハヤテは颯を超える凄腕の剣士になると思う。というか既に基礎能力は颯を超えてるね。 


 しばらく歩き、屋敷も見えなくなった頃だった。ハヤテは足を止め、道の真ん中でずっと空を眺めていた。かれこれ数分程にもなる……。


「遂に、遂に念願の夢を叶える時が来たんだな……ふふふ……」


 なに!? 何なの、この子、いきなり……やっと喋ったかと思ってたら急に何を言い出すの!?

 ま、まさか悪い事を考えてるんじゃ……。 


「これで俺は念願の……魔法使いになれる!!」

「はぁ!? 馬鹿じゃないの!? ゴリッゴリの剣士がんなもんになれる訳ないでしょうがっ!?」


 私は咄嗟に声を上げた。


 ハヤテは私をじっと見ていた。刀の私ではなく、人の形をした黒髪のスレンダーな体形の超絶美少女の姿の私に。


 くびれたウエストにスカートから覗く華奢な足。流れる黒髪が映える美しい顔立ち。自分で言うのもなんだけど、ここまでの容姿を兼ね備えている以上、美少女としか言いようがないよね! 


「……どちら様で?」


 ま、まあ、そうなるよね。それにしてもさっきからじっと私を見て……ふふ、子供には私の美貌は少々刺激的かしらね?


「私は貴方が腰に下げている刀よ。長い年月が経てば物にも魂が宿るって言うでしょ? その刀は特別な方法で作られているからね。私は、その刀が人化した聖霊って存在なの」


 実は最近は【鑑定】のスキルに加えて【人化】も覚えて人の形になれるようになっていた。もちろん、本体は刀だけど特に時間や移動などの特別な制限もない。


 日本風に言うと付喪神の上位版ってやつかな? まあ、今まで別に用事もなかったから別段姿を晒す事もしなかったけど。

 まあ、何度かあまりにも退屈だったから人化して逃げ出そうとは考えたけどさ。


「……なるほど、分かりました。貴女はまずは医者にかかる事をお勧めします。馬鹿につける薬はないと申しますが、希望は捨てないようにしましょう」

「私がさっき言った事を倍返しされた!? でもあんたにだけは言われたくないわっ!」


 いきなりブーメランして来るか! このガキんちょは!


「あちらの方に進めばベルリバー領と呼ばれる地域があります。そこには腕の良い医者も沢山居ますので。しっかりと診ていただいた方が良いですよ。それじゃ俺はこれで……」

「親切にありがとう~♪ っておいこら! 話聞けやっ! そんな事よりも、もっと他にツッコミどころあるでしょ!? なに興味無さそうに立ち去ろうとしてるの! ほら黒髪にこの黒い瞳! そしてこの可憐な姿を見てなんとも思わないの!?」


 至近距離でこれ見よがしに自分のロングの髪を掴み、瞳も近づけて見せたあげた。でもこの距離感はお子ちゃまには少々刺激的だったかしら? うふふ♪ 


「別になんとも。じゃ、俺、急ぐんで」


 即答しやがった……お、落ち着くのよ、私。


 一体何年刀やってると思ってるの。こんな人生を十年少々しか歩んでいない高身長で、イケメンで、引き締まったスリムマッチョなんか……くっ、この超お買い得物件め!


 あらやだ、私ったら……人化すると欲望ってやつも出ちゃうんだね……。新鮮な感じだなぁ。これが人の感覚かぁ。


「てか、ちょっと待ちなさいよ!! うわ、走って逃げた!? しかも速っ!? 待って、ねえ、待っててばぁぁ!! お願い止まってよぉぉぉ!! 」


 気が付くと逃げるようにダッシュしてドンドン小さくなって行くハヤテがいた。


 ねえ、ちょっと対応が酷くない? ガチ泣きしちゃうよ?


まったり連載していきます!


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