そのじゅうごっ!
時雨の一言あらすじ:ビッチな聖女がついてきた。
水の都デュレイを旅立ち、半日程過ぎた頃……事件は起こった。否、この言い方では危惧していない突発的な事象になってしまうね。言い直さなきゃ……起こるべくして事は起きてしまったの。
「……トイレがしたい」
遂にハヤテの口からその言葉が飛び出した。そう、もよおしてしまったよう……。
今のハヤテは両腕が使えず、自分の意志で手を動かす事は出来ない。静養中は白衣の天使であるナースさんが対応してくれたが、今は白衣の天使さんはいない。その状況下で今のハヤテが一人でで用を足せるのか? 答えは言うまでもないよね。
NOよ。
「私にお任せ下さい」
平然と言ってのけるのは大きな胸に麗しい顔立ち、品に溢れる風格を持つ、教会のシンボルである聖女のルルゥ。だが服装はビッチスタイル。短いスカートに谷間なんかも覗かせてる。大和撫子の私を見習えばいいのに。
……別に悔しいとかじゃないし。そんな胸元の大きく開いた服を私が着たら胸板が出るだけで……ああ、考えるだけでも腹が立つ!!
ところで何を依然と私を差し置いてそんな重大なイベントを横取りしてるのかな? ちょっと分からないんですけど? ぶっちゃけ、今か今かと待ち続けていたんだからね?
「しかし、聖女様にそのような……止むを得ない。刀、ちょっと手伝ってくれ」
きぃ……たぁ~!! 勝った! 勝ったよ!! むひょひょひょっ! そうだよね! 私達は付き合い長いもんね! 何と言っても生まれた時から知る仲だもんね! 新参者の聖女ごときが入って来れる間柄じゃないんだよ~! へいへいへいっ!!
で、でも緊張しちゃう……ハヤテの象さんを……はぁはぁ、お、落ち着くのよ、時雨! こ、これは介護であってあくまでの生理現象の処理をお手伝いするものなの!
決して邪な気持ちを持ってはダメ! そう、私とハヤテの関係はそんな浅い物じゃなくてもっと深い物なの。
今はプラトニックに接しなきゃ。愛の炎に焼かれるのはもっと先の話。初級火炎魔法は絶対使わせないけど。私はとっくに焼き入れは終わってるからね。
ああ、ほんと自分で言うのもなんだけども、私ったらなんて健気なんだろう……でも人生設計はしっかりしなきゃね! ここは妻になる私がしっかりしないと。そうね……子供はやっぱ最低でも二人は欲しいかな。出来れば最初は女の子で。そしてやんちゃな男の子も欲しい。きっとハヤテに似たイケメンになるだろうし。ふふ、その為にはいっぱい愛し合う事が必須で――
「このような事に聖女様のお手を煩わせて申し訳ございません……」
「い、いえ……これも私の務めでございます。お気になさらずに……ふぅ……」
ん……? 何二人で顔を赤く染めて……うおぉぉぉいっ!? もう処置完了してるじゃん!? ちょっとルルゥ!? 何、胸に手を当てて深呼吸してるの!?
触ったの!? ねえ!? 触ったのぉぉぉ!? もしくは握ったのぉぉぉぉ!?
「ハヤテぇ!? 私に頼んだんでしょ!? なんでルルゥがしてる訳ぇ!?」
「貞操の危険を感じたからだ」
「ぐふぅ!」
さっきまで照れていた顔が私の方を向くなり、真顔になった……。て、貞操って……。
「時雨ちゃん、私も聖職者の端くれでございます。そこに邪な気持ちはございません……は、初めて……あ、あれが……」
「ナニを見た!? 心の声、だっだ漏れだぞぉ!? このエロ聖女がぁ!」
そんな私の声もどうやらルルゥには届いていないらしく、更に顔を真っ赤にしていた。
「くう! ハヤテ! 次は私がするからねっ!? 小も大も! なんなら中も!」
「恥を知れ、この色魔刀」
「それって男の人向けの言葉だよねっ!?」
結局、私からの全て提案は却下され、担当はルルゥになった……酷い、酷過ぎる……。
「あ、あの、一応誤解がないように言っておきますが、み、見てはいませんからね? あくまで準備をお手伝いしただけですから。それにハヤテ様は私のみならず都の命の恩人……私が出来ることはどんな事でも引き受けるつもりでございます」
絶望に打ちひしがれる私の耳元でそっとルルゥは囁いてくれた。
ああ、私はなんて愚かなんだろう。そうだね、聖女様がそんなふしだらな思いを持って接する訳ないよね。ごめんね、ルルゥ、私が間違っていたよぉ……。
「後ろからお尻を少しと音が少々聞こえただけです。ですが、なぜかとても興奮……しました……」
「しっかり見てんじゃねえかよぉ!? しかも変な性癖にも目覚めようとしてるから!」
しっかりお尻は見てやがった……やっぱりこいつは変態聖女だ!
「いい加減にしろ」
私の後頭部にハヤテのヘッドバットが炸裂し、目の前に星が舞い、そのままスカートをまくし上げてぶっ倒れた……超痛いんですけど……。
「時雨ちゃん、パンツ丸見えですよ?」
「お、おおぅん……」
い、今はそれどころじゃねえやいっ! ねえ、私の事ほんとに女の子と思ってる? どこの世界に女の子に頭突きするやつがいる訳!?
≪≪≪
治療の街に辿り着くまでの道のりは約一週間。しかし歩きというのも中々に辛いものがある。昔は馬車なんかも出ていたらしいけど、最近のモンスターは昔と比べ桁違いに強くなっているせいで馬車での運搬業はすっかり廃れてしまったらしい。
故に今は馬車を使う人は限られており、商人さんぐらいのものだったりする。もちろん腕利きの冒険者をたんまり護衛に付けて。そこまでするのには当然多くのコストがかかり、誰でも気軽に扱えるものではなくなってしまっている。そんな訳で馬車での移動は絶望的であり、徒歩一択となっている。
「今日はもう日が暮れます。この辺りで野宿に致しましょう」
当然、私達の旅も当然徒歩、そして野宿になる訳なんだけど、ああ、ふかふかお布団が早くも恋しい……。
「申し訳ございません、聖女様に野宿をさせてしまうなど……」
「いえ、ハヤテ様について行くのは私の我儘みたいなものですから。お気になさらずに……」
向き合う二人がこれまた良い雰囲気を醸し出してる。はいはい、男は所詮おっぱいの大きさしか見てないんでしょ! はい、そうですね、どうせ私はフルフラットですよ! でもおちょこぐらいの膨らみはあるんだからね!?
焚火に使う予定の木の枝を持ち、膝を抱えながらいじけた……いいな、大きなおっぱいは……。
「食料は持って来ております。保存食にはなりますが、早速調理致しますね」
「ありがとうございます。何から何まで」
「やったぁ~!」
あの大きなカバンは食料だったんだね! ご飯は生きる活力の源だもんね!
「よし、今こそ刀に戻る時だ」
「いや、食わせろよっ! それはもはやイジメだからねっ!?」
私は食べるからね! ダイエットはとうの昔に諦めてるから大丈夫!
「うふふっ」
手の甲辺りを口元に当てて微笑むルルゥが見えた。むむ、何その高貴な笑い方! お上品じゃないの! 私も真似させていただきますぅ!
「お二人は本当に仲が宜しいのですね。良いパートナーでございますね」
「御冗談を聖女様。私にも選ぶ権利と言うものがございます」
「失礼極まりないよ? それに私に対して言葉使いと全く違うんですけどぉ!? 差別だよ!」
再びハヤテとの言い合いが勃発したんだけども、ルルゥはにこやかな笑顔を作りながら夕食の準備にとりかかり出した。
ひとしきり言い争ったあと、いや、私がボロクソに言われたんだけどね……。もう心が刃こぼれしてしまい、水を飲んで心を落ち着けていると、ルルゥは再び微笑みながら私達に向けて言葉をこぼした。
「大丈夫ですよ、時雨ちゃんはハヤテ様に愛されてますから」
「ぶふぉおっ!?」
思わず口の中に含んだ水が噴出された……綺麗な霧状に。ってそんな事はどうでもいい! それよりも、あ、愛!? 愛されてるですとぉ!?
「ルルゥ! その根拠は何!? エビデンス、エビデンスを要求するわっ!」
「変なところで妙な知識出すんじゃない……そ、それよりも聖女様、あの件は内緒で!」
ほうほう、あのハヤテがやけに焦っているじゃありませんか! よし、カモン! ユーの秘密ぶちまけちゃいな!
「良いではありませんか。それに、わ、私はそれ以上にお慕いしておりますから……」
「聖女様、お戯れはよして下さ――」
「私は本気でございます!」
……へいへいっ! 私を出汁に盛り上がるんじゃなあ~いっ!! 何、何なのよ!? いつ間にかルルゥの告白にすり替わってるじゃないの!
「そこの聖女ぉぉ! どさくさに紛れて何を言ってるの!? おかしいよね、この流れで自分の告白ってさ!」
「あ、す、すみません。時雨ちゃんも愛されてますよ? きっと」
「だぁ~かぁ~らぁ! そこから脱線したんだよぉ! ハヤテの本音が聞けるところだったんだよ!? しかもきっとって何よ! きっとって!」
このバカちん聖女がぁぁ! 結局自分の売り込みじゃねえかっ!
「さあ、この話はもうお終いにしましょう。聖女様も悪戯が過ぎますよ!」
「悪戯ではございません! 私の方は本心でございます!」
「今『私の方は』って言ったよね!? それってどういう意味!? 割り込むだけじゃなく私を蹴落としに来た!?」
「はいっ!」
それはもう、天使の微笑みとも言える私が見た中で一番の微笑みだった。ああ、癒されるぅ……。
って違うわっ! 誤魔化されるもんですか!
「ぬわあにエンジェルスマイル作っちゃってるのぉ! 騙されないからね! 蹴落とすんじゃないわよ!」
「……ちっ」
「ねえ!? 今、聖女様が舌打ちしたよ!? ねえ、聞こえたよね!? 『ちっ』って言ったし!」
まさかのライバル出現だ……。そして腹黒さも持ち合わせる聖女ルルゥ……こうなったら全面戦争じゃい!
「何をおっしゃっているのですか。聖女はそのような仕草はいたしません。発展途上のお胸さん、いえ、すでに発展しきって衰退して廃墟となったお胸さん」
ほおお? なして胸の話になったのかな? ええ、いいわ。その喧嘩、買ってあげるわ!
「あ~ら、無駄に大きいのは直に垂れるよ? あ、もう垂れてたっけ? ブラで拾い上げてる感じ? ふふ、若いのに無様な事で……」
「なっ!? な、な、なにをっ……!」
何かの琴線に触れたのか、顔を真っ赤にしてこちらに来た。
ゼロ距離で火花を散らした……譲れない! ここは絶対に譲れない! おっぱいを馬鹿にされて引く訳にいかないの!!
「聖女様、落ち着いて下さい。刀、黙れ」
「扱いの差よ……」
この時点で完敗してるような気がしてならない。くぅぅ……。
「ふふ……こんなに気兼ねなく言い合えるお友達、今まで居ませんでしたよ。ハヤテ様、必ずその両腕を直しましょうね! そして時雨ちゃん、これからも宜しくお願いいたします!」
「あ、ずっるい! 自分だけいい子ちゃんぶってるし! もう……宜しくね、ルルゥ!」
私に始めての友達が出来た……そしてライバルも。なんだろう、なんだかんだ言ってとっても暖かい気持ちになる。
「あ~、それでは申し訳無いのですが食事を口に運んでもらいたいのですが――」
『はいはいっ!』
その後、ハヤテのお口のご飯を運ぶ役を決める壮絶な言い争いが始まり、再びハヤテに怒られた。なんと聖女様も。
ふふ……してやったわ!




