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そのいちぃ!

新連載始めました!

 

 小高い丘に遥か昔から居を構える平面一階建ての建屋がある。


 その建屋はベルリバー侯爵邸と呼ばれ、この辺り一帯を治める領主が住む土地となっている。


 周りの建屋はレンガを積み上げた建物が多い中、この建屋の建築方法は他の物とは大きく異なっている。木を組み上げて作られた建屋に屋根を瓦と呼ばれる焼き物で覆い、敷地内には砂利を敷き詰めた庭園を設置するなど、独特の価値観がある特殊な建屋であった。


 異国情緒溢れるこの建屋は領民からは『屋敷』と呼ばれ親しまれていた。


 そんな屋敷の中には稽古場と呼ばれる空間がある。


 その空間の奥まった場所、上座と呼ばれるスペースの更に奥に、鋼を特殊な技法で鍛錬させて生み出された、固く、それでいてしなやさを誇る細い刃が祭られている。


 その刃は普段は漆黒の鞘に納められているが、ひとたび抜刀すれば、その凛とした存在感を放つ刃文が浮かび上がる。

 その様は、優雅さが滲み出すと同時に、何処か可憐さをも感じさせ、敵、味方問わず見るものを虜にする。


 摩訶不思議な魅力を持つ刃。


 それもその筈、その刃はかつて魔王を打ち滅ぼせし伝説の刃であった。そしてその片刃の刃を人は【刀】と呼んだ。


 その刀に付けられた名前、銘を【時雨(しぐれ)】と言う……それが私だぁぁぁ~!! Fuuuuu!!


 ……最後ちょっとはしゃぎ過ぎたかな?


 なんか自分を褒め称えるいろんな口上を考えてる間に結構な年月が経ったなぁ……。


 それにしても刀である私が、この異世界で特殊な素材と儀式で打ち直されて強化されたのはいいんだけれども、それが原因でまさか自我が芽生えちゃうなんて思いもしなかったよ。


 とは言っても魔王と戦ったのはもう随分と前の話だし、ここのところはず~っと飾られてるだけ。おかげで入って来る情報は少ないもんなぁ。


 たまには持ち歩いてくれたら景色とか見られるんだけど。でもこれがまた触れられる事すら滅多に無いので、結構寂しかったりするのよねぇ……。


 はぁ……魔王と戦う為にはやての腰に帯びていた頃は、色々な風景を見れて楽しかったなぁ。


 モンスターの肉に刺さるのはちょっとアレだったけど。まあ仕方ないんだけどね。


 だって私、刀だし。それがアイデンティティだし。


 しかしほんと退屈……。壁にかけられた漢字の並ぶ掛け軸と共に春夏秋冬、一切代わり映えしない景色の中、窓から差し込む太陽の光が空気中に舞う埃を照らしているのを何とはなしに眺める……雨の日には雨音に耳を傾けて頭の中を空っぽにしてぼ~っとする。


 こんな事ばっかしてたらもういい加減ボケちゃいそうだよ!? 刺激! 私はそろそろ刺激が欲しいの!! 


 魂の叫びを心に灯していると、複数人の足音が私の居る稽古場に向かって来ているのを感じた。

 おそらくこの屋敷の住人達であり、今日も鍛錬を付けに来たんだと思う。


 まあ、退屈退屈と言いながらも、年中無休で誰かしらはここに来るのを見れるから心の崩壊は免れているんだけどね。


 おっと、思っていた以上の人間がぞろぞろと人が入って来たわね……まさかのベルリバーの一族総出の顔ぶれじゃないの。


 先頭を歩いてるのは袴を着た筋骨隆々の初老に近い外観を持っている、現在の当主をしている男性。

 滲み出る風格と明らかに堅気じゃないオーラを身にまとっている。更にそのただでさえいかつい風貌に輪をかけているのは、刀傷付きの隻眼に加え、眩しい金髪のオールバックのせいだと思う。


 目が合っただけで即切り捨てられそうな凶悪な感じが、これでもかという程に滲み出てる。


 そしてそのマフィアのボスの三歩後に着物姿の奥さんが続いた。


 こちらは旦那さんとは正反対の華奢でいて、とても美しい容姿を持つ気品漂う大和なでしこさん。

 とはいえ髪の毛の色は颯みたいな黒髪じゃなく、茶色のボブヘアー。でも立ち振る舞いは非常に綺麗であり、私と颯の生まれ故郷である日本らしさを感じる。


 それにしても、なんであんな極悪人みたいな容姿の人と結婚しようと思ったんだろう。さっきはマフィアっていい風に表現したけど、見た目はもう完全にゴリラだよ? それにゴリラはあくまで養子で奥さんが本家だし。


 選べた筈なんだけどなぁ……どうしてゴリラ選んじゃったのかなぁ……。


 そんな凸凹夫妻の前に対面で立つのは三人の子供達。


 右端から稽古着に身を包んだ金髪で長身のイケメン君、ベルリバー家の長男であるレイマンちゃん。その隣に並ぶのは二歳年下の長女である同じく金髪の美女のシエルちゃん。


 ついつい『ちゃん』付けしちゃうんだけども、どっちも成人してるんだよね~。でも小さい頃の呼び名ってなかなか離れなくって。

 それに私から見れば、ゴリラを含め全員が年下だから良しとしよう。


 久しぶりの賑やかな稽古場の風景を堪能していると、事もあろうに私の前に現当主であるベルバレー夫妻が座った。


 ……ちょっと見にくいじゃないのっ! 邪魔よ、特にゴリラっ!


 すると思いが通じたのか、二人の間の僅かな隙間が出来た。その隙間からは左端に立つ、黒髪に黒い瞳を持つ青年が立っているのが見えた。


 この子、ほんとに気になるんだよね~。生前の颯と瓜二つの容姿をしてるし、他の兄弟とはまた違ったイケメンさんだもん。やっぱ遺伝って凄いと思う。


 あと、誰も父親似ではない奇跡も。子供達は父親のDNAが仕事をサボってくれた事に諸手を上げて喜ぶべきだと思うの。


 そんなイケメン、イケジョな子供達が並んで正座したのを見計らい、ゴリラ当主が肺に大きく息を吸い込んで隻眼を見開いた。


 てかそんなに気合入れなくても図体同様に声も大きいんだからさ。むしろ控えて欲しいかな。普通に五月蠅いから。


「それではこれよりベルリバー家の当主引継ぎの儀を行う! ルールは分かっておるな? しきたりに従い、三人の中で一番の強者を私に変わりベルリバーの次代当主とする!」


 ああ、いつものあれね。もう世代交代の時期かぁ。いやぁ月日の流れるのは早いもんですなぁ~!

 ぶちゃけ、さっきから散々ディスっちゃってるけども、ゴリラちゃんって歴代の当主の中でもトップクラスに強い方だったからね~。


「……でもね、でもね!? お前達、絶対に怪我はしないようにしてね!? 本気で叩いたりしちゃあダメだからね! パパはね、本当は兄妹で仲良くして争いのない家庭を――」

「アナタ?」


 母上からツッコミが入った。


 うん、このパパさん、見た目とは180度違って、超が付く程に子煩悩だからね。同じく超が付くほどのいかつい体と顔してるのにも関わらず、子供達には激アマ。


 ゴリラが砂糖を吐いたところで苦笑いしながら子供達は立ち上がり、稽古場の脇に設置されている木剣を手に取って戻って来た。通称、木刀と呼ばれる獲物を。


 この世界で使用されている剣は片手剣、両手剣、双剣など数多くあるけども、このベルリバー家が扱う武器はどの流派にも属さない特別なものとなってる。全員が剣士であり、所持している武器は『刀』である。


 それにしてもなんか、さっきからベルリバー、ベルリバーって連呼してるけども正直私はしっくりこないのよね~。何か言いにくいし。やっぱ鈴川家って呼んだ方がいいと思うんだけどさ。


 ま、郷に入っては郷に従え。この辺りの風習には合わせないとね。それに侯爵って王様の次ぐらいにえらい貴族なんだっけ? まあその割にはメイドさんとか一切雇わず、家事全般は家族で行うというストイックさが定評だったりする。


 お金持ちなのに……私なら楽するけど。


 さてと、何度目になるかもはや数えてもないけども、世代交代の儀を見せてもらいましょうかね。って、そこのゴリラ! もうちょっと寄りなさいよ、見えないんだってば!


「悔いの無きよう、思う存分に武を振るうが良い……でもね、ほんっとに怪我には気を付けてね!? 血とか出るのやだからね!?」

「はい、アナタはもうそこに座って下さいな」

「う、うむ……ほんとに危ない事はダメだからね!? いい? 分かってる? お返事は!?」


 ゴリラ……過保護過ぎ。そんなに嫌ならジャンケンとかで決めればいいのに。


「ははっ、父上、大丈夫ですよ。今から命の取り合いする訳ではないのですから。ふぅぅ……」

「そうよ、パパ。レイマン兄さんの言う通りよ。すぅぅ……」

「いや!? お前達目がマジだから!? マジで精神統一してるじゃん!? 呼吸整えて殺る気満々じゃん!? ハヤテぇ!! 早く逃げてぇぇ!! パパの所にカモぉぉぉオンっ!!」


 いや、逃げちゃダメでしょ。


 てかどの道、ゴリラのところには行く訳ないでしょ? それに二人が真剣なのは怪我をしない為。だって相手はあのハヤテだし。


 当時、黒髪、黒い瞳の赤ちゃんが生まれた時はベルリバー家は大いに沸いた。

 黒髪の子は代々伝承されている颯の風貌そのものであり、名前もそれになぞらえてハヤテと命名された。でもその時期を境に徐々にモンスターの動きが活性化し出した。


 今にして思えば、ハヤテは天からの授かり物だったのかも知れない。この世界を救う為に……そう、颯がそうだったように。


「ははっ……レイマン兄さん、シエル姉さん、お手柔らかにお願いしますよ?」


 少し引きつった笑いを浮かべながらも一礼し、兄と姉に敬意を振るうハヤテ。


 三人が稽古用として使用されている木刀を持ち、構え、一定の距離を取って臨戦態勢へと移行した。尚、ゴリ男はどこから出したのか、家紋入りのハンカチの先をかじって狼狽えまくっている。キモい。


 そうだ、久々に三人の能力見てみようかな? 長年ずっと観察ばっかしてたらいつの間にか【鑑定】のスキルに目覚めたんだよね~。


 恐らく世界で私だけじゃないかな、相手の能力を見れる刀って。


 じゃあまず、レイマンちゃんからいってみよう~♪



 ベルリバー=ノイストン=レイマン


 LV27  剣士


 HP 2085/2105 

 MP 0/0


 力     321

 魔力      3

 素早さ   274

 体力    298

 知力    370


 スキル 剣術LV7 体術LV6 先見LV9 

 特技  鈴川流刀剣術



 ほっほ~成長したね! もう完全に上級剣士のレベルを超えてるよ! 流石は長兄だね。続いてシエルちゃんはっと……。


 ベルリバー=ノイストン=シエル


 LV25  剣士


 HP 1721/1750 

 MP 0/0


 力     213

 魔力      7

 素早さ   354

 体力    198

 知力    402


 スキル 剣術LV6 体術LV7 軍師LV9

 特技  鈴川流刀剣術



 とりあえず久しぶりに能力見たけど二人共、一番飛び抜けている個性が剣士のそれじゃない件ね?

 戦術には欠かせないものなんだろうけど。それに二人共めちゃめちゃ賢いよね? ステータス内で一番高いのが知力って……。


 ま、まあインテリ剣士が悪いって訳じゃないからね。さてさてお楽しみのハヤテはどれぐらい成長したのかな?



 ベルリバー=ノイストン=ハヤテ


 LV32  剣……士?


 HP 701/3210 

 MP 4/194


 力    425

 魔力    27

 素早さ  326

 体力   439

 知力   298


 スキル 剣術LV2 体術LV9 

 特技  魔力変換



 いや、ツッコみ所が多過ぎるわっ!


 とりま、勝負する前からめっちゃ消耗してるじゃないの! レベルやステータスが兄と姉を上回ってるのは凄いけど、剣術レベル低っ! てか特技に鈴川流刀剣術が無いよね!? まだ覚えれてないの!? それに何よ魔力変換って!? 


 あと、地味な魔力の割りにそこそこMPもあるし……。能力を見たのは子供の時以来だけどMPは三人とも0だったと記憶してるんだけど?


 そしてなにより……職業欄ブレてるけど!? 初めてだよ!? クエスチョンマークが付く職業って! 私、疲れてるの!?


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