〜新しい依頼〜
「セシル、兄さんから少し話がある」
俺はそう切り出し、母とリーナにもきてもらった。部屋の一室で話を始める。4人だけの空間。話し出すその前に少し深呼吸をした。
「大事な話だ、よく聞いてくれ。
・・・セシル、お前には人と違う部分がある。その『紅い眼』だ。
・・・実はそれはこの大陸全土で、『悪魔が持つ眼』とされているんだ。書物にも、伝説にも絶対に記されている悪魔の共通点、それが『紅眼』なんだ。
これはこの大陸のどの国でも共通の認識としてある。だからこれから外に出るには目だけは必ず隠さなければならないだろう。
・・・今まで言えなくてすまない。」
「・・・私の目が悪魔と同じ目?本当に紅色の目は人間にはいないのですか・・・?」
「そうらしい。少なくとも俺は今までで一度も会ったことは無い。
冒険者になりたいのはいい。が、目だけは隠さなければならない。・・・ごめんな。お前は何も悪く無いのに。」
「・・・そうなんですか・・・私の目が・・・。私は目を隠してさえいればいいのですよね?それは構いませんが・・・。
もしかして私のせいで母様や兄様が辛い思いをなさってきた、なんてことがあったのですか・・・?」
・・・なっ・・・!!俺はすぐに否定しようとしたが、俺より先に出た母の言葉に遮られた。
「辛い思いなど何もしていないわ。確かに私とルークはあなたと一緒に家を出た。
・・・だけどあなたと一緒にいることは私たちが望んだことよ。私にとってあなたは愛する娘。ルークにとってあなたは愛する妹。
あなたは誰よりも愛されてここにいるわ。・・・それにあなたにはもう大切な友達もできたでしょう?」
そう言って母上はリーナに向かって視線を移した。その彼女が話し始める。
「そうだよ!私もセシルが大好き!そんな目のことなんかなんか気にすることないよ!
誰よりも綺麗な・・・私の大切な友達の目だよ!」
・・・やはり彼女に友人になってもらったことは間違いなかった。彼女はセシルの大切な友達だ。これからもそうあって欲しい。俺も言葉を続けた。
「そうだお前の目は誰よりも綺麗だ。この世界が間違っているだけ。
・・・だが外にでるには目を隠さなければならないのは事実。何もできない兄を呪ってくれ。
だがお前に危害を加えようとする人間がいれば俺が潰す。何があろうと俺が守ってやる。冒険者になりたいならそうするといい。
俺はお前の兄だ。何があってもお前を守るよ。」
「・・・・・!!!・・・・」
彼女の目から涙がこぼれ落ちる。あぁ、泣かせてしまった。妹の泣いた顔など見たくないのに。
「・・・みんな、ありがとう・・・!今まで私を守ってくれて・・・助けてくれて・・・
これからも私の大切な『家族』でいてください・・・!」
彼女は前を向いた。自分の背負った過酷な運命を知ってもなお、前を向いたのだ。
全員がセシルを抱くように集まった。
「ああ。何が起きようと必ず一緒だ。俺が約束する」
「私も変わらずこれからの二人の行く末を見守っていくわ」
「セシルは私の大切な友達!ううん、通り越してもう妹なの!絶対に一緒にいる!!私も守ってあげる!!」
「・・・みんなありがとう!!!」
彼女の綺麗な瞳が輝き、太陽が昇ったように感じた。
===
その出来事の2日後、俺と彼女たちは冒険者登録に向かった。俺は『ルーク本人』として新規登録。二人は本当の新規登録だ。黒の装束で白髪だとあまりにも『ACE』と被るので服は青と白を基調としたもの、仮面はなく、新調した剣を帯剣している。剣士としての登録とすることにした。
そして妹セシル、彼女は白の髪に白の服、そして魔法士としてわかりやすく、杖を持っている。そして特徴的なのは切れ長の目を思わせる細めの濃い色のサングラスをつけている。
最後にリーナ、彼女は溌剌とした赤毛に黒目、彼女は白と黒が混じり合った服を着て、帯剣をしている。彼女の剣は俺が用意したものではなく、冒険者になるということで12歳の誕生日のお祝いとして両親にもらったものだそうだ。
ちなみに彼女の両親はリーナが自分たちのパーティへ入ると疑っていなかったようだが、普通に断られてショックを受けたようだ。
3人で冒険者ギルドの扉を開ける。俺たちの新しい日々が始まったのだった。
===
俺たち3人の冒険者としての道のりは順調であった。セシルは外の世界のあらゆることに目を輝かせ、地味な依頼でも真面目にこなした。ちなみに地味な依頼の時は、リーナは嫌がっていることが多かったが。
討伐依頼になってからは変わり身でかなりのやる気を出した。
俺たち3人パーティの連携力、総合力は共に圧倒的なものだった。俺たちの受けた討伐依頼はすぐに達成され、ギルドでの評価を上げていった。
前衛二人に後衛の魔法士一人。3人パーティでは一番理想的と言える構成。すぐにCランクの討伐依頼も受けるようになったが、危なくなったことは一度もなかった。彼女たち2人でも問題ないと言えるほどの息の合い方を見せていたのだ。
そんな俺たちの評価も伴い合同クエストの依頼が舞い込んできた。
『雨砂蛙』の討伐。ある湖の辺りで、生まれた魔物同士が交配し群れを成した。どんどん数を増やしており、やがて手に負えなくなる。その前に多数のパーティ合同の依頼が発行され、討伐してしまおうという話だ。この手の大量発生の依頼は『討伐一体』ごとに依頼料が発生することが多い。指名されたパーティは稼ぎ時だと言わんばかりに、参加を表明した。だがこの依頼は他のパーティと足並みを揃えなくてはならず、俺たちだけ先に行くとは言えない。行きに3日かかるほどの距離であり、俺たちは母へ相談するため、一度持ち帰った。
相談を聞いた母の言葉は「私は一人で大丈夫だから、いってきなさい」、だった。その言葉に甘え、俺たちは行くことにした。
しばらく家を空ける。こんなことは今までなかった。
長く開けて一日。家にいる妹が心配だった俺はそれ以上家を空けたことはなかった。だが今は妹も一緒の依頼になる。彼女たちも小旅行のようにかなり楽しみにしているようだ。
他のパーティとも一緒で、俺が気を使うことがありそうではあるがな。
「では母上、いってきます」
「ええ、いってらっしゃい」
「お母様、頑張ってきますね!!」
「セシルも、気をつけてね。・・・リーナ、この子のことをお願いね。」
「・・・?はい!」
各々別れを済ませ、俺たちは合同クエストへと向かったのであった。