〜1年間〜
リーナはここ最近毎日と言って良いほど来ている。聞いたところによると、リーナの両親は二人とも冒険者であり、同じパーティに所属しており、小さいが家を買って幸せに暮らしているという。冒険者のランクもCでそこそこだと言える。が、俺のようにたまに働いてしばらく休み、では生活は立ち行かない。共働きで二人ともCランクなら大体週の半分は働くのが普通であろう。
そんな両親の元で育ったので、自分が冒険者になる道は疑わなかったそうだが、魔法を使うというのは想像できなかったらしい。彼女の両親は前衛の剣士タイプで、ほぼ魔法を使えないらしい。だから両親に教えられた剣術で冒険者になろうとしているそうだ。俺はそんな彼女に、知っていて損をしない魔法を教えることにしたのだ。
『火』、『水』、そして『身体強化』
それぞれ、『火』は肉を焼くときなどに。『水』は飲料水や体を清めるものとして。
護衛の依頼や、少し遠目の魔物の討伐など、任務が長いものになるにつれてこれらは重宝される。パーティに魔法を使える人間が他にいればいいが、自分で使えるに越したことはないのだ。
そして前衛たる剣士にとって最も重要なのが『身体強化』。これは戦闘をする人間には誰しも必要だと言えるのだが、自身の体を魔力で強化し、攻撃力、防御力、瞬発力をあげることができる。これができる人間とできない人間では戦闘力に大きな差が出る。前衛なら是非とも覚えて欲しい魔法だ。
俺が見本を見せると、頑張って再現しようと頑張っている。コツを掴むまでが大変だ。
彼女の剣には努力した鋭い太刀筋がある。ここに身体強化を乗せることができれば、余裕で両親を超える冒険者になるだろう。
その一方でセシルは魔法の才能がある。教えればすぐに飲み込むし、魔力も底が見えない。
1年まともに魔法の練習すればAランクまでは確実に手が届くレベルになるだろう。魔物との実践経験も必要になるから、そんな簡単な話でもないが。
将来的には俺とセシルとリーナでパーティを組むのが良いのかもしれない。その場合はセシルは仮面などで目を隠して、俺が新規の登録になるが。
新しい生活にもかなり慣れてきていた。母も含め俺たち兄弟も穏やかな暮らしができている。最初の苦労は無駄ではなかったな。金のことも心配はないし、ここでの生活もかなり長くなった。・・・あれからもう9年か。
・・・ただ妹には『紅眼』の伝説のことは伝えられていない。リーナは悪魔との関連性を知りながら仲良くしてくれているが、いつまでもそうは言っていられない。セシルもこのまま籠の中の鳥、というわけにはいかないのだから。外に出ようとするならば、目を隠さなければならない。
理由は聞くな、だが目を隠せ、という訳にはいかない。その時に理由はしっかりと話す必要がある。
・・・正直に言って、それを伝える覚悟が今の俺にはない。友達ができてこんなにも明るくなった妹の顔を曇らせるようなことを言いたくはない。
・・・これは逃げだが、今はまだそうさせて欲しい。
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そんな生活を続けて一年あまり、かなりの成果があった。それぞれ歳を重ね、俺は17、セシルとリーナは12歳となった。ちなみにこの12歳という年齢は冒険者に登録できる年齢を意味するのだ。これは彼女らにとってかなり大きな変化だと言える。特にリーナ。彼女は近く冒険者登録をしようと思っているらしい。両親が冒険者なのだから当然か。俺のことはごくたまにしか仕事に行かない、お金持ちだと思っているらしい。まあ冒険者としての立場は明かしていないから当然か。
この一年であった変化について伝えよう。
まず俺、ルークは17になり、『ACE』としての仕事もそこそこに行っていた。適度に金を稼ぎ、生活の水準を維持する。一家の大黒柱として仕事を果たしていた。また妹セシルとその友達のリーナへの魔法、剣術の鍛錬も行なっており、中々に忙しい日々を送っていた。
そして母レイン。彼女は元々放任主義で俺やセシルのやることを陰ながら応援してくれていた。「好きなことをしなさい、それが何でも応援してあげるわ」という母の言葉は偉大だ。そんな言葉を背に俺たちは迷うことなくやりたいことができた。
メイドや執事を雇えない我が家の家事等はほぼ全て母がしてくれていたし、さらに言えば彼女は元々裁縫が得意で、彼女が作る編み物は市場ではかなり良い値で売れ、生活面でも支えてくれていた。
次にセシル。妹は魔法の才能があったため、俺が使える魔法を吸収するようにどんどんと覚えていった。光の魔法から始まり、ほぼ全ての種類の魔法をマスターしていった。リーナとの性格的な相性も良く、共に切磋琢磨する良い関係になったようだ。
最後にリーナ。彼女は剣士としての才能を開花させた。元々生まれ持った反射神経の良さ、そして目の良さが、身体強化とうまくマッチしたのだ。魔力は少ないものの、直接的に魔法を使うわけではないので、魔力はそこまで必要ない。必要な時に必要な箇所に魔力を使う。そういう使い方ができることで、身体強化をしていられる時間も長い。俺が見た限りでは、今冒険者になったとしてもすぐに親のランクを超えるような実力になってしまっただろう。恐ろしいことだ。
ーーそして今俺は選択を迫られている。妹セシルに悪魔にまつわる話をするかどうか。12歳になって、妹は冒険者になってみたいと言っている。母は話すかどうかは俺に任せるそうだ。ただ話す場には同席する、と。
・・・セシルが外に出たいというなら話すしかない。妹が過酷な運命を背負っているとしても、それから永遠に逃げることはできない。彼女がそれを受け入れることができれば、生きようはある。外では目を晒さない。それを徹底さえできれば最悪それだけでいい。妹が少なからず辛い思いをする。それはわかっているが、彼女は一人の人間としてそれと向き合う時期なのかもしれない。
「セシル、兄さんから少し話がある」
俺はそう切り出したのだった。