〜新しい生活、友〜
『ACE』
もう冒険者の中では知らないものはいない。武器は基本的になにも装備しておらず、真っ黒な装束を身に纏った白髪。
その人物は金の仮面を用いて顔を隠しており、光の剣技、光の魔法を使いこなす。その威力、破壊力、どれをとっても一級品。
歴代最高の冒険者と名高い。彼に依頼を出せばどんな魔物でも殺してくれる。だが彼ばかりに依頼が集中するのは困る。そこで出た案が、ギルドから特別な地位を与えること。それで解決しようとした。数度目の例外である。
そこで彼に与えられた名が『ACE』
力の規模、継戦能力、問題解決の早さ。それらを敬い彼に『ACE』の名を与えたのだ。彼を指名して依頼を出す場合は、ギルドが間に入り、必ず上層部での協議が入る。彼に頼むときは緊急の要件のみ。そう定められ、その場合でも法外な金額が動く事になる。
また彼は普通の依頼を受けることができない。F~Sの間で割り振られる依頼には手を出すことはできないのだ。それは他の冒険者たちの生活を守る処置であり、また依頼者に文句を出させないための処置である。
同じような内容なのに、『ACE』によって解決された案件とそうでない案件が出るのはまずいのだ。普通の冒険者が担当した側に、こちらは手を抜かれているのかと捉えられかねない。
『ACE』は選ばれた特別な人間でなければならないのだ。
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「セシル、今日はなにをしてあそぼうか?」
白髪青目の優しげな男、16歳になったルークが妹に話しかける。
「お兄様、今日は魔法を教えて欲しいです!!」
11歳になった妹のセシルは兄と同じ白髪を靡かせ、美しい紅い眼をキラキラさせながら俺に言ってくる。
この眼を見るたび彼女が可哀想になる。
しかし魔法かぁ、そろそろ本格的に自衛の方法も覚えるべきかな。
これからなにが彼女を襲うかわからない。
「わかったよ、じゃあ今日は魔法の練習をしてみようか!」
「やった!ありがとうございます、お兄様!!」
1日の予定がそう決まった俺たちは、家の庭に移動した。
この国についてから今までの約9年のうち、最初が一番苦労した。そもそも森に住んでいたしな。力に目覚めた俺は、すぐに冒険者となる事にした。年齢は達していなかったが、姿は力によってごまかした。当時この国を騒がせていた、『下位竜』の首を土産として。
そうして最初に苦労したおかげもあり、俺は3人の生活のため必死に金をため、半年ほどで街の中に、冒険者としては破格の大きさの家を買って、生活できている。
セシルの物心つく前に家を買って、外の視線から遮断しようと考えた俺の計画である。家の周りには一年中葉をつける木を生やして取り囲んでおり、街の中だが外の視線から隔離されているのだ。
またこれはセシルに窮屈な思いをさせないための処置でもある。大きな庭があれば俺がいなくても母とも自由に遊べる。このように魔法の練習にも使うことができるのである。
俺たちは庭へと移動してきた。
「セシル、最初は何の魔法から覚えたい?」
最初として無難なのは水か土の魔法か。守ることに適しているし、何かあったときの生活用にも火の次ぐらいに必要になる。
「お兄様と同じ光の魔法がいいです!!」
光はなあ・・・魔法としても存在するが扱いが難しい。おそらく尖った魔法使いになる。俺としては守りに特化したところから覚えさせたいんだが・・・。
「兄さんがおすすめなのは、水か土だが、どうしても光がいいのか?」
「はい!!お兄様と同じがいいです!!」
俺もセシルも魔力は多い。何かが憑いてる影響だろう。光は魔力を多く食うがその点は心配はない。せっかくの本人の意思だ。光の魔法を覚えさせようか。
「・・・わかった。母上もそれでいいと思いますか?」
俺たちの様子を縁側で座ってみていた母上レインへと聞いてみる。
「好きなことをさせるのが一番よ、好きであることが上達への近道だわ」
母上にも承諾を得た。これから光の魔法を教えていこう。
「ではセシル、これから光の魔法を教える、難しいぞ、頑張ろうな」
「はいお願いします、お兄様!」
庭での特訓が始まったのだった。
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この地に住む子供たちは、好奇心旺盛だ。この地に生まれて、数多くの冒険者の姿をみている彼らは自分らもそうなるんだと疑わない。ある者は剣の稽古をし、ある者は魔法の稽古をして過ごす。
そんな子供の中の一人、リーナも将来冒険者になろうとしている一人だった。
11歳、綺麗な赤毛に黒の瞳。女の子ながら剣士に憧れていた。
そんなリーナは街を歩きながら剣のことばかり考えている。こうしたらもっと早く剣を振れる、とか魔物と対峙した時にはどうしようか、とか。
そんなことを考えていたらどこかよくわからないところまで来てしまっていた。
「あれ?ここどこだろう・・・?」
若干の不安を覚えつつも元きた方向へと戻ろうとする。気にせず歩いていると、大きな金持ちの館らしき中から声が聞こえてきた。その方向を見ると眩い光が敷地内から発光している。
「お兄様すごいです!」
「この魔法は咄嗟の時相手と距離を取れる。ただ掌から眩しい光を発するだけの魔法だけど、人間も魔物も視覚に頼っているものが多いからね。覚えておくと次の魔法を準備する時間が取れるよ。
これが初歩だからまずはこれを覚えてみよう。」
そんな声が聞こえてきて、光魔法に物珍しさを感じ、視界を遮る木をかき分けて中へと入っていく。この年齢は怖いもの知らずなのだ。やがて葉をかき分けて見えてきたものは、この世界では珍しい白髪の二人が魔法の練習をしているところだった。
それはなんというか絵画のような美しい光景だった。この二人だけ生きてきた場所が違うような高貴な印象も受けたし、この2人は顔が信じられないほど整っている。兄の方からは、慈しみと共に、黒い感情も見受けられる表情を時折覗かせる。妹の方からは兄への敬愛。そして純白な印象を受けた。そんな光景を高めに作られた塀の上から見ていると、支えに持っていた木がボキッとおれた。支えを失ったリーナは前へと倒れ込んでしまった。
「うわぁぁ!!」
ドサッという音と共に落下したリーナはいてて・・・と言っている。そんな彼女は3人からの視線を集める。
「・・・誰だ?」
白髪で綺麗な青眼を携えた青年がこちらを見て尋ねる。
リーナは勝手に入ってしまったことで怒っていると思った。
「ごめんなさいっ!なんか光が見えて、なんだろうと思って覗いちゃいました!でもお兄さんの光る魔法すごかったです!!
あ、あと、そこの子!ねえねえ、同い年ぐらいだよね!?名前教えてー!!」
ひとしきりしゃべった後、セシルに名前を聞いた。
「えっと・・・私の名前はセシルです。こっちは兄のルークお兄様・・・」
「可愛い名前だねっっ!私はリーナ!よろしくねー!
魔法の練習してるのっ!?私も見たいなあ!私は剣士になりたいんだけど魔法もかっこいいもんねえ!!
ねえねえ、私もここに剣の練習しにきていーい?一緒に練習できる友達欲しかったの!」
「・・・私も友達欲しかった。いいよ!
お兄様・・・いい?」
俺にセシルが聞いてくる。友達ができるのは嬉しいことだが、その前に確認はしなきゃならない。
リーナの元へいき小声で話す。
「・・・君はセシルの目を見てなんとも思わないのか?」
「紅色の目だから?
そんなの関係ないじゃん!
私は綺麗だと思うよ!それにセシルはセシル、関係ないでしょ?」
・・・そうか。そう思ってくれているなら友達として受け入れてもいいか。それに伴って多少の危険は付き纏うが、セシルのような年齢の子にとって友達というのも大事だろう。
「ただ一つ約束して欲しい。セシルの目の色は外では誰にも言わないでくれ」
「うん、わかった!」
「・・・あと、次からは門でベルを鳴らせ。変なところから入るな」
「えへへ、ごめんなさいっ!」
そうしてセシルに新しい友達ができたのだった。