〜生い立ち〜
ーーこの世界の半分以上は一つの国が治めている。最強と謳われる軍隊を持ち、今代の皇帝時、それを『外』へと用いるときには絶対に勝利を収めてきた。軍隊がそのまま国になったような国。
その国の名はヴィスタール帝国。征服を繰り返すことにより、今では多くの属国を持ち、今代の皇帝で、この大陸の全てを支配するに至った。
そしてその国の皇帝の名はヴィルヘルム=ヴィスタール。齢59だが衰えない強靭な肉体を持つ最強の国の『帝王』。
彼は自ら欲しいものは手に入れ、自らの判断によって要らないものは全て排除してきた。そうしてこの国と陸続きの大陸全てを遂に属国としたのだ。
そんな皇帝に今まさに排除されようとしている女児の赤子が一人。
彼女の名はセシル=ヴィスタール。まだ生まれて半年の赤子。だがこの皇帝にとってはそんなことはどうでもいいことだった。
「『悪魔の宿し子』としてその『紅眼』を追放処分とする。」
その絶対者の声に、異議を唱える少年がいた。
「・・・父上!!生まれたばかりの子を『伝説』ごときのために追放などしないでください!」
「お前も追放されたいのか?ルーク」
「・・・俺の大事な妹なんです。お願いします・・・」
「ならん。」
「・・・父上にとっても大事な娘のはずです・・・」
「そんなモノはどうでもいい。完璧な余の治世に邪魔者はいらん。」
「・・・父上っ・・・!!」
「そんなに一緒にいたいならお前も一緒に出ていけばよい。さらばだ。」
俺の目に最後に映ったのは、俺たちのことなど意にも解さない皇帝の姿だった。
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魔物が蔓延るこの世界。この世界には『魔物の湧き出やすい地点』というものが存在する。人々はその場所を『魔佛点』と呼び、その場所からは離れるという手段が多く取られてきた。地面から吹き出す大量の魔力の点。それらは行き場をなくし、やがて魔物の姿を象る。そして長い時間魔物も生み出されず、魔力が溜まり切ったとき、『悪魔』が生まれるという。
そんな『悪魔』の特徴とは、ずばり『紅眼』。どんな物語にも、書物にも、必ず『紅眼』として語られているのだ。そしてこの世界の人間で唯一確認されない目の色でもある。
俺の妹はそんな目を生まれつき持ってしまった。悪魔は魔物の一種。魔物のさらに上の存在。
それと目の色が一緒なだけで、俺の妹は迫害される。この世界のどこにも行き場はないのだ。
・・・俺の目と交換してやりたい。何度そう思ったことか。
ただでさえ俺たち兄妹は珍しい白の髪を持つ。人目を引きやすいのだ。
そんな俺たちがついに行き着いたのは、大陸の端、母親レインが住んでいた事のある国、リュールベーン国だった。この国は現在、お世辞にもうまくいっているとはいえなかった。
なにせかなり大きい『魔沸点』が存在しているのだ。そこから次々と生まれてくる魔物と戦うために多くの冒険者へ依頼を出す。依頼にはもちろん金がかかるが魔物の素材等が流通することでうまくいっていた。だが属国となってしまったことで、上へ取られる金が増えてしまった。
魔物と戦うために多くの冒険者が集う粗野な国。それがこの国だ。
そんな国だからこそ、俺たちが隠れるのには適していた。
俺たち3人はこの国へたどり着くまで、1年半。俺が盗みを働いてなんとか生きていた。ここまでの旅で妹の目を見た人間には軽蔑の眼差しを向けられ続けてきた。真っ当な国で、真っ当に生きるのは無理だ。そう考えた俺は母と妹2人を養うため、俺は盗みを働いた。時には捕まり、ボコボコにされた。それでもやめなかった。
やっとの思いでリュールベーン国へ着いた俺たちは、森の中に木を軽く組んだだけの簡素な家を作り、なにもない家で静かに暮らしていた。基本的な飲み水や火は確保できていたため、問題ない。家の周りに簡易だが柵も設置した。ここを選んだ最大の理由としては人が滅多に来ないことだった。
そこが『魔佛点』のすぐそばだとも知らずに。
ある日いつも通り街へ行き、俺が『家』に戻った時、作って住んでいた家がバラバラになって原型を保っていなかった。
母は、妹は、と探す手間はかからなかった。『家』のすぐそこにまだ2歳になったばかりの妹が宙に浮き、体からどす黒い魔力を宿し、辺りを吹き飛ばしていたのを見てしまったのだ。
俺が着いてそれはすぐに収まり、その後母から事情を聞くと、家が魔物の群れに襲われ、それらから母を守るようにして体の中から力が噴出したそうだ。だが母はこの現象を驚きでは見ていなかった。納得したような、諦めたような。そんなどうにも言い表し辛い表情。
その後、一週間に渡って妹は高熱を出し続けた。力を出した反動だろう。
妹の力が何なのかわからない。だが妹を守れるものは俺しかいないのだ。それなら俺が何もかも守れる男になればいい。
それから数日気を取り直し、また新たに家を作るために必要なものを集めていた俺は、どこからか何かとてつもない力の奔流を感じ、誘われるように歩いていった。
ふらふらと、だがその足取りは目的があるように向かっていく。その先にあったのは大地から吹き出すとめどない魔力。
後から知ったことだがそこは『魔沸点』と呼ばれ、この大陸最大の魔力の奔流だった。
俺はその魔力を発する『点』に誘われるようにして手を突っ込んだ。
ーーー呼び起こせ、力を。妹を守るために。かの帝国を滅ぼすためにーーー
ーーーその声の後、俺はいつの間にか気を失っていた。
・・・起きたら頭が痛い。魔物等に襲われなかっただけありがたいと思うか。
だが目を覚ました俺は、自分に新たに覚醒した力をすぐに使うことができた。
まるで導かれるように。
ずっとそこにあった力のように。
2作品目、書き始めました。
一日一投稿目指してがんばりますのでよろしくお願いします。