表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/52

書籍版1巻発売お礼ss:起きたかもしれないIFの世界



 それは王宮で開かれたパーティーでのこと。

 ランディア家次期公爵であるクラウディオは、父親の名代として出席していた。適当なグラスを手に立っていると、貴族の男性が話しかけてくる。


「クラウディオ様、よければ私の娘と少しお顔合わせなど……」

「すみません。今日はそうしたつもりではなくて」

「そ、そうですか……」


 男性の後ろには若い女性が控えており、クラウディオは申し訳なさそうに頭を下げた。だがそれ以上会話を続けることはせず、さりげなくその場を立ち去る。

 するとそのやり取りを見ていたのか、周りにいた貴族たちがひそひそと囁いた。


「ランディア家は、本当に血を継いでいく気があるのかねえ」

「噂じゃ、隣国の王族からも縁談があったのに断ったとか。選びたいのも分かるが、結婚とはそもそもそういうものでは――」

「…………」


 悪意を孕んだそれらを無視し、クラウディオはくいっとグラスの酒を吞み干す。彼らが言っていることはもっともだ。しかし――。


(ベアトリス様……)


 ルイスという名前だった前世、最愛の女隊長にプロポーズをした。死の間際、それを受け入れてくれた彼女の言葉が転生した今でも忘れられない。

 だからこそ彼女が自分同様に生まれ変わっていると信じ、結婚相手にふさわしい男になろうと努力を続けているというのに――。


(やはりベアトリス様は生まれ変わっておられないのだろうか……。いい加減、俺も諦めないと――)


 すると会場の出入り口付近から歩いてきた男性たちが、どこか興奮気味に話をしていた。


「なあ! すごかったなさっきの!」

「ああ。目が覚めるような白銀の髪に凛々しい紫色の瞳。おまけに完璧な体つきときた。今まで見かけたことがなかったから、今日が社交界デビューか? しかしあれだけの美貌だ。周りが放っておかないだろ」

(銀の髪に、紫の瞳……?)


 クラウディオの脳裏にかつての女隊長の姿が浮かぶ。まさかと思いつつも、足は自然と男たちが歩いてきた方へと向かっていた。


(もしかして、ベアトリス様……⁉)


 やがて、ひと際人の集まっている場所が見えてきた。取り巻いている男女を押しのけると、クラウディオは輪の中心にいる人物に声をかける。


「あの! すみません!」


 声が届いたのか、その人物はゆっくりとこちらを振り向いた。今にも心臓が飛び出しそうな気持ちで、クラウディオはこくりと息を吞む。

 目に飛び込んできたのは艶やかな銀の髪に、瀟洒な紫色の瞳。そして――。


「おお! もしかしてルイスか⁉」

「……ベアトリス……様……?」


 ジャケットを着ていても分かる、立派な上腕二頭筋。

 今にもボタンがはじけ飛びそうな胸筋とともに、溌剌とした()()が振り返った。


「やっぱりルイスだな! まさかまた会えるとは」

「ええと、その……ベアトリス様、ですよね……?」

「そうだ。君と再会してはっきり思い出したよ」


 はっはと快活に笑う姿は、前世で覚えている女隊長のまま。だがそのあまりの変貌ぶりに、クラウディオは理解が追いつかなくなっていた。


「転生……なさっていたんですね……その……男性に……」

「ああ。ベアトリス時代も特に不便はなかったが、やはり男の体は楽でいいな! 剣を振るっても疲れ知らずだし、ちょっとの怪我なら寝ていれば治る。まあこれは昔からか」

「は、はは……」


 次に出会えた時は、何があっても彼女を守れる強い男になりたいと。それだけを願って毎日毎日、努力してきたというのに。


(よく考えてみれば……次も同じ性別で生まれてくるという保証は……なかったな……)


 蒼白になるクラウディオの肩を、元・ベアトリスががっちりと組む。


「しかし良かった。これでまた、お前と戦うことが出来るな」

「ベアトリス様……」

「……それとも、前世であんな失態をした私のもとで働くのは、もう嫌か?」


 ふっと彼の表情が陰った気がして、クラウディオはすぐさま左右に首を振った。


(――違う。性別なんて関係ない! もう二度と、ベアトリス様に悲しい思いをさせないと誓ったはずだろう――)


「とんでもありません! どんなあなたであろうとも、俺は――」



「――はっ‼」


 団長室の執務机に向かっていたクラウディオは、勢いよく頭を跳ね上げた。

 全身汗みずくの状態で周囲を見回す。すると書棚の前に立っていたリヴィアが振り返り、これまた驚いたように目をぱちくりさせていた。


「クラウディオ、大丈夫か?」

「す、すみません、リヴィア様……ちょっと夢を見ていたようで……」


 思わず自身の頬をつねる。しっかりとした痛みとともに、視界に入る華奢なリヴィアの姿を確認し、クラウディオはようやくほっと胸をなでおろした。

 そんな彼の様子に不安を覚えたのか、リヴィアがとことこと近づいてくる。


「ひどい汗だぞ? ちゃんと休んだ方がいいんじゃないか?」

「いえ……それよりリヴィア様」

「なんだ?」

「俺はどんなあなたでも、好きですから……」

「なっ、なんだいきなり……」


 突然の告白に、リヴィアが一瞬で真っ赤になる。

 その愛らしい様子に、クラウディオはなんとも幸せな気持ちになるのであった。


(了)



 

書籍版1巻発売お礼ssでした!

紙本にはこれとは違うss2本、電子にはさらに+1本(計3本)の書き下ろしが収録されております。

よければお近くの書店さま、またはお好きな電子書店で手に取っていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
\書籍版発売中です!/
66on7vr78ok1spj7vaifkj22_ut8_9s_dw_1r18.jpg
\コミックス1巻発売中です!/
bzq46uw9ikn1cx6c2nv5kz69dple_xc_9s_dw_1sfl.jpg
\コミカライズ連載中です!/
jbe1j2r73c946kwh1ac0lppcehjg_dsj_m5_94_1dl9.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ