【おまけ】とある病院の廊下にて
廊下を通り過ぎる看護師たちが、彼とすれ違うたびに次々と振り返る。
それはもちろん、彼が絵本に出てくる王子様のような美貌の青年だったこともあるが、何より――人目をはばからず、涙を零していたせいであった。
(何年越しの、失恋をしたんだ、僕は……)
リヴィアにはああ伝えたが、正確には前世のラウルは振られたわけではなかった。
だが結んでいた婚約はほぼラウル――ディエゴの家が持つ権力に任せて結ばせたものであり、リヴィアからの気持ちは皆無に等しかった。
それでも良かった。
あの美しい戦乙女に心を奪われた日から、彼女を自分の物に出来るのであれば、どんな繋がりでもいいと振る舞い続けた。
その結果として、名前だけの『婚約者』という地位を手に入れたのだ。
(絶対に誰の物にもならないと思っていたのに……あっけないな)
戦いに関しては万能だったが、恋愛事になると途端に弱気になるベアトリス。
ディエゴはそんな彼女が愛おしく、今は契約書だけの関係であっても、いつかは必ず自分の方を振り向かせると誓っていた。
そんなある日、突然彼女の訃報が入った。
人のよりつかない辺境の地。部隊の亡骸からわずかに離れた森の中で、たった一人で亡くなっていたと聞いた。それを聞いた時、ディエゴはこの世界のすべてを呪ったものだ。
(ようやく、再会出来たと思っていたのに……)
それから二百五十年後の世界でようやく、神の御使いのようだったベアトリスは、ただの可愛らしい少女になってラウルの前に現れた。
だがその時既に彼女は恋をしていた。
それも自分ではない男に。
(いくら僕でも、あんな顔をしていれば、すぐに分かる……)
あの時点では、まだリヴィアは自分の恋心に無自覚だった。だからラウルも負けじと婚約を申し込んだ。
だが日を追うにつれ、クラウディオを見つめる彼女の目が変わっていることに、ラウルは気づいてしまった。
戦乙女と称えられた彼女からは想像も出来ないほど――まるで、普通の少女のように熱に浮かされた視線。
それが恋する者の目だと分かったのは――きっとラウルもまた、彼女に恋をしていたからに違いない。
ラウルとすれ違った看護師たちが、再び次々と振り返る。
その熱い視線たちに気づかないまま、ラウルはただぼたぼたと涙を流しながら病院を後にした。
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お礼に、クラウディオを殴った後のラウルでした。
(短くて申し訳ありません…)







