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魔法使いの箱庭  作者: 夕菜
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第1章 2





 乃和は半ば呆れ気味にそう返すが、青年は気に留める様子なく続ける。

「知ってるのか?現実の瞳は簡単に手に入るんだぞ。アプリに夢中の人間の瞳から、「現実を映す力」を吸い取ればあっという間だ」

「……つまり、あなたはみのりじゃない。じゃーみのりは?どこ?」

「アプリの中だ。現実を映す瞳は、オレが奪ったからな。もうここに戻ることはないだろう」

「……うそ」

「うそなんてついて何になる?そもそも嘘をつくのは、人間だけだがなぁ!」

 心臓にヒヤリとしたものを感じた。

 その感覚が嘘だと信じて、乃和は駆け出す。

 自宅を通り過ぎると、みのりの住むアパートへ向かった。

「みのり!いる!?」

 みのりの住む部屋のドアを強くノックする。

 ……が、返事はない。

 ドアに手をかけ、回すと、鍵はかかっていなかった。

「……」

 中に歩みを進める。

 そこには以前訪れた時とは全く違った景色が広がっていた。

 家具が一切置いていない。人が住んでいる部屋とは思えなかった。

 立ち尽くすことしかできないでいると、目の前にバチリと電気が走り、先ほどの青年が現れる。

「だから言っただろう?ユーザーみのりはもういない。

 しばらくは、オレが住むことになるだろうから、邪魔な雑貨はすべて捨てさせてもらった。これでも狭くて窮屈だが、部屋がないよりマシだろう」

「信じられない……みのりの部屋なのに」

「もう戻ることのないやつのための部屋なんて必要ないだろう?」

 青年は勝ち誇った笑みを浮かべて、

「人間のふりをして生活している魔法使いは他にもたくさんいる。アプリ界と現実界が逆転するのもそう遠い未来ではない!

 何も知らない人間、そろそろ危機感を持った方がいいぞ?まぁお前らにその言葉は通用しないと思うが!」

 青年が発する言葉よりも、みのりがいなくなった事実が受け入れられなかった。

 乃和はその場に力なく座り込む。

「っ……みのり」

(本当にもう、会えないの……?)

「そうだ、お前の瞳、現実を映す力を吸い取れない……本当にやっかいものだな。よく見せてみろ」

 青年は乃和の顏を掌でつかみ、その瞳をまじまじと覗き込む。

 青年のグレーの瞳と目があった。

 すると青年は、表情を歪めて、乃和から手を離す。

「一体何なんだ?すごく嫌な感じがするぞ……人間の瞳とは思えない。

 やはり、始末しておいた方がよさそうだな!」

 青年は手の中に、バチリと何かを現す。

 ……拳銃だ。

 あのデザインは見覚えがある。

 みのりがまえに「レアアイテム手に入れたんだ~」とアプリ画面を見せてくれた。きっとそれだろう。

 その時は「魔法使いが拳銃使うのっておかしくない?」と思ったが、今はそんなことどうでもよかった。

 ……間違いなく命の危機だ。

 立ち上がり逃げようと試みるが、情けないことに足の震えがとまらなく、身動きがとれなかった。

「っ……」

 青年が銃口を向けたそのとき。

「!」

 乃和の後方から、光の筋が通過する。それは、青年の銃を勢いよく弾き落とした。

「あ~これは想定外の事態だ」

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこに立っていたのは、兄の蓮だ。

 蓮の黒髪や、瞳は、青白い光を帯びている。いつもとは違うその姿を見た乃和は

(やっぱり兄さんは人間じゃないんだ)

 と確信した。

 しかもよくよく見ると、蓮の手元は異様な形だった。

 肌色の皮膚は、手首のところで直角に曲がり、その先は銀色の機械のようなものに変形している。先ほどの光の筋はその先から発射されたに違いない。

 青年は蓮の登場に、とても動揺した様子で

「な、何者だお前は!」

「ん?オレは、こいつの兄ちゃんだ」

 蓮は乃和の隣まで歩み寄る。そして、青年から乃和を遮る位置に立った。

「これ以上妹に手をだすな。さっさと失せろ」

 瞬時に蓮の手は大きな刃に変形され、彼はそれを青年の首元ギリギリにつきつけた。

「くそっ……」

 青年は舌打ちをすると、この場から姿をかき消した。

「はー、大変だったな、乃和」

 蓮は手の形を元に戻しつつ、こちらに振ふり返る。

 にこにことしたその表情は、いつも蓮と何の変わりもない。

「大変どころじゃない!一体何なの?さっきのアプリっぽい人!?」

「あー……それはな……」

「それに兄さんも!!」

 蓮が何か言おうとしたのが分かったが、乃和は構わず言葉を続けた。

「何もかもおかしいよ!っていうか、兄さんって本当に何者??

 いまだに見た目、こどもだし、さっき手が変形してるの見た!

 ねぇ、どうしてわたしと一緒に住んでるの?どうして……」

「落ち着けって」

 蓮は乃和の肩に手を置く。

「落ち着いていられるわけない!!」

 乃和は蓮の手を振り払う。

 蓮は困ったような笑顔を浮かべると、

「困ったな~。異常事態だ」

「それはこっちのセリフなんだけど!!」

「……」

 蓮はしばらく沈黙すると、乃和の両肩に手を置きそのまま床に押し倒した。

「!!」

「またこうするしかないみたいだ。ごめんな」

 蓮は力強く乃和の頭を床に押さえつけると、手を乃和の左目に伸ばす。

 そして、引き抜いた。





 蓮は、乃和が意識を失ったことを確認すると立ち上がった。

 淡い光を帯びている乃和の左眼球は、静かに蓮の手の中に納まっている。

「もしもし、博士。きこえますか?」

 蓮がそう呟くと、目の前に半透明の小型スクリーンが現れる。

 スクリーンに映っている人物を確認すると、蓮は言葉を続ける。

「異常事態が発生しました。

 一つは乃和がアプリの正体を認識したこと。

 もう一つは、アプリが乃和を排除しようとしたことです。至急対応をお願いできますか?」


「……~~……~~」

「……~~……~~」


 スクリーンからの返答に蓮は「了解しました」と答える。

 そして、通信を切った。



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