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魔法使いの箱庭  作者: 夕菜
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第6章 4




 ゼロナは暫くの間、通りがかった部屋の中を覗いたり、歩きまわったりしたが一向に乃和を見つけることは出来なかった。

「んー仕方ないですね。誰かにきいてみましょう」

 今まで何度も人とすれ違ったが、特に怪しまれることはなかったので、話しかけてもおそらく正体がばれることはないだろう。

 そんなことを考えていると、手前の部屋の中からざわざわと騒がしい人々の声がした。

(何かあるんでしょうか)

 ゼロナは部屋を覗き込む。

「あと数分でろ過がおわるぞ」

 大きな機械の前でそんな言葉を誰かが発しており、周囲に人が数人集まっている。

「ロカ……?」

 聞きなれない言葉にゼロナは首をかしげる。

「!」

 その時、その人々の中に乃和がいることにゼロナは気付いた。

(乃和!)

 叫びたい気持ちを抑えて、ゼロナは早足で乃和に近付く。そして、後方から乃和の腕を掴んだ。

 乃和は弾かれたように振り返り、ただ不思議そうにこちらを見つめている。

 ゼロナはその顏を間近で確認した。

 間違いなく乃和だ。研究服に身を包み、すっかりこの世界に馴染んでしまっているが彼女は、五百年会うことを待ち望んでいた人物で間違いない。

 ゼロナは声を発したいのを堪えて、無言で乃和の手をひく。

 戸惑いながらも乃和は、ゼロナについてきてくれた。

「え?一体なんの用?」

 廊下にでたところで乃和にそう言われたので「あとで話します!」と返すと、ゼロナは人気のない廊下まで乃和を誘導する。

 そしてゼロナはコピーを解除し、乃和の方へ振り返った。

「乃和!私です、ゼロナです!分かりますか?」

 乃和は姿が変化したゼロナのことを、食い入るように見つめていた。

「っ……あなた、魔法使い……?こんなところにいて大丈夫なの!?」

「乃和……」

「それに、その包帯、あなたバグ付きだよね?ここにいちゃ危ないよ!早く街に帰った方がいい!」

 乃和が自分のことを覚えていないはショックだったが、想定内だ。

 ゼロナは記憶の入ったビンを握りしめる。

「ご心配ありがとうございます、でも引き返すわけにはいかないんです……」

「え、何言ってるの……?ってかどうしてわたしのこと知ってるの?」

 その時、後方から人の気配がした。

 振り返るとそこには、ゼロナの知る顏が、険しい表情を浮かべて立っている。

 確か、彼女の名前は藍星。彼女とも五百年ぶりの再会だった。

「乃和、その子から離れて!バグ付きだから、何するか分からないよ!」

 藍星は腕を真っ直ぐゼロナに向ける。その手の爪が青白く光ったかと思うと、手の中に拳銃の形状をした光の塊が現れる。

 藍星はそれを力強く握りしめた。

「ちょっと藍星さん?あなたは私たちの味方ではなかったんですか!?」

「ふふ、そのパターンか。でも、残念だね、あたし博士のカードで記憶を消されたから、何も覚えてなんだよね」

「は?じゃぁ乃和の記憶を消したのも、その博士なんですか?」

「……君さぁ、乃和がきいてる。あまりそういうこと言わないで」

「……」

「……藍星さん!思い出してください!あなたは……」

「思い出すなんて無理だよ。だから諦めて」

「あなたはほんと勝手な人ですね!助けておいて今度は、攻撃しようとするなんて」

 ゼロナは舌打ちをすると、手の中に杖を現しそれを藍星に向けた。

 それと同時に、藍星の手の中の銃が光の筋を発射する。

 避けきれない、そう思った瞬間

「危ない!」

 乃和の叫び声が聞こえたと同時に、ゼロナの背中に衝撃が走った。そして、そのままの勢いで床に倒れる。

 どうやら乃和の後方からの体当たりのお蔭で、藍星の攻撃を避けることができらしい。

「乃和、大丈夫ですか!」

「うん、わたしは大丈夫……」

 乃和は体を起こしつつそう言った。

 藍星はそんな二人をただただ、驚いた様子で見下ろしていた。

「乃和、どうして……そんなことできるの?」

「どうしてって……」

 ゼロナは二人の会話など耳に入っていなかった。

 とあることに気付いて、絶望していたからだ。

手に持っていたはずの記憶の入ったビンはいつの間にか床に転がっていた。

 そして、それは無残にも、割れてしまっていた。

「あぁ……」

 もちろん、中に入っていた乃和の記憶も跡形もなく消えている。

「せっかくこれで乃和の記憶を戻せると思ったのにっ……あぁ……」

 あと、少しだったのに。

 五百年待ち望んだチャンスが、一瞬にして無になった。

 包帯の下のバグがうずく。とても不快だ。今までにないくらいに。そして、その気持ち悪さはもう抑えることができなかった。

 その「バグ」は包帯を突き破り、黒い電撃のようになってゼロナの周囲を暴れまわる。壁や床を大きくえぐり、壮大な音を立て……既にゼロナでは対処仕様のない状態だ。

「うぅ……」

 抑え込もうとしても、全く言うことをきかない。それに、視界が歪み意識が遠のく感覚がした。

「ふふ、やっぱりこうなったか。乃和離れて」

 藍星の声がする。

 やはり自分は、削除されてしまうのだろう。

 薄れゆく意識の中でそう思うと、耳元で乃和の声がした。

「落ち着いて!大丈夫だから!」

 それに、抱きしめられる感覚がする。

「乃和……離れてくだい……私のバグが何をするか分かりません……」

 それでも乃和はゼロナから離れることをしなかった。しっかりとその手はゼロナの背中にまわっている。

 そして、暴走するバグは乃和の体に突き刺さった。



 いつも寂しげな表情の藍星、初めてみる蓮の悲しそうな顏。

 それに、泣きそうな顏で自分に会いに来てくれた魔法使い。

 きっと自分は大切な何かを忘れている。

 そう信じることにした。

 ここの世界は違和感で溢れていて、誰もそれを気にも留めない。気付いているのは自分だけだ、と必死に言いかせていたことが、やっと救われた気がした。

 ゼロナのバグが乃和の体を突き抜けた瞬間、乃和は全てを思い出した。

 そう、今までの違和感を確信できたのだ。

「ゼロナ!落ち着いて!」

 乃和は必死になってゼロナのことを抱きしめる。

「五百年の間、覚えててくれてありがとう。また会えて嬉しい」

「の……わ……?」

 乃和はゼロナから体を離すと、彼の顏を見据える。バグが滲んだその顏は痛々しかったが、そんなことは気にならなかった。

 またゼロナに会えた。思い出すことができた。

「乃和っ思い出してくれたんですね……っ」

「うん、思い出したよ、全部」

「よかったです……うぅ」

 ふと気づくと、乃和とゼロナの周囲は、藍星を含めた研究員たちに取り囲まれていた。彼らの手には藍星と同じ形の拳銃が、握られている。

「乃和、そこどいてほしいな。バグ付きを処分できない」

 藍星は低い声でそう言うと、静かに微笑む。

「藍星、待って。お願いだからやめて!ほら、もう大丈夫じゃん。ゼロナのバグはとっくに落ち着いてる」

 いつの間にか周囲を暴走していたバグは、ゼロナの体の中に治まっていた。

 あたりを満たしているのは、緊迫した空気だけ。

「もしかして乃和、思い出したの?」

「……うん」

「ふふ、すごいなぁ。乃和は。あたしなんか全然思い出せないよ、大切なこと全部忘れちゃった、悲しいな」

 藍星は銃口を真っ直ぐゼロナに向けたまま、唇を噛みしめる。その瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。

「藍星……」

「ここの世界にね、生まれちゃった時点で不自由なの。楽しいも悲しいも大切も判断するのは、みんな博士。だからあたしたちは感情を捨てた、そうするしかなかった。でも、乃和はきっとこれからも自由だよ、きっと何があっても。いいなぁ」

「そんなことっ……」

 その時、遠くの方から誰かの叫び声が聞こえる。

 それは乃和のきいたことのある声だった。

 藍星はそれに顔色を変えて呟いた。

「博士?」

「ろ過装置のある部屋の方からだ、行くぞ」

「……えぇ」

 そして、藍星と他の研究員たちは慌ただしくこの場から離れて行った。

 ……そして周囲は静まり返る。

「はぁ……とりあえずよかったー……」

 乃和は危機が運よく去ったことに、ほっと胸をなでおろした。自分だけはゼロナのことを守り切れる自信はない。

「乃和、ありがとうございます。お蔭で削除されずに済みました」

 振り返ると、ゼロナは弱々しく微笑んでいる。

「いや、わたし何もしてないよっ?」

「それは違いますよー。乃和の言葉がなかったらきっと私はバグに負けていました」

「……大げさだなーゼロナはいつも」

 乃和は苦笑しつつ立ち上がると、

「ゆっくり話たいとこだけど、さっき博士の悲鳴がきこえたのが気になるな。何かあったのかな……」

「いってみます?」

「うん」

 乃和はゼロナの言葉に頷いた。




 乃和はゼロナと共に、博士の悲鳴が聞こえた場所……ろ過装置のある部屋まで、歩みを進めていた。

 ろ過装置の前には、藍星や蓮を含めた人々が集まっており、ざわざわと緊迫した空気が流れている。

 ろ過装置の前に力なく座り込んでいるのは、セナ博士。

「どうしてこうなってしまったのっ……こんなはずじゃなかったのに……!」

 セナの表情はまるで絶望そのもののように思えた。

 乃和の今まで目にしたことのないような、大きく歪んだ表情。

 そして、乃和はあることに気付いて息をのむ。

 すでに、心の情報のろ過は完全に終了していた。ろ過装置の下部分に溜まっているのは、黒色に煌めく液体。

 ……それには、見覚えがあった。

「心っていうのは、バグのことだったの!?」

 セナはそう泣き叫ぶと、床に身を埋める。

「バグなんてよく発生してるじゃない!あたしが欲しいのはこんな情報じゃなかった、もっと純粋で夢と希望にあふれて温かくて……」

「博士、落ち着いてください」

 蓮がセナの隣に座り込み、彼女の背中に手を置く。

 それでもセナは、俯き肩を震わすことを止めなかった。

「人間の代わりをする魔法使いたちは、完璧でなくちゃいけなかったのよ。もちろん、あたしたちよりも……でももうこれで、あたしの理想とする完璧とはまるで異なってしまった……心の情報の正体が、これ、じゃあ意味がない、全くね……」

 セナはただ静かに涙を流す。

 その様子を、乃和たちはただ茫然と見守ることしかできないでいた。いつも冷静なセナとは対照的な今の姿。ただただ戸惑った。

「こんな気持ち悪いセカイでこれから生きていくなんて、耐えらないわ。また失敗だった、あたしの人生……何度繰り返したらたどり着くの」

 セナは顏を上げる。それは涙でぐちゃぐちゃに歪んでいた。彼女は、唇を噛みしめ蓮を見据える。

「蓮、あたしを殺して。こういう時のために……あなたを作ったの」

「……」

「どうしたの、蓮。これは命令よ?」

 蓮の表情は無のまま固まっていたが、その青みがかった瞳にはわずかに波紋が広がっている。

 蓮はしばらくの沈黙のあと、瞳を伏せた。

「どうやら体がフリーズしてしまったようです」

「!」

「博士の命令に背いてしまい、申し訳ありません……」

「どうしてよっ……蓮もあたしを裏切るの!?」

セナは蓮の肩を力強く掴み、勢いよく揺さぶる。

 蓮はそれに対抗する様子なく、ただ静かにセナのことを見据えていた。

「なんならあなたのことを壊してあげてもっ……」

 セナの言葉にはっとした乃和は、気付いたら足を踏み出していた。

「博士!やめて!兄さんにそんなこと言わないで!」

 セナと蓮の間に無理やり割って入る。

「乃和……」

 蓮の動揺した声が背後から聞こえたが、振り返ることを我慢し博士のことを見た。

「乃和、生意気よ?邪魔しないでちょうだい!」

 セナは刺すような目で乃和を見る。

 乃和はそれも怯まずに、

「でも、博士……っ」

「邪魔するな邪魔するな邪魔するなっっ!」

「っ……」

 気付いた時には、セナの首にかかったカードを奪い取っていた。そして、乃和はそれを彼女の額にかざす。

 一瞬時が止まったかのようになったセナ。ゆっくりとまぶたが降りていく。

 乃和はとっさにカードをそこから離した。同時に、セナは床に倒れ込み意識を失う。

 乃和の手の中に収まっているカードは、青白く光っている。それは、確かに「効果」があった証だ、そう思った。

「……これだけで本当に記憶が消えたの……?」

 乃和が言葉を漏らしても、辺りはただた静まり返っているだけだ。

 すると、藍星がゆっくりと乃和の方へ歩みよってくる。

「……ふふ、その発想はなかったなぁ~。まさか博士の記憶を消しちゃうんなんてね。あたしたちじゃ、考えもしなかったことだよ……」

 藍星は口元をつり上げる。その目には、暗い影がおちていた。

「ねぇねぇ乃和、これから博士のことどうするの?そのカードさえあれば、思う存分仕返しできるんじゃない?」

「えーと……わたしは、別にしなくてもいいかな……こんなカードももういらないし」

 乃和はカードを頭の上に掲げると、「ゼロナお願い」と言った。

 ゼロナはこちらに歩みよりながら頷くと、杖を向け光の筋でカードを破壊する。

 ……粉々に砕けたカードは、乃和の手の中で消え失せた。

 乃和のその行為に、藍星や他の研究員たちが動揺したのが分かった。

 自分は間違ったことをしてしまったのだろうか、いや、そんなことはないはずだ。乃和はそう自分に言い聞かせる。

「ねぇ藍星、みんな。もう「魔法使いの箱庭」は完成してたってことでいいんだよね?だからもう研究はやめよう」

「……」

「わたしはね、博士の引き継ぎ体質を治したいの。次はその研究がしたい。その体質が治せれば、博士はわたしたちのことを信じてくれると思う。博士一人の存在で、数少ない人間たちがギクシャクするのは、もう嫌だよ」

 乃和は必死になってその言葉を並べた。

 冷や汗が額に滲んでくる。

 未来の世界にきてからずっと持っていた違和感を、違和感と思えるうちに、それを正しいと信じているうちに何かを変えなくてはいけないんだ。

 きっとこの感覚は、心の自由が当たり前のように存在する過去の世界で育った自分にしかない感覚だから。

「ふふ、やっぱり乃和はいつも突拍子もないなぁ。びっくりしちゃった」

「……藍星」

 藍星は微笑む。

「あたしはね、乃和に協力するよ。君の新しい感覚が、ここの世界を変えてくれるそんな気がるするしね?みんなもそう思うよね?」

 藍星は、周囲の研究員に問いかける。彼らはそれに小さく頷いた。

「……ありがとう」

 乃和は絞り出した声で、そう呟くことしかできなかった。






 数か月後。

 相変わらずこの世界は、夜が明ける兆しがなく窓から見える景色はまるで時が止まったかのようだった。

 けれど、確かに何かが変わり始めている。

「兄さん、セナ博士の調子はどう?」

 廊下ですれ違った蓮に、乃和はそう声をかけた。

 蓮はそれに困ったように笑うと

「以前よりはだいぶ落ちついているよ。そろそろ仕事場にも復帰できると思うぞ~」

「なら、よかった……」

 乃和は目を覚ましたセナに、記憶を消したこと、心の情報の正体のこと全て話したのだ。それに、カードを破壊したことも。

 セナは事実を確認すると、大きく取り乱したが蓮や乃和の説得で何とかその場をおさめることができた。「引き継ぎ体質」を治す、そう宣言したことが大きかったのかもしれない。

「……なぁ乃和。過去の世界に帰らなくていいのか?」

 蓮は少しだけ気まずそうに、乃和の顏を見る。

「うーん、どうだろ。帰りたくないわけじゃないけど、やるべきことを見つけちゃったしな……あと、兄さんやみんなと一緒にいられるから、きっともう十分なんだと思う……」

「そっかそっか」

「……」

 けれど、ふとした瞬間に寂しさが心を満たす。

 過去の世界においていた沢山の大切を、自分はもしかしたら裏切ってしまったのかもしれない。

 自分の居場所はここだと感じると同時に、自分は過去の居場所を捨てたのだ。

「乃和~~そんな悲しそうな顏するなって!な?」

「えー、わたしそんな顏してた?」

「してたぞ?ほんと、分かりやす奴だよなー乃和は」

「うんうん、ほんと分かりやすいよねぇ」

「!」

 その声に振り返ると、そこには藍星が立っていた。

 藍星は手に持った紙袋を乃和に押し付けると、

「ね、これ誕生日プレゼント!受け取って」

 乃和はそれを反射的に受け取ると、

「え?今日だったっけ?」

「ふふ、正確には明日だけど渡すの待ちきれなかったんだよ。乃和に似合いそうな服選んでみたから」

「そうだったんだ!ありがとう」

「もう一年経つんだなーここにきて」

 蓮が関心したように呟く。

「またケーキ作りたいけど、材料が揃わないな、ここじゃ」

「はは……気持ちだけで嬉しいから大丈夫だよ」

 乃和は苦笑する。

「え!ケーキってよく絵本ででてくる、あの?」

「そーだよ。昔の世界は……」

 蓮と藍星の雑談の様子を眺めながら、乃和は思う。

 藍星は、いつも何を考えているのだろう。乃和はどうしようもなく不安だった。

 セナのことを恨んでいるはずの藍星。どうして自分の意見に賛同してくれたのだろう。

 その気持ちを直接言葉にする勇気を、まだだせずにいた。

「本当にありがとうね、藍星……」

「え?うん」

「……」

「いつかあたしのことも救ってね」

「え、なんて言ったの?」

 藍星がボソリと呟いた言葉を、乃和は聞き取ることができなかった。

「ふふ、秘密だよ秘密」

「えー……」





「まーた、あいつのところに行くのか!ゼロナ」

 ゼロナが街の一角にあるショップで、何色のクッキーを購入するか悩んでいると、後方からそう声をかけられた。

 そこにはシルクハットの魔法使い、ニーナが立っている。

「え、どうしてわかったんですか?」

「そのショップのクッキーを買う時はいつも、決まってあいつのところへ行く!オレはずっと前から知ってるんだからな!」

「ずっと前から?一体いつから私のことを観察してたんですか?キモイですよ?」

「べ、別に観察してたわけじゃねー。たまたま目に入っただけだっ。どんだけ自意識過剰なんだよお?」

「はーウルサイですね」

 ゼロナはビン入りの星型クッキーを購入すると、そのショップから離れる。このクッキーは人間でも食べることが出来る数少ないアイテムの一つだ。

 バグの正体が解明されてから、この街には確かな変化があった。

 バグつきでも、差別の目を向けられることはなくなったし、街中を堂々と歩けるようになった。

 心地よいこの感覚はとても久しぶりだ。

 それに人間たちとの交流も増えた。

 研究棟へ出入りは自由になり、人間たちも偵察以外の目的でこの街へやってくる。

 人間と魔法使いの区別は、ほぼほぼなくなりつつあるのだと思った。

 ゼロナは研究棟へ向かう途中、ふと空を見上げた。街から離れたこの場所は、星がよく見える。

「今日は雲一つなく、星がよく見えますね。キレイです」

 ゼロナがそう呟くと、隣を歩いているニーナは眉を寄せた。

「キレイ?オレには理解不能だな」

「ニーナにもバグがついたんですから、そのうち分かるんじゃないですか?」

「はー?別にオレには必要ねーよ」

「ホントつまらない奴ですね、あなたは」

 ゼロナは微笑む。


 ……研究棟はもう目の前だ。



end

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