八話 赤さん、感謝する
「ハナと呼ばれるのは久し振りだな」
少し嬉しそうにハナさんはそう言った。
どうやらハナさんと呼ぶのは大丈夫なようだ。
「まあ、ここでは私とアカの二人だけだし、転生前の名前でも大丈夫か。だが、ここ以外ではフラと……いや、生後間もない赤ちゃんがこんなに話すとおかしいから、他では何も話さないほうがいい」
やはり普通の赤ちゃんは話せないものらしい。
「僕を話せるようにしてくれたのも、別の世界から持ってきた技術なの?」
「いや、それは違う。アレはこっちに転生してから覚えたものだ。身体の一部、声帯だけを成長させて、喋れるようにした。こちらでは魔法と呼ばれているものだ」
「魔法っ! ハナさんは魔法も使えるのっ!?」
「大した魔法は使えない。あくまで補助的なものだけだ。だが、アマゾーンと組み合わせて使えば効果的なものがいくつか存在する」
ハナさんを尊敬の眼差しで見つめた。
別世界のものを持ち込めるスキルだけに頼らず、こちらの世界の魔法まで習得している。
しかも、おっぱいまで大きい。
「僕も魔法、使えるようになるのかな?」
「本当にアカが転生子でないなら、私より使えるようになるはずだ。元々、魔法はこの世界のものだからな」
「本当っ? 嬉しいなっ。空を飛べたり、巨大化出来たりするのかなっ!?」
「そういう魔法もあるが、属性や魔力の容量によって使える魔法は変わってくる。明日見てやるから今日はもう寝ろ」
「わかった! ありがとうっ!」
絶体絶命の危機から、僕を拾ってくれて魔法まで教えてくれる。
両親に見捨てられたけど、ハナさんに拾って貰って本当によかった。
大きくなったら、いつか絶対恩返しをしようと心に誓う。
「……感謝するのはいいが、私はまだアカを疑っている。まずは記憶を失った転生子でないことを証明してみせろ」
「えっ? う、うん、わかった、頑張って証明するよ」
言葉に出してないのに、感謝していることがハナさんに伝わった。
最初に出会った時のように思念を読まれたのだろう。
僕のことを疑って、たまに考えたことを覗いているなら、変なことは考えてはいけない。
特におっぱい……あ、睨まれた。
ハナさんはじろりと僕を睨みながら、藁の籠に僕を入れる。
籠についたハイエナウルフの血は、いつのまにか綺麗に拭き取られていた。
そして、僕の唯一の装備だったタオルはなくなっていて、代わりにフカフカの毛布をかけてくれる。
「おやすみ、アカ」
「おやすみなさい、ハナさん」
ハナさんが手のひらサイズの小さな機械のボタンを押すと、天井の灯りが消えて真っ暗になる。
毛布をぎゅっ、と握るととても暖かく、少し泣きそうになった。
僕は生まれて初めて安心して眠りについた。