七十三話 ドルタ、回想する
「何も話さなくていい。全部わかっている。君と僕は同じなんだ」
赤い髪の男の胸が開き、その中から赤ん坊が現れた。
「君はっ! もしかして、ガレア家の転生子かっ!?」
ゴーレムの中に入っていたのか。
このように精巧で人間に近いゴーレムなど見たことがない。
「うん、そう呼ばれてるよ」
「……生き延びていたのか」
それなら納得できる。
半年前の転生子事件の赤ん坊なら、確かにワシと同じだ。
「僕たちは…… て、ちょっとハク、ぷにぷにするのやめてくれないかな?」
ハクと呼ばれた白い髪の女が、赤ん坊のほっぺをひたすら触っている。
「いやだ。こんなに可愛くてぷにぷにしたものを触らずにいられるものか」
「わかったよ、後で好きなだけ触らせてあげるから、今は我慢して」
「本当だなっ、約束だぞっ」
しぶしぶハクが引き下がり、赤ん坊との会話に戻る。
「なぜ、何も話さずにワシのことがわかる? それが転生子としての能力か?」
「転生子の能力じゃないけど、似たようなものだよ。ドルタ・ポルカ」
ワシのフルネームを知るものなど、ほとんどいないはずだ。
やはり、この赤ん坊には、すべてがわかっているのだろう。
「そう、僕たちは同じ復讐者なんだよ」
そうだ。ワシはガレア家に復讐するためにやってきた。
リンド王国の王、ダンバ国王を思い出す。
ひ弱なゴブリンしか召喚できないワシを、ダンバ国王は認めてくれた。
たとえ、ひ弱なゴブリンでも沢山集まれば脅威となる。
そう言って下さり、ワシに護衛隊長を任せてくれた。
ダンバ国王は身分の垣根を超え、時には兄のように、時には師のように、そして時には友のように、接してくる。
ワシはそんなダンバ国王を敬愛し、彼の期待に応えるため、毎日、毎日、死に物狂いで訓練し、召喚できるゴブリンを増やしていった。
一生涯、ダンバ国王に仕え、命をかけて御守りする。
そう、心に誓い、それが自分の役目だと誇らしく思っていた。
だが、悪夢は平然と正面から歩いてやってきた。
ガンス・ガレア。
国境沿いにある城塞都市から、一人の男が単身、王都に乗りこんできた。
簡単に始末できる。
最初はそんなふうに簡単に考えていた。
だが、ガンスは、大勢の兵士の攻撃も、何十匹ものゴブリンの攻撃もまったく意に介さず、ただ真っ直ぐにダンバ国王の元へ歩いていく。
焦った時には、もう遅かった。
目の前で、あっさりとダンバ国王の首は跳ねられてしまったのだ。
自分の無力さをここまで呪ったことは無かった。
その日から毎晩、ダンバ国王の夢を見る。
だが、首のないダンバ国王が、以前のようにワシに笑いかけることはない。
首はガンスが持っていってしまった。
ワシはガレア家に復讐するために、さらにゴブリン召喚に磨きをかける。
100体近くのゴブリンを召喚し、それを合成してジャイアントゴブリンを作り出すことにも成功した。
だが、ダンバ国王の息子であり、新しい国王のザンバは、ガンスを恐れ、戦おうとしない。
ワシはリンド王国の兵士をやめて、たった一人でガレア家に復讐することにしたのだ。
そう、ガンス・ガレアを倒し、ダンバ国王の首を取り返すために。
赤ん坊は何も言わず、真っ直ぐにワシを見ている。
一歳にも満たない年で、その瞳は復讐に満ちていた。
ワシの全てがわかっているのなら、もはや言葉はいらないだろう。
ワシはゆっくりと赤ん坊の前に跪き、忠誠を誓った。




