六話 赤さん、わくわくする
「ここが私の家だ」
僕が拾われた所よりも、さらに山奥にやってきた。
目の前には、かなり大きな木がそびえ立っている。
「木の上に住んでいるの?」
「違う、逆だ。木の下に家がある」
そう言って、お姉さんは木の根元に向かう。
そこには、ぽっかりと大きな穴が空いている。
年月を重ね、太くなった大木は、根元の中心部分は腐って分解が進み、大きな樹洞となるらしい。
中に入ると薄暗く、洞窟状の空間は縦に大きく伸びていた。しかし、そこに人が住んでいるような気配はなく、ただ地面には落ち葉と土だけしかない。
お姉さんは僕を持ったまま、落ち葉を足で払いのける。
地面に小さな鉄の扉が隠されていた。
「どうだ? 秘密基地みたいだろう」
「秘密基地?」
「いや、なんでもない。忘れてくれ」
お姉さんがちょっと照れ臭さそうにしながら扉を開ける。
扉の先には地下に続く階段が続いており、一番下まで降りると、また正面に大きな鉄扉が現れた。
そして、その扉の横には0から9まで書かれたボタンのようなものがついてあった。
「これは?」
「番号入力式のドアだ。ちょっと待ってろ」
お姉さんが素早くボタンを押すと、ドアが自動で開く。
同時に、真っ暗だった中の部屋から光が灯る。
その光は、僕が生まれた家のロウソクの灯火とは、比べものにならないくらいの明るい光だった。
「お姉さん、この部屋の物、全部、わからないよ」
番号入力式のドアだけではなく、ここにあるものはすべてお姉さんがいた世界にあるものなのか。
僕が生まれた家とはまるで様式が違っていた。
まるで何百年も先の未来から持ってきたようなものが、この部屋にはたくさんある。
「演技ってわけでもなさそうだな。本当に転生子じゃないのか」
「うん、全部初めて見るっ。凄いよっ、お姉さんっ!」
素材が全くわからないイスやテーブル。
暖かい風を噴出する不思議な箱。
ボタンがいっぱいついた二つ折りの薄い機械があり、その側にはネズミみたいな形のものが置かれていた。
天井にはお月様のような丸い玉が埋め込まれおり、それが大量の光を生み出している。
どれもが凄い機能を持っている別世界の技術に違いない。
すべて知りたいという欲求が止まらなくなる。
それは、おっぱいを飲みたいという欲求に勝るとも劣らないものだった。
「これ、全部、お姉さんが作ったの? お姉さんってもしかして天才なのっ?」
「まさか」
お姉さんが自嘲気味にフッ、と笑う。
「全部、私がいた世界から取り寄せたんだ。それが転生子として授かった私のスキル……」
お姉さんは、ちょっとカッコつけたポーズをつけて、ドヤ顔で言った。
「アマゾーンだ」
ここにはない、別の世界のものを持ち込むことができる能力。
転生子が恐れられ、生まれた時点で殺される理由を理解する。
確かにこの力は世界のバランスを壊すものだ。
だけど、僕にはそんなことなもうどうでもよかった。
お姉さんと一緒にいれば、別の世界の知識を学べるかもしれない。
僕の頭の中はそのことだけでいっぱいになり、ワクワクが止まらなかった。