五十四話 レッド、約束する
決勝戦は、日が暮れる寸前にようやく開始されることになった。
ロンドの治療をクレアさんがしていた為に、僕の治療(正確にはゴーレムの治療)が遅れたからだ。
治療中に、ロンドの容態を訪ねると、クレアさんは困ったような顔をした。
助かるかどうかわからない、といったところだろう。
「それでは、これより決勝戦を始める。レッドとハク、闘技場に上がってくれ」
試験官もロンドを心配しているのか、襲撃に怯えているのか、顔色が優れない。
早く試験を終わらせ帰りたい、そんな声が聞こえてくるようだった。
「約束通り、全力で」
向かい合ったハクは、やはりゴーレムの中に入っている僕を見ている。
魔法が使えないハクは、それでも強くなることを諦めず、独自に魔力や気配を探る術を学んできたんだろう。
どこか、僕やハナさんに似ているような気がした。
転生子のハナさん。
転生子に間違えられた僕。
魔無し子のハク。
みんな、この世界に拒絶されながら、必死に生きている。
ハクを生かしておくのは、僕にとってリスクが大き過ぎる。
復讐君も言っていた。
正体を知られた者は、たとえ、愛する者でもぶっ殺せ、と。
別にハクを好きになったわけじゃなかった。
おっぱいは小さくて、全然僕の理想じゃない。
でも、出来れば殺したくない、そう思ってしまっていた。
「……この試合で僕が勝ったら」
僕はある条件をハクに突き付けることにした。
「一生、僕についてきてもらう」
ハクがこの条件を飲めば、殺されなくてすむ。
こんな口約束は破ろうと思えば、いつでも破れる。
だけど、ハクは約束したら、きっとそれを破らない。
そう僕は確信していた。
「え? ちょっとまって」
しかし、ハクの反応は意外なものだった。
これまで、ずっと無表情だったハクの顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。
こんな条件を突き付けたことに怒っているのか?
それにしては、僕と目線を合わさずにモジモジと身体をくねらせている。
「……年齢的にアウトじゃないの? いや、未来を見据えてのことなのかな? だいぶ姉さん女房になってしまうけど、大丈夫なのかな?」
しばらく訳のわからないことをぶつぶつと呟いていたが、やがてハクはキッ、と僕を睨みつけた。
「いいわ、負けたらワタシは、一生キミについていく」
よかった。これでハクを殺さずに、僕の部下として雇うことができる。
「そ、そのかわり、ワタシが勝ったら、この話はなしだからなっ。ま、まあ友達から始めるなら、考えないこともないけど……」
「うん、わかったよ」
やはり、怒っているんだろうか?
ハクの顔は真っ赤に染まったままだった。




