五十一話 レッド、対決する
『復讐は闇雲にやるものではない。敵の懐に潜り込み、味方と思わせておいてから、背後から刺し殺せ』
復讐君は、そうアドバイスをして、僕に復讐計画を教えてくれた。
最初は、復讐君のことを、ただの妄想による幻聴だと思っていたが、その発想は僕にないものばかりで、やがて彼のことを全面的に信用する。
復讐君は、本当に復讐のスペシャリストだった。
『基本は暗殺だ。相手の部隊に入り込んだら、一人、一人確実に幹部を殺っていけ。その為には、そうだな、あの魔法を覚えたほうがいい』
「あの魔法?」
『ほら、あれだよ。門番のカートがハナさんと戦ってた時に使ってたやつだよ』
姿は見えない。声だけしか聞こえない。しかし、復讐君は、ずっと僕を見ていてくれたんだ。
それがちょっと嬉しくて、ハナさんがいなくなってから、ずっと固まっていた感情が、ほんの少しだけ、動いたような気がした。
「僕、復讐がんばるよ、復讐君」
『……まあ、ほどほどにな。あまり張り詰めると逆効果だ。情熱的になるより、冷静になったほうが成功率は格段に上がる』
「そうなんだ。ありがとう、復讐君」
『お、おおっ、うん、まあ、頑張れよ』
姿の見えない復讐君にお礼を言うと、なんだかちょっと照れているようだった。
復讐君のアドバイス通り、敵の部隊に潜り込む寸前までやってきた。
入団試験の試合は予想通り、ロンドとハクが圧勝して、ベスト4が決定する。
「それでは四回戦を始める。レッドとロンド、こちらへ」
ロンドは、いつものように爽やかな笑顔を浮かべながら、僕に話かけてくる。
「お互い、全力を尽くし、正々堂々と戦おう」
「……ああ、そうだな」
そんなことは一ミリたりとも思っていない。
どんな卑怯な手を使ってでも、ロンドを倒し、幹部の座を勝ち取らなければならないのだ。
「それでは、試合、はじめっ!」
試験官の合図と同時に、ロンドが素早く詠唱する。
あまりの速さに、僕の詠唱が間に合わない。
風魔法で加速する前に、ロンドの手から四つの刃が飛んでくる。
「風の刃かっ!」
いきなりの復唱魔法だった。
風の刃は、ゴーレムの右腕、左腕、右足、左足を切り裂いていく。
ゴーレムの中に仕込んだ偽物の血が、四ヶ所同時に、ぷしゅーー、と吹き出した。
「へぇ、やっぱり頑丈だね」
追撃はすぐにこなかった。
ロンドは、僕の身体(本当は、ゴーレム)が、どれくらい攻撃に耐えれるか試験しているのだろう。
まともに魔法が使えない、ただ丈夫な男と思われているなら、ここまでは計画通りだ。
ここで、実力を隠してロンドを倒せば、僕の復讐は大きく前進する。
「悪いけど、どんどんいくよ」
ロンドの身体の周りに、無数の風の刃が浮いていた。
あれが、全部命中すれば、ゴーレムは動けなくなるかもしれない。
ハナさんの『回転式拳銃』を、握り締める。
ロンドに下手な攻撃は一切通用しない。
切り札を使うしか、僕には手が残されていなかった。