五話 赤さん、拾われる
「どうして、同じ転生子なのに殺そうとするの?」
自分が転生子でないことは言わなかった。
両親にも信じてもらえなかったのだ。
恐らく僕は誰が見ても、転生子に見えてしまうのだろう。
しかし、どうせ殺されるなら、少しでも多くのことを知っておきたかった。
この飽くなき探究心は、知識を与えられた事による影響なのだろうか。
「転生子に味方はいない」
おっぱいの大きい女の人は、少し面倒くさそうに話し出した。
「特殊な能力を備わって生まれてくる転生子は、この世界のバランスを崩すくらいに強くなっていく。最初のうちは崇められ英雄にもなれるだろう。だが、その強さはやがて世界中の人々から恐れられ、邪魔な存在となるんだ」
ひどい扱いを受けてるね、転生子。
なぜ、そうまでしてこっちの世界にやってくるんだろうか?
いや、勝手に送られてきているのかな?
だとしたら一体、誰が何のために、そんなことをするのだろう。
「そして強くなった転生子を倒すことが出来るのは、同じように強くなった転生子だけだ。だから、私はまだ弱く幼い転生子を見つけたら殺すことにしている」
「仲間にしようとは思わないの?」
「いつ裏切られるかわからないからな。私は自分しか信じない」
きっと、このおっぱいお姉さんも、僕と同じように酷い扱いを受けてきて、人を信じられなくなったのだろう。
これは本当にどうしようもないかもしれない。
「なにか、言い残すことはあるか?」
「おっぱいを……」
「ないようだな」
最後の望みも聞いては貰えなかった。
おっぱいお姉さんが手刀を僕の喉に振り落とす。
僕もハイエナウルフのように首を切断されるのか。
もう諦めるしかないのだろう。
いや、最後に一つだけ……
「くぁwせdrftgyふじこlpて、何なの?」
僕の喉元に当たる寸前で、ピタリとおっぱいお姉さんの手刀が止まる。
「どこで、その言葉を?」
「僕のスキルの名前がその言葉になっていたんだ。意味はわからないよ」
「キーボードの上から三段目と四段目を二本指で左からダーっとすると、その言葉が出てくるんだ」
「キーボード? あれ、おかしいな? キーボードが何かわからない」
疑問に思ったことが、瞬時に頭に浮かぶはずなのに、キーボードという言葉に解答がない。
「キーボードがわからない、だと。 お前、転生子ではないのか?」
「言っても信じてもらえるかわからないけど、僕には転生した記憶なんてないよ。ただ生まれた時から、どんどん知識が流れてくるだけなんだ」
「……マジか」
マジという言葉の意味もわからなかった。
どうやら僕に流れてくる情報は、この世界のものだけみたいだ。
転生してきたおっぱいお姉さんの世界にあるものは、送られてくる知識の対象外になっている。
「いや、まだわからんな。記憶を失ったふりをしているかもしれないし、転生前の記憶がない転生子かもしれん」
おっぱいお姉さんが考え込んでいる。
僕にはどうすることも出来ないのでとりあえず、おっぱいを見て心を落ち着かせる。
「そうだな、しばらくは脅威にもならん。転生子だったとしても、強くなるまでに殺してしまえば問題ないな」
おっぱいお姉さんは、そう言って僕の首ねっこを掴んで持ち上げる。
「喜べ。しばらく飼ってやる。だが、次におっぱいとか言ったら、すぐに殺す。わかったな」
すわっていない首をなんとか必死に動かしてうなずく。
こうして僕はおっぱ……綺麗なお姉さんに拾われることになった。