四十四話 レッド、画策する
「なかなかやるじゃないか、レッド」
治療を終えて、闘技場の前に戻るとロンドが話しかけてきた。
出会った時に『ウィッキーペディア』で彼のことは調べている。
ガリア兵士、遊撃部隊隊長、疾風のロンド。
入団候補者に混ざり、採用する人物を査定しているようだが、それだけではないようだ。
ガリアの街に潜入し、影で破壊工作を計ろうとする僕のような存在を見つけ出すのが本命なんだろう。
「……いや、運が良かっただけだ。相手が勝手に自滅してくれた」
風魔法で変換した声を、ゴーレムの顔あたりに運んで会話する。
「そんなことはないさ。運も実力のうちだよ」
『ウィッキーペディア』を使わなければ爽やかな笑顔を見せるロンドを、僕は疑わなかっただろう。
裏の顔を微塵も見せないロンドは、油断できない。
兵士として入団した後は、なるべく早く始末しよう。
お互い表層だけ取り繕いながら、次の試合を観戦する。
試合は、ほとんど僕の予想通りに進んでいった。
魔法レベルが高い者が順当に勝ち上がっていく。
剣だけしか使えないような戦士は、強力な魔法相手には互角の勝負もできない。
「次、ダモパとロンド様、い、いやロンド、こちらへ」
一瞬だけ、ロンドが顔を歪める。
試験官が間違えてロンドを様付けで呼んでいた。
あいつ、あとでめっちゃ怒られるんだろうなぁ。
「さて、いってくるよ」
ロンドの実力は、相当なものだった。
高威力の風魔法は、ハナさんと戦った門番のカートを思い出させる。
手を抜いて戦っているようだが、それでもまったく相手を寄せ付けない。
普通に戦ったら勝てない。
でも、僕には普通ではない戦い方ができる。
なにも、闘技場でまともに戦わなくても構わないのだ。
場外でもせいぜい油断しないことだな、ロンド。
僕はゴーレムの中でニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「それでは次は一回戦最終試合、シャラとハク、こちらへ」
ロンドが圧勝した後に、女性二人による試合が始まる。
今回、試験者の中で、女性はこの二人だけだった。
一人目はシャラ。
ベンやロンドと同じく、頭髪が属性色に染まっている。
水属性の青いショートヘアは、ハナさんを思い出させるが、残念ながらおっぱいは随分と小さい。
そして、二人目のハク。
後ろ髪をおさげにして束ねている少女。
その髪の色は真っ白だった。
白髪は魔力がないことを示す髪の色だ。
そう、ハクには魔力が一切ない。
さらに、残念なことにおっぱいもシャラよりさらに小さく、絶壁が広がっていた。
「あなた、武器は?」
「これ、だけだ。他にはない」
ハクがシャラに握った拳を見せる。
シャラが失笑するのを、我慢しているのがわかった。
誰が見ても、ハクに勝ち目があるとは思えない。
「……僕以外はね」
誰にも聞こえないようにゴーレムの中でつぶやく。
強い魔法使いは、早々に退場してもらう。
僕はこっそり無詠唱で魔法を発動させた。




