四十話 ロンド、観戦する
「ルールは特にない。致命傷でなければ、多少の怪我も直してやれる。持てる力を全て使い、全力で戦え」
闘技場の中央でレッドとベンが対峙する。
ベンは体格こそ細いものの、かなりの高身長だ。
だが、そんなベンが見上げるほどに、レッドはさらに大きかった。
魔法を使わない肉弾戦なら、多少鈍くとも良いところまでいけただろう。
だが、魔法を使う者からすれば、レッドは当てやすいただの大きな的だった。
「大地の力よ、我が牙となり、敵を貫け」
ベンは素早く詠唱を行い、地面から土の槍を創り出す。
流れるような動きで、土の槍はベンの頭上に浮かび、そのまま高速でレッドに向かって飛んでいく。
一瞬で決着がつく、そう思った。
レッドの動きでは、土の槍をかわすことなど出来ないだろう。
だが、レッドは小さな声でブツブツ言いながら、素早く背中の斧を抜き、土の槍を弾き飛ばす。
「……加速の風魔法か」
レッドが唱えたのは、レベルの低い風魔法だった。
独学で学んだのだろうか、詠唱はめちゃくちゃで威力が低い。
自分の動きの鈍さをカバーするために、覚えたのだろうが、かなりお粗末なものだった。
自分の属性である風魔法を使って、ようやく人並みに動ける。それがレッドの印象だった。
そして、見込んでいた通りに、ベンは優秀だった。
「我は繰り返し求む。貫け、貫け、貫け」
復唱魔法。
同じ魔法を唱える時に、詠唱を簡略化する高等技術だ。
ベンの前に先程と同じ土の槍が三つ出現する。
今度こそ、決まった。
レッドの動きでは、風魔法で加速しても三本の槍は防げない。
しかし、ここでもレッドは予想を覆す行動に出る。
防御を無視して、ベンに向かって走り出したのだ。
完全な玉砕攻撃にベンは一瞬戸惑ったが、それでも土の槍を三本とも解き放つ。
それぞれが、レッドの右肩、左足、脇腹をえぐったが、ベンに向かって迫るレッドのスピードはまったく衰えなかった。
動きだけではなく、痛覚も鈍いのだろうか。
レッドの表情はあれだけのダメージを受けても、無表情のままだ。
ベンの眼前まで迫り、レッドは巨大な斧を振りかぶる。
それでも、ボクはベンの勝利を確信していた。
「大地の力よ。我が盾となり、守りたまえ」
ベンの前の大地が盛り上がり、土の壁が出現する。
レッドが振り下ろした斧は、壁に弾かれ、ベンはにっ、と笑った。
まあ、少しは善戦したほうだな。
確実に入団試験は不合格だと思っていたが、肉の壁としてなら、レッドを採用してもいいかもしれない。
ベンは余裕を持って、ゆっくりと後ろに下がる。
後は距離を取って、土の槍で狙い撃ちするだけだ。
頑丈そうなレッドでも、あと数発喰らえば動けなくなる。
すでに勝負はついた。
ボクだけではなく、ここにいる誰もがそう思っていただろう。
「それまで、勝者レッドっ!」
すべての者が唖然となる。
戦いは誰も予想していない形で決着がついた。




