四話 赤さん、おっぱいを見る
ハイエナウルフの首がなくなっていた。
ぼたぼたと血を撒き散らしながら、身体は地面に倒れ込む。
何が起こったのかわからなかった。
名前 ハイエナウルフ
種族 狼科
好物 人肉
状態 首ちょんぱ(死亡)
やはり、いきなり首がなくなって死亡したようだ。
これはもしかして、僕の隠された力が覚醒したの?
知識だけではなく、こんな恐ろしい力まで僕は身につけて生まれてきたのっ!?
「違うよ。それ、私がやった」
違った。
いつのまにか、女の人が僕を見下ろし立っていた。
蒼色の長い髪が風に揺れている。
ぴっちりと身体にフィットした、ゴムのような素材の黒い服を着た若い女の人だった。
胸元にチャックなようなものが付いており、そこから白い肌が見える。
そして、なにより、服に収まりきれていない大きな二つの物体に目を奪われた。
これが、かの有名なおっぱいというもの……
「うるさい、黙れ」
黙った。
いや、もとから喋っていない。
僕は考えていただけだ。
それがわかるということは、この女の人こそ、僕に知識を与えた人なんだろうか?
僕の呼びかけに応えて、やってきてくれたの?
それも、こんなに大きな二つのお土産まで持ってきてくれた。
僕はいまからこのおっぱいからお乳を貰うことが出来るのだろうかっ!?
「黙れ、と言っている」
めっちゃ睨まれた。
鳶色の瞳が冷たく光っている。
考えていることが、全部伝わってしまうが、思考を止めることなどできない。
一体、どうすればいいのだろうか。
どうしてもおっぱいが頭から離れない。
「コントロールできないのか。わかっていて思考を飛ばしてきたのではないのだな。こっちで思考を切断するから普通に話せ」
いや、普通に話せないよ。赤ちゃん、いや赤さんだもの。
「声帯がまだできてないのか。ならこれでどうだ? 話せるか?」
女の人が僕の喉に手を当てる。
熱い何かが、喉に入ってきたと思った瞬間、僕は思わず悲鳴をあげた。
「うわっ、あつっ! あ、あれ、これ、僕の声っ!?」
「ふむ、多少違和感はあるが、まあ大丈夫だな」
謎の女の人は、まるで魔法のようなことをやってのける。
どう見てもただの人間ではない。
僕の助けてという思念が届いてここに来たのなら、やっぱり僕に知識をくれた人じゃないのかな?
女の人をじっ、と見て、情報を得ようとする。
名前 エラー
種族 エラー
年齢 さらにエラー
職業 エラー
装備 ライダースーツ(ブラック)
BWH さらにもっとエラー(特にバスト)
着ている服以外、全く情報が入ってこない。
しかも、ライダースーツという服も言葉だけで、詳しい情報はわからなかった。
やはり、普通の人間ではないようだ。
「お姉さんは一体、誰なんですか? 僕に知識をくれた人、ではないんですか?」
「違う。私は転生子だ」
転生子。本来、あるべき魂を無残にも葬り、さも自分が本当の子供のように振る舞い、この世界に入り込む邪悪な存在。
生まれたばかりの僕に父がそう言っていた。
そして、僕はその転生子に間違えて捨てられた。
「お前も転生子なんだろう。だからやって来た」
違うとすぐに言えなかった。
同じ転生子と勘違いして助けに来てくれたのなら、そうでないとわかったら、助けてくれないかもしれない。
そう思って何も言わなかった。
だけど、それが間違いだった。
「……お前を確実に殺すために」
絶望の中、それでも最後におっぱいが欲しいと、僕は強く願った。