三十一話 赤さん、祝われる
「お、届いたな」
夕方、家に茶色のダンボールが届く。
ハナさんがアマゾーンでまた何か注文したのだろう。
アマゾーンで、送られてくるものは、突然何もない空間から現れるので最初は驚いたけど、今はもう完全になれてしまった。
「今度は何を頼んだの?」
「ふふん、今日でアカが生まれてちょうど一ヶ月だろ。だから注文しておいた」
そう言ってハナさんがダンボールを開けると、ヒンヤリと冷たい空気が流れてきた。
そして、中には丸い小さな白いものが入っている。
「ハナさん、これは?」
「離乳食ケーキだ。まだ乳離れしてないが少しなら食べられるだろう。お祝いするぞ」
パソコンのウィッキーペディアで見たことがあった。
ハナさんの世界では、子供が年を取るごとに誕生日パーティーをして、プレゼントやケーキを用意するらしい。
「いいの? 僕、まだ一歳じゃないよ」
「いいんだよ。生まれた時、誰も祝ってくれなかっただろ。だから私が祝ってやる」
ハナさんがゼロと書かれたロウソクをケーキに立てて、火魔法で灯りをつける。
そして、リモコンで部屋の灯りを消すと、小さなケーキ以外が見えなくなった。
「ハピ、バー、すでー、つーゆー」
そして、いきなり歌い出すハナさん。
音程が壊滅的で、呪いの呪文をかけているようだけど、僕は何も言わなかった。
誰にも望まれず、産まれてきた僕が、こうして生まれたことを祝ってもらえるなんて、夢にも思わなかった。
「ほら、アカ。火を消すんだよ」
破滅の歌が終わった後に、ハナさんが僕をケーキの前まで持ってくる。
風魔法で火を消すと、全てが真っ暗になった。
「さあ、じゃあ食べようか」
「ちょっ、ちょっと待って」
ハナさんはすぐに電気をつけようとしたが、僕はそれを止める。
ぐちゃぐちゃに泣いてる顔をハナさんに見られたくなかった。
「なんだよ、大袈裟だな」
ハナさんは、電気をつけるのをしばらく待ってくれていた。
ケーキを食べ終わった後、かなり眠たくなり、うとうとしていた。
僕の家族のことや、これからのことは不安だったがハナさんといれば、どんなことでも乗り越えていけるような気がしていた。
「寝たのか? アカ」
「ううん、まだ、起きて……すぅ」
まだ寝たくないのに、まぶたが勝手に降りてくる。
ハナさんが僕の近くまでやって来て、頭を撫でてくれた
その手はとてもあったかくて、幸せな気分が僕を包み込む。
「おやすみ、アカ」
「おやすみなさい、ハナさん」
目が覚めた時、ハナさんの姿はどこにもなかった。




