三話 赤さん、襲われる
ぶちギレて叫びそうになった。
だが、なんとか心を落ち着かせる。
無駄に声を上げて、エネルギーを一ミリでも消耗するわけにはいかない。
冷静に、あくまで冷静にこの状況から生還しなくてはいけない。
目を閉じて、再び自分の情報を確認する。
名前 赤さん(仮)
種族 人間
年齢 0歳と3時間
職業 捨て子
装備 タオル一枚
アイテム 藁の籠
生存確率 0.001パーセント(笑)
スキル くぁwせdrftgyふじこlp
先程、転生子の確率だったところが、生存確率に変わっていた。
声に出してない心の声に知識は解答してくる。
もしかして、僕に流れてくる知識は、自動ではなく、誰かが管理しているのではないだろうか。
それは、神様なのか、別の世界の人間なのか。
もしかしたら、助けてくれと願えば、僕を救いにやって来てくれるかもしれない。
助けて。いや、助けろ。お前の知識のせいでこうなった。だから、なんとかしろっ。だいたい(笑)ってなんだよっ!
心に強く念じるが、なにも返事はない。
それでもただひたすら、祈り続ける。
動けない赤子の身体では、祈ることぐらいしかできなかった。
何かが近づく気配を感じた。
風が吹き、エルレ草が揺れる。
同時に、ここに来たものの匂いが、鼻の奥まで入り込む。
ああ、終わった。
目を閉じて、絶望を噛みしめる。
結局、僕に知識を与えたものなどやってこなかった。
この匂いは間違いなく……
「ぐるるるるる」
強烈な獣臭だった。
僕の様子を見ながら、獣が円を描くようにぐるぐると回っていた。
ゆっくりとその円は小さくなっていく。
僕を食べるつもりだろうか。
もしかしたら、優しい獣で僕を拾って育ててくれる可能性もあるかもしれない。
そんな小さな望みを抱いて、獣の情報を調べてみる。
名前 ハイエナウルフ
種族 狼科
好物 人肉
特技 残さず骨まで平らげる
はい、完全に終わりました。
これはもうどうしようもない。
どれだけの知識があったとしても、この状況を覆す手段は残されていない。
できることはもう、最後に笑うか泣くか、そのどちらかぐらいだろう。
ハイエナウルフが、籠に入った僕の顔を覗き込む。
臭い息と共に、汚いヨダレが顔にかかった。
それでも僕は泣かなかった。
この世に未練はたくさんあった。
僕を転生子と間違えて捨てた両親の誤解を解きたかった。
ご飯を一度くらいは食べてみたかった。
僕に知識を与えた何者かに文句を言いたかった。
そして、なにより、この世界のことが、もっともっと知りたかった。
僕は最後に笑っていた。
捨てられた原因になったあの笑顔だ。
泣き叫んで死ぬよりも、せめて最後は笑って死にたかった。
それを見たハイエナウルフが、一瞬、躊躇したように動きが止まった。
だが、すぐに思い直したように、僕に向かって牙を向ける。
大量の血が僕の籠を紅く染めた。
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