二十三話 赤さん、閉鎖される
「さて、どうするかな」
僕の家族、ガレア家の話をしてくれたハナさんは、少し悩んでいるようだった。
「このまま、街にアカの出生届を出そうと思っていたが、不味いかもしれないな」
確かに、僕を捨てたのは、この街を支配しているガレア家だ。僕が誰かに拾われていないか、調べているかもしれない。
「まあ、すでに門番のカートにも知られてるから、同じかもしれないな。バレたらバレたで、引っ越しでもするか」
『ごめん、ハナさん。僕のせいで』
「気にするな。ちゃんと倍返しで返してもらう。それに引っ越しには慣れている。同じ場所に長くいると、私も転生子と疑われるからな」
ハナさんは、これまでも色んなところを転々としてきたみたいだ。
ずっと一人で生きてきたのだろうか。
それは、とてもさみしいことのように思えた。
「よし、今日はこのまま帰るか。面倒くさいことはまた今度考えよう」
『う、うんっ』
自分を捨てた家族が、厄介な街の支配者だったのに、ハナさんは、そんなに気にしている様子もなかった。
ハナさんといると、僕はこれからもなんとかやっていけるんじゃないかと思えてくる。
だけど、それが甘い考えだったということを、僕はすぐに思い知らされる。
「ん? なんの騒ぎだ?」
街から出ようと、入り口の門に近づくと、そこには十人ほどの人だかりができていた。
「どういうことだ。なぜ外に出れないっ」
「いい加減にしろっ。夕方までに商談があるんだっ」
通行止めをされているらしく、街の人々から怒声が飛び交っている。
「すいません、上の方からしばらく門を封鎖するように言われて。すぐに解除されると思うので、もうしばらく待っててください」
対処しているのは、来たときに話した門番のカートだった。
完全に門を閉鎖したから、外にいる意味がなくなり、中に入ってきたのだろう。
「何があったんだ、カート」
「ああ、フラか。いや、それがさっき伝達が来たばかりでさっぱりわからないんだ。門を閉じて、しばらく絶対に誰も外に出さないように言われている」
「……それは、ガレア家からの伝達か?」
「ああ、そうだ。絶対命令の執行だ。まったく、理由くらい教えてほしいぜ」
ハナさんがちっ、と舌打ちした。
『あの糞蜘蛛、裏切りやがったな』
口には出さない、ハナさんの思考が僕に流れてきた時だった。
門の上で、キラッ、と一瞬何かが光り、それがハナさん目掛けて飛んでくる。
『ハナさんっ!』
「ああっ、わかってるっ!」
ハナさんが素早く詠唱すると、身体の周りに大きな竜巻が発生する。
飛んできた何かが、その風にばちん、と弾かれ地面に落ちる。
それは鋭く尖った鉄がついた、弓矢の矢だった。
飛んできた方向を見ると、門の上に弓矢を構えた兵士がずらりと並んでいた。
「フラ・ワー、及び、その赤子に転生子の疑いがかかっている! よって、これより両名を処刑する!」
弓を構えた兵士の中でも、一番偉そうな奴が手を挙げる。
今度は全員がハナさんに向けて、弓矢を構えた。
門の前に集まっていた人々が、悲鳴をあげて逃げ出す中、門番のカートだけがその場に呆然と立ち尽くす。
『ハ、ハナさん』
「ふん、心配するな、アカ。こういうのにも慣れている」
そう言って、ハナさんは僕に向かって笑いかける。
それと同時に大量の矢が僕とハナさんに向かって放たれた。




