二十二話 赤さん、祖父を知る
「城塞都市ガレアは、最初はただの小さな街だった。しかし、国境に近いこの街は、幾度も起こる戦争で、常に前線となり、街の人達が犠牲になった。その時立ち上がったのがガレア家だ」
蜘蛛女アラクネの隠れ家を離れ、街の中心にある広場でハナさんと昼食を取りながら話していた。
僕はミルク、ハナさんは、銀色の袋に入ったチューブみたいな流動食を食べている。
大きな池が真ん中にある広場には、いくつかベンチが用意されており、その一つにハナさんが腰掛ける。
他にもベンチに座って、休憩している人がいたが、かなり離れた位置だったので、ハナさんは気にせずに普通に話している。
「中心となったのは、いまの当主ランス・ガレアの父、ガンス・ガレアだ。街を壁で囲むアイデアも彼によるものだ。ガンスは、攻めてくる敵から守る城塞を街の人達と協力して作り上げた。これまですぐに敵に占領されていた街は、ある日、突然、強固な守りを持つ、砦となったわけだ」
食事が終わったのか、ハナさんは銀色の袋をくしゃ、と潰してポケットに入れる。
僕はまだミルクが飲み終わらず、んぐんぐ、と飲みながら話を聞く。
「国としては、大喜びだ。強力な前線基地が出来たわけだからな。しかし、街を壁で囲んだガンスは、自国の兵士すら中へ入れなかった。この街を新たな国家として、独立を宣言したんだ」
『そんなことをして、争いは起きなかったの?』
ミルクを飲んでいて話せない僕は思念を飛ばす。
「起きたよ。敵の国も味方の国も、戦争の最前線であるこの街を占拠しようと躍起になった。しかし、ガンス・ガレアと街は、決して折れなかった。そして高い壁に覆われた強固な守りは、多くの兵士が集まっても、容易に陥落できなかったんだ。そして、ガンスは誰もが予想もつかない行動に出たんだ」
『……んぐっ。なにをしたのっ!?』
ミルクを最後まで飲み干す。
自分のおじいちゃんの武勇伝にかなり興奮していた。
「まずは兵士を街に多く送ってしまい、手薄になった敵国に単身乗り込んで、その王の首を取ってきたんだ」
『単身って? たった一人で?』
「ああ、たった一人で、だ」
赤ちゃんの僕でもそれがどれだけ凄いことかわかる。
僕のおじいちゃんこそ、転生子なんじゃないだろうか。
「しかも、それだけで終わらなかった」
『まだ終わらないのっ!?』
「そうだ。敵国の王の首を取った帰りに、自国に赴き、王への謁見を希望したんだ。王は独立をやめて、敵国の王の首を手土産に和平を申し出てくると思い、喜んで承諾した。だが、ガンスは敵国の王の首を持ちながら、一瞬で自国の王の首も跳ね飛ばした」
『わぁ、おぅ』
あまりの凄まじさに、アホみたいな思念を飛ばしてしまう。
「それから、どの国もこの街には手を出さなくなった。アカの祖父ガンス・ガレアは、誰もが恐れる英雄【無謀王】として、この街を支配したんだ」
『おじいちゃんは、まだ街にいるの?』
「そうだ。息子のランス、つまりアカの父親にすべて任せて引退したと言っているが、この街の実権は、まだガンスが握っていると、私はみている」
僕の家族に、僕が生きていることがバレたら、そのおじいちゃんが敵になる。
いや、街の権力を握っているガレア家が敵となるなら、この城塞都市ガレア全体が僕の敵となるだろう。
僕は大きくなるまで生き残ることができるだろうか。
死んでしまったら、ハナさんに恩返しできないのが、一番嫌だな、と僕は思った。




