二十一話 赤さん、父を知る
「情報ねぇ。いったいどんな情報がほしいのかしら」
蜘蛛女アラクネはキセルをふかしながら、値踏みするようにハナさんをじっ、と見る。
「簡単な情報だ。ここ数日で死産があった家がないか教えてほしい」
えっ、と驚くが今度は声に出さない。
それはもしかして、僕のことを……
「その赤ちゃんと関係あるのかしら?」
「答える必要があるのか?」
「いいえ、ないわ。でもそうなると、この情報は少し高くなるわねぇ」
「次からもずっと同じ取引価格でいいといったら?」
蜘蛛女アラクネの動きが止まる。
どうすれば、ハナさんから最も搾り取れるか考えているのだろうか。
だが、その前にハナさんが、蜘蛛女アラクネに、ぐっ、と顔を近づける。
「これ以上、欲をかいたら、損をするとおもうぞ」
ハナさんの二つの目と蜘蛛女アラクネの六つの目が睨み合う。
先に引いたのは、蜘蛛女アラクネのほうだった。
「いいわ、それで手を打ちましょう。いい取り引きだわ」
蜘蛛女アラクネの四つの目が閉じて、二つになる。
その後、ドレスの裾から袋を取り出して、金貨を五枚取り出した。
「情報はすぐにわかるわ。待っている間、よかったら一緒にどう? 嫌なことも忘れられるわよ」
「遠慮するよ。それはただのまやかしだ」
ピンクの煙を出すキセルを、ハナさんは断った。
それが僕にはなんだか嬉しくて、ニヤついてしまった。
「表情豊かね。もう少し気をつけないと危ないわよ」
「ああ、後でしっかり教育しておく」
再びハナさんに睨まれて、目線を逸らす。
『赤ちゃんは目線を逸らさない。そういうとこがダメなんだ。次からはもう連れてこないぞ』
『ご、ごめんなさい。でも、ハナさん、いいの? 僕の為にそんな取引して』
『大丈夫だ。ちゃんとアカの借金として、計算している』
さ、さすがハナさん、抜け目がない。
働けるようになったら、頑張って返していきます。
そんなことを考えている時だった。
壁の隙間から一匹の蜘蛛がカサカサと現れる。
「あら、本当に早かったわね」
蜘蛛は蜘蛛女アラクネの足から登っていき、あっという間に耳元まで這い上がる。
「ふんふん、あらそう、ありがとう。後でたっぷりご褒美をあげるわねぇ」
どうやら蜘蛛と蜘蛛女アラクネは会話しているらしい。
蜘蛛が情報を掴んで、報告しているのだろう。
「わかったわ、フラ。ここ最近では二件。一件は三週間前、もう一件は二日前に死産した赤ちゃんがいるらしいわ」
二日前っ! そっちに間違いない。
「二日前の方を聞かせてくれ」
「二日前の方ね。ふふ、これはなかなか面白いわよ」
勿体つけるように、蜘蛛女アラクネが笑う。
「二日前に死産の報告を出したのは、ランス・ガレアよ」
ガレアという名前に聞き覚えがあった。
確かこの街の名前が……
「ガレア家当主。この街の支配者か」
僕を捨てた父は、この街で一番えらい人だった。




