表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/80

十九話 赤さん、裏道に入る

 

 街の中は、外の巨大な壁に覆われた物々しい雰囲気と違い、明るく賑やかな所だった。

 入り口の近くから多くの店が並んでおり、何かを焼いてる、いい匂いが漂ってくる。


『ハナさんっ、あれはなにっ?』

『ホットドックの露店だな。肉を腸詰したものを焼いて、パンに挟んで食べるやつだ。こっちの世界には無かったものだから、転生子の誰かが流行らせたんだろう』


 確かにホットドッグの情報は入ってこない。

 こちらの世界の食べ物ではないようだ。


『ハナさん、転生子は見つけたら殺すとか言ってなかった?』

『ああ、だが、簡単に見つかるもんじゃない。転生子とバレたら世界中から命を狙われるんだ。私を含めて、転生子は皆かなり慎重だ』


 そういえば、ハナさんは門番の人と普通に話していた。

 普通の人間として、うまく街に溶け込んでいるんだ。

 僕は特に転生子と間違えられやすいから、気をつけなければならない。


『で、ハナさんはこの街に通貨を稼ぎに来たって言ってたけど、どこかの店で働くの?』

『いや、私は働くのが大嫌いなんだ。転生前も、ずっと引き篭もりのニートだった』


 ニートという言葉は知らないが、かなりダメ人間だったことがなんとなくわかる。


『え? だったらどうやって通貨を稼ぐの?』

『ふふん、見てのお楽しみだ』


 得意そうなドヤ顏でハナさんは賑やかな通りを抜けて、どんどんと裏道に進んでいく。

 そこは明るい表通りと違い、壁の影に隠れた薄暗く、ジメジメとした場所だった。

 ちゃんとした店はなく、汚れた服を着た男達が、地面にゴザを敷いて座っている。

 そこには、なにやら怪しげな薬のビンや、奇怪な装飾品が並んでいた。


 ハナさんは、その男達に見向きもせず、さらに裏道の奥へと進んで行く。

 ほとんどの光は遮られ、ひび割れた壁から、わずかに漏れる灯のみだが、ハナさんは、まるで速度を落とさなかった。

 何度もここに来ていているのだろう。

 そして、最後にハナさんが辿り着いた場所は、ただの壁があるだけの行き止まりだった。


『道を間違えたの?』

『いや、あってるよ』


 ハナさんが壁に向かって手を添えて、ボソリと何かをつぶやく。

 魔法だ。何の属性かわからないが、精霊の力が働くと、僕はそれを感じるようになっていた。

 そして、闇が剥がれ落ちるように壁が消え、目の前に大きな扉が出現する。


『さて、仕事の始まりだ』


 ハナさんが、その扉を開けると、むせ返るような甘い香りがして、思わず鼻をつまみそうになる。

 しかし、赤ちゃんらしくするために、それを我慢して、なるべく息を吸わないようにした。


「あら、フラじゃない。こんにちわ」


 部屋の中心に、明らかに人間ではない女性が座っていた。

 下半身から下が、どう見ても蜘蛛だった。

 上半身は優雅な貴婦人のように、ドレスを(まと)い、右手に持った長いキセルを吸って煙を吐き出している。


「今日は、何の用なの? もしかして、その美味しそうな赤ちゃんをお土産に持ってきてくれたの?」


 じゅるり、と蜘蛛女が喉を鳴らすのが聞こえる。


 僕は思わずおしっこを漏らした。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ