十六話 赤さん、オムツをする
完全に目が覚めたのは、朝になってからだった。
夜中に一度目を覚ましたが、ハナさんが寝ていたので、また地と風の合成魔法で指を作って、ミルクを運び補給していた。
いっぱい眠って、いっぱい食べたので、情報を見なくても、体力と魔力が完全に回復したのがわかる。
とても爽やかな目覚めだった。
ある一点を除いては……
「起きたか、アカ。なんだ、渋い顔をしているな」
そう、下半身に不快な違和感を感じていた。
これまであった解放感がなく、なにかに締め付けられている。
しかも、お尻がねちょねちょと気持ち悪い。
「あ、くせえ。やりやがったな」
ハナさんが僕の下半身に手を伸ばす。
そこには紙でできた布のようなものが巻かれていた。
「昨日、頼んだオムツが早くきてよかったよ。やっぱり知識はあっても、赤ちゃんは漏らすもんなんだな」
どうやら、寝ている間にハナさんは僕にオムツというものを装着してくれたみたいだ。
おしっこの時もそうだったが、僕は生理現象をまだコントロール出来ないらしい。
「ご、ごめんなさい。ハナさん」
「いいよ、だけど早く自分でトイレにいけるようになれよ。オムツもけっこう高いからな」
そう言ってオムツを替えてくるハナさんは、意外と手際が良く、ちゃんとお尻も拭いてくれた。ちょっと恥ずかしかった。
「あれ、ハナさん、その格好は?」
ハナさんは寝る時以外は、いつもぴっちりしたおっぱいが強調される黒い服だったのに、今日は違う服装だということに気がつく。
茶色い地味な布の服に、大きな革鞄を背負っている。
「今日は街に出かけるからな。いつもの服はこっちの世界にないやつだから転生子とバレてしまうんだ」
「そうなんだ。何しに街に行くの?」
「アカのせいで思ったより出費が重なったからな。物を売って通貨を稼がないと、アマゾーンが使えなくなる」
確かに最初にそう言っていた。
哺乳瓶とミルクとオムツは、かなり高いものだったのかな?
将来、頑張って働いて、ハナさんに返さなくてはならない。
「それでアカはどうする?」
「え? どうするって?」
「ついてきてもいいし、留守番していてもいい」
「ついていっていいのっ!?」
この世界のことをほとんど知らない僕は、街へ行けることへの興奮を隠せない。
「ほっといたら昨日みたいに死にかけるからな。ただし、外では絶対に話したり、魔法を使ったりするなよ。普通の赤ちゃんのフリをしとけよ」
「う、うんっ! 大丈夫っ! 約束するっ!」
「わかった。じゃあ、こいつは私からのプレゼントだ」
ハナさんがふわふわの小さなものを僕に見せる。
それはハナさんの髪と同じ蒼色の、かわいい赤ちゃん服だった。