十三話 赤さん、予感する
「そういえばハナさん、さっきはどこに行ってたの?」
ふと疑問に思ったことを口にする。
なんでも知りたくなるのは、僕の性格ではなく、流れてくる知識の影響なんだろう。
「ああ、狼の血がついたお前のタオルを置いてきた」
「え? どうしてそんなことを?」
「アカを捨てた家族に、アカが死んだと思わせる為だ。生き残っていることがバレたら、厄介だからな」
転生子はそこまでして、徹底的に排除されるのか。
ハナさんは、僕と違って誰にも助けられずに、転生子として生きてきたのだろう。
自分しか信じない、といったハナさんの言葉を思い出す。
その壮絶な人生を想像するだけで、僕は悲しい気持ちになった。
「アカ、お前、また無意識に魔法を使っているな」
「え? 考えてることがわかったの?」
「違う。別の魔法だ。いま、灯りに反射して目が光った。眼球にレンズのようなものが付着している」
そう言われて思い出す。
確か光属性の魔法がレベル2になっていた。
「生まれたばかりの時は、あまり目が見えないからな。全部見たいという欲求が作り出したんだろう」
「そうなんだ。魔法って便利だけど、勝手に作動してしまうんだね」
「いや、普通はそんなことないんだけどな。ほとんどの魔法には詠唱が必要なんだ」
詠唱の意味はすぐに頭に流れてきた。
本当なら魔法は呪文を唱えないといけないのか。
「わかりやすく言えば、魔力は精霊のご飯だ。だがそのままだと、味も素っ気もない白米だけを出されているようなもので、精霊は魔力を食べてくれない」
ハナさんはそう言って、聞こえないくらいの小さな声でなにかを呟いた。
同時に手のひらに小さな竜巻が出来る。
「短い詠唱は、ご飯にふりかけをかけるようなもので、長い詠唱はおかずをつけるようなものだ。私は独学なので、かなり適当な詠唱だがな」
「どうして僕は、詠唱なしで魔法が使えるの?」
「おそらくアカの魔力は、詠唱なしでも精霊がそこそこ食べられる魔力なんじゃないか。ちょっと塩味がある白米といったところかな。無属性ということが関係していると思うぞ」
魔力を食べ物で例えてくるハナさんの説明はわかりやすい。
詠唱なしで魔法が使えるなら、詠唱すればもっと強力な魔法を使うことが出来るのだろうか。
いや、このまま無詠唱で魔法を使っていくほうが、いいかもしれない。
他の誰もがやれないことをしたほうが、戦略的に有利な気がする。
戦略的という言葉が浮かんだことに少し戸惑う。
僕は、これから様々な敵と戦うことを想定している。
僕を捨てた家族が、僕が生き残っていることを知れば厄介だとハナさんは言っていた。
それは流れてくる知識と関係ない、予感のようなものだった。
やがて僕は、僕の家族と戦うことになる。
そう強く確信していた。