十二話 赤さん、死にかける
目が覚めた時、覗き込むハナさんの顔が見えた。
どうやら、意識を失った僕を心配してくれていたようだ。
出会ってから、ずっと無表情だったハナさんの顔が、少しだけ微笑んだのを僕は見逃さなかった。
「魔力がなくなって気絶したんだな。魔法でミルクを取ろうとしたのか」
声を出そうとしたが、疲れているのか、声が出なかった。
僕はかわりにゆっくりと頷いた。
「魔力を使いすぎると生命力まで消費していく。もう少しで死ぬところだったぞ」
そう言ってハナさんがミルクの入った哺乳瓶を僕の口に持ってきてくれた。
無機質なゴムを噛みしめると、中からミルクが流れてくる。
それはまるで、命そのものが流れてくるように僕の身体に染み渡る。
僕は一心不乱にミルクを飲み続けた。
「魔力の総量は成長と共に増えていく。生まれたばかりのアカの魔力はまだ小さなものだろう。寝たり、食べたりして回復しないとすぐになくなるから、今度からは気をつけて使うように」
「んぐ、んぐ、んぐんぐ」
ハナさんが僕にミルクを与えるのを忘れたからでしょうっ、と言いたかったがミルクを飲むのに必死でそれどころではない。
さっき魔法を使う前に、自分の情報で体力や魔力の残量も見れたので、今度はそこも注意しておこう。
「けぷ」
哺乳瓶のミルクを飲み干すと自然にゲップが出てきた。
生まれて初めての食事に疲れきっていた身体がかなり回復したのを感じる。
これで、死にかけだった僕の体力や魔力は回復したのだろうか。そう考えただけで、いつものように自分の情報が流れてくる。
名前 アカ・サン(仮)
種族 人間
年齢 0歳と丸一日
職業 転生子の養子
装備 ふかふかの毛布
アイテム 藁の籠
排尿率 70%
スキル くぁwせdrftgyふじこlp
体力 6/10
魔力 50/200
魔法属性 無属性
魔法レベル
火 1
水 1
風 4
地 2
光 2
闇 1
おお、体力も魔力もかなり回復している。
さらに風魔法と地魔法のレベルも1ずつ上がっていた。
あれ、まてよ、確かさっきは魔力の総量は100じゃなかったかな?
今は50/200となっているから、もしかして倍になってる?
「ねえ、ハナさん。魔力の総量が気絶する前の倍になってるんだけど、そんなにすぐ増えていくものなの?」
「なんだとっ。そんな急激に増えることなどありえない。まさか、魔力を枯渇させたら総量が増えるのか」
「そうなの? ハナさんは試したことないの?」
「当たり前だ。一歩間違えれば死んでしまうからな。たぶん誰も試したことないと思うぞ」
確かに死んでしまっては、総量が増えても意味がない。
けど、うまく死なないように魔力を何度も枯渇できれば、すごい魔力総量を得ることができるんじゃないだろうか。
「なんとなく考えていることはわかるが、あまり意味はないぞ。魔力が沢山あっても、無属性のアカはそこまで魔力のいる魔法は使えない」
「わ、わかってる。無理はしないよ」
気絶して風魔法が止まったから、もう思考は読めてないはずなのに、ハナさんは鋭い。
けど、僕はそう言いながらも大変なことを考えていた。
魔力総量が上がれば、二つの魔法を組み合わせるだけでなく、3つや4つの合成魔法も可能じゃないのか。
いや、もしかしたら6つの属性魔法、そのすべてを合体させることができるんじゃないか、と。