十一話 赤さん、魔法を練習する
ハナさんが僕にミルクを飲ますのを忘れて出かけてから小一時間が経過した。
帰ってくる様子は、まるでない。
お腹も空いている上に、水分も足りてない。
このままでは、せっかく拾ってもらったのに死んでしまう。
なんとか、頭の上にあるミルクが入った哺乳瓶を取ろうとするが身体は思うように動かない。
手足をバタバタさせるだけで、無駄に体力を使い、さらに体調が悪化する。
そうだ、ハナさんは僕が風魔法で思考を飛ばしていると言っていた。
だったら、風を操ってミルクを運ぶことができるんじゃないか。
そう思って、ミルクに向かって動けと強く念じる。
ふわっ、とそよ風のような優しい風がミルクの向こうから吹いてきた。
当然ながらその程度の風ではミルクは、まったく動かない。
魔法が使えた喜びよりも、今はお腹が空いていることのほうが上回り、まったく嬉しくない。
「無属性だから魔法が弱いのかな。強い風魔法は僕には無理なのかぁ」
そう思った瞬間、頭に情報が流れてくる。
それは久しぶりに見る自分の情報だった。
名前 アカ・サン(仮)
種族 人間
年齢 0歳と18時間
職業 転生子の養子
装備 ふかふかの毛布
アイテム 藁の籠
腹減り率 100%
スキル くぁwせdrftgyふじこlp
体力 2/10
魔力 25/100
魔法属性 無属性
魔法レベル
火 1
水 1
風 3
地 1
光 2
闇 1
おお、情報がかなり詳しく更新されている。
しかも風魔法のレベルが3になっていた。
ずっと思念を送り続けている状態だったからだろうか。
さらに光魔法のレベルも2になっていた。
無意識のうちに光魔法も使ったのかな?
とりあえず、このまま頑張れば、飢えて死ぬ前にミルクを運べる風を出すことが出来るかもしれない。
いや、まてよ。せっかくだから他の属性の魔法と組み合わせてみようか。
レベルが低くても、組み合わせが良ければ、凄い魔法になるかもしれない。
ハナさんは風と地の属性が反対属性と言っていた。
ならあえて、この二つを同時に使ったらどうなるか試してみよう。
地属性というぐらいだから、土とかを使う魔法だと予測する。
ミルクを運ぶ為の手が欲しいと必死に念じる。
サーー、と何もないところから砂が生み出され、それが形を成していく。
しかし、さすがにレベル1では望みは叶わない。
土の手は完成することなく、砂で作られた一本の指が出来上がる。
それも形を成しただけで、まったく動く気配がない。
「ここでこの指を風魔法でっ」
重たいミルクは動かせなくても、小さな指一本なら風で動かせるっ!
初めての属性合体魔法は、たった一本の指を作って動かすだけのものだった。
しかし、その指はふわふわと風に浮いて、僕の頭の上にあったミルクに、コツンと当たる。
それが、ぐらりと倒れて、僕の胸に落ちてくる。
ちょうどいい温さになった哺乳瓶に口を近づけた。
やった。これで、ようやくミルクが……
それは突然のことだった。
ハナさんが昨晩電気を消した時のように、目の前が真っ暗になり何も見えなくなる。
それだけではなかった。
身体中の力が抜け、意識が途絶えそうになる。
……どうして?
最後に疑問に思ったことが情報で流れてくる。
魔力 0/100
魔力が空っぽになった僕は、そのまま意識を失った。