十話 赤さん、さらに魔法を教わる
「僕、魔力ないのかなぁ」
しばらく待ってみても、器には何も起こらない。
半泣きになりながらハナさんにそう尋ねる。
「いや、魔力は器に溜まっている。何も起こらないなんてありえない。必ず六大精霊のどれかが反応するはずなんだが……」
ハナさんも原因が分からず、真剣な顔で考えている。
「……もしかして、いや、間違いない、これは第七属性かっ!」
「え? 属性てもう一つあるの?」
「名前だけは聞いたことがあった。ただの仮説だと思っていたよ。これまでその属性を持つ者は誰もいなかったんだ」
なんという事だ。知識に引き続き、僕は魔法でも特別な才能を発揮してしまうのかっ!?
「……どうやらアカは無属性のようだ」
「え? 無なの?」
「簡単に言えば、無属性はどの精霊にも、好かれないが嫌われない属性だ。六属性の魔法を全て平均的に習得できるが、得意な魔法も苦手な魔法もないといった属性だな」
誰も持ったことのない属性とかいうから、すっごいカッコいい属性が来ると思っていたが、かなり地味な属性だった。
「それって、ハズレ属性じゃないの?」
「まあ、他に例がないのでなんとも言えないが、アイデア次第では使えるかもしれないぞ」
慰めてくれているのだろうか、ハナさんがいつもより僕に優しく話しかけてくれる。
「本来なら、誰もが得意な属性と苦手な属性を持っている。火と水、地と風、光と闇の反対属性を同時に使う者は一人もいない。組み合わせてみたら、オリジナルの魔法も作れるんじゃないか」
「……オリジナル魔法かぁ」
うん、そうだ。
ハナさんも魔法はそこまで得意じゃないけど、アマゾーンと組み合わせて効果的に使ってると言っていた。
僕も頑張って色々やってみよう。
無属性の無は、無限大の無だよっ。
「いや、無限大っていうほどすごくはないと思うぞ、悪いけど」
「うわっ、思考を読んだの? やめてよっ、恥ずかしいからっ」
「べつに読みたくて、読んでいるんじゃない。油断したら勝手に聞こえてくるんだ。アカが無意識に魔法を使っているからだぞ」
「え? これ魔法なの?」
「そうだ。風魔法だ。捨てられた時に誰かに助けてと祈っただろう。それを風の精霊が聞いて、今もアカの思考を飛ばしてるんだ」
確かに捨てられた時、助けてと強く念じていた。
「これ、どうやったら、止まるの?」
「祈った時と同じ強さで、もう一度祈れば止まるはずだ」
あの時は命がけだったし、また同じ強さで祈るのは難しい。
ここにはハナさんしかいないし、魔法に慣れるまでは、このままでいいかな、と思ってしまう。
命の恩人であるハナさんになら、心を全部見せても構わない。
「バカ、恥ずかしいこと考えるな」
思考を読んだハナさんが、顔を赤くする。
「ちょっと出かけてくるから、それまでにその思考を止めておけ」
そう言って、照れながら家を出るハナさんを見送る。
僕の側には、ほどよく冷めたミルクが置かれたままだった。