一話 赤さん、誕生する
恐らくは、自分は特殊な存在なのだろう。
生まれた瞬間にそれは理解できた。
この世に誕生したばかりなのに、僕の頭の中に溢れるような知識が入り込んでくる。
そして、真っ暗なトンネルを抜け、光輝く世界に辿り着いたことに喜びを隠せず、僕は力一杯の笑みを浮かべた。
「ひっ」
僕を取り上げた助産婦さんが、驚いて声を上げる。
「お、奥様っ、この子っ、泣かずに笑いましたよっ」
どうやら、生まれた瞬間は泣かなければいけなかったらしい。
しかし、どうしたらいいものか。
非常にテンションが高く、泣きたい気分でもない。
仕方がないので、ヨダレを指ですくって、目に持っていく。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
「ひぃ、嘘泣きまではじめましたっ! 転生子ですっ! 間違いありませんっ!」
完璧な演技だと思ったがバレてしまった。
どこがダメだったのだろうか。
「そ、そんな。どうしましょう、あなたっ! 私達の子供が呪われているなんてっ!」
「残念だが、掟に従い捨てるしかない。この子の魂は、すでに亡くなっているのだ。これは間違いなく、転生子だ」
ええっ!?
そうなの?
いや、転生とかしてないんだけど。
ただ、色んな知識が付属してただけで、今回が真っ新な第一回目の誕生なんですけどっ!
両親が誤解しているので、それを説明しようとするが声が出ない。
いや、声帯がまだ出来てないので、あー、とか、うー、しか言えないのだ。
「奥様っ、旦那様っ、何か言っていますよっ」
「聞くんじゃない。異世界から転生してきた者は、邪悪な存在だ。本来、あるべき魂を無残にも葬り、さも自分が本当の子供のように振る舞って、この世界に入り込む」
違う。異世界から来てない。僕、本当の子供だよ。
今度はジェスチャーで伝えようとする。
「ひぃぃ、旦那様っ、今度は不気味な踊りをっ」
「大丈夫だ。転生子はやがて強大な力を身につける者が多いが、赤子のうちはなにも出来ん。今のうちに山に捨ておけば、どうすることも出来んだろう」
「あなた、本当に捨てるしかないの? 私はっ……」
「ならんっ! 生きていれば世界に災いをもたらすっ! 死産だったと諦めるしかないのだっ!」
うわぁ。これ、本格的にヤバイやつだ。
あ、泣けてきた。
ようやく悲しい気持ちになってきた。
僕、泣けるよ。いまなら泣けるよっ!
「おぎゃあああァアアアア!」
「いまさら、遅いわっ!」
僕の産声は、父親らしき男の怒声にかき消される。
こうして、生まれてすぐ、名前も貰えぬまま、僕は山に捨てられた。