表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンドレス!  作者: MUMU
第一章 竜の魔法と世界の中心
1/52

挫折する路傍の石、そして世界の中心

この作品は以前arcadiaに投稿していたもののリメイクです。

細部を書き直しつつ、完結まで投稿できればと思っています、

ひたすらお色気とバトルを書きたいだけのお話ですが、クイズ王と合わせてよろしくお願いいたします




序章






ドラゴニア思想とは、大陸南部に存在するとされる異端思想である。

その思想によれば、かつてこの世界には竜族ドラゴニア、と呼ばれる種族が存在したという。

これはドラゴニュクス種族、サーペンティア種族、キャニオンコープス種族など、いわゆるドラゴンと称されるモンスターとはまったく異なり、神や精霊とも同一視される超越存在であるという。

竜族ドラゴニアは世界全土に版図を広げていたが、人類が出現してその勢力を広げると共に、自ら身を引いて滅びの道を選んだ。

だが、彼らはただ消え去ったわけではなく、自らの身体を変異させ、人類のために様々なものを遺したのだという。

ある竜は大地に染みこみ、この世界の「鉄」の全てとなった。

またある竜は翼を振るい、この世界に「風」が生まれた。

そしてある竜は人類に知恵を伝え、人類は「言葉」を手に入れた。


言うまでもなく、これは多くの神話に見られる「創造主」を竜族ドラゴニアに置き換えたものであり、説明の付かない自然現象や、技術の由来を超常的存在に押し付けたものである。


ドラゴニア思想で説明できないものはなく、「雷」や「虹」など自然現象に始まり、


「恋愛」

「生と死」

「腐敗と発酵」

「歯車と滑車」

「魔法と魔物」


など、あらゆるものを説明してしまう。


言ってみれば民間思想の一派に過ぎないが、興味深い点が存在する。

ドラゴニア思想を伝える語り部は、その物語の最後に必ずある一節を告げるのである。


この一節の内容は様々な解釈が試みられているが、何を示唆しようとしているのか、いまだに定まった説は無い。

それは次のようなものである。


――こうして世界は竜の贈り物で満たされたが、最後に残った竜はふと疑問を抱いた。

――こんなに多くのものを贈っては、人はだめになってしまうのではないかと。

――そして最後の竜は、最後に「自分自身」を人に与えた。

――これが竜の終焉であった。










第一章



人が魔術を行使する時、魔術もまた、人を使役して世界に顕れようとしている。

人と魔術が対等でないことは言うまでもない。人は常に、魔術に対して謙虚であるか、あるいは傲慢でなくてはならないのだ。


―――『現代魔法建築学』冒頭の一節―――









生まれつき、才能がないから仕方がない。

そんな言葉を、生まれてからずっと我慢してきた。


血の滲むぐらい努力して、眠りを忘れるほど勉強した。

すべては大陸最高峰、「七つの試練場」と「深き書の海」を擁する学び舎、ワイアーム練兵学園への入学のため。

その学生は六千人を数え、周辺には学園を中心として広大な市街地が築かれ、多くの優秀な人材を輩出し続けるこの学都ワイアームに移り住んで3年。


そして落ちた。


生涯に三回だけ受験資格のある魔法学科の試験に、三度とも。

合格者の掲示を端から端まで5回も見返しても、どこにも僕の名前は無かった。


自慢ではないが、筆記試験だけなら全受験者の中でもトップクラスだった自信はある。

数学、理化学、論述はもちろんのこと、法学、地学、薬学、語学、その他もろもろ。


そして魔法学。


この世界の主たる三大魔法、精霊魔法スピリティア聖癒痕ホーリーマーク黒魔窟アビスゲートについての暗記は完璧だったし、それ以外にも地導術グランドピーク心界法マインドステート練武秘儀マーシャルマッド淫妖夢インケスブスなどなど、それ以外にほとんど試験として出題される可能性のない、マニアックの極致みたいな魔法まで学んだ。


しかし、実技が追いつかなかった。


いわゆる魔力枯渇体質エンプティスだった僕には、魔法を使うための根本的な素質が無かった。

術式や理論を完全に理解していても、手の中で魔法が生まれてこない。精霊を操ることができない。神や魔の力を現世に引き出すことができない――。

古今東西あらゆる魔法、魔術、呪術を調べても、僕に使える術はなかった。

そしてこの魔力枯渇体質は、いかなる手段を用いても治すことはできないとされている。

それでも、僕は今まで足掻き続けたのだ。


すべてはワイアーム練兵学園へ入学するため、

そして、一人前の「秘術探索者マギウスディガー」になるため――。


下宿している食堂『花と太陽』亭へ戻ってきても、僕の足取りは重かった。

今年こそ合格してるはずだ、と息巻いて出かけたものの、結果は惨敗。

僕は木造りのドアを開け、中に入ると――。


「おかえりー!!!」


突然、正面から僕の頭を抱きしめる人物がいた。

赤い髪がふわりとなびいて、僕の後頭部にかかる。


年は同じだというのに、僕よりもわずかに背が大きく、女性らしい細さを持ちながら部分的な豊満さも持つ女性。それが僕の髪をわしゃわしゃとかき回しつつ、頭を胸で抱いてぎゅっと締め付けてくる。


「くじけちゃダメよハティ! 人生山あり谷ありなんだからね!!」

「もっ、もがっ」


胸の肉に顔が埋まって息ができない。ものすごい力で抱きつかれて頭蓋骨が圧迫される。背中をバンバンと叩かれるので肺の空気がすべて押し出される。なるほど、僕をすみやかに窒息死させる気だ。


「は、離してよヒラティア!」


僕はなんとか彼女を押し放す。それはこの食堂、『花と太陽』亭の看板娘であり、僕とは0歳児からの腐れ縁。

健康優良にして元気溌剌。その笑顔は眩しく鮮やかで、赤い髪は夏の盛りに咲く花のよう、せり出した胸はまさに太陽の恵みか南国の果実か……と言いつつ彼女の尻を撫でた吟遊詩人を5メーキ(4.9メートル)ほど吹っ飛ばした豪腕の持ち主。赤と白を散りばめたスカートは短く活動的で、編み上げサンダルの足音がかつかつと小気味よく響く。この食堂では何もかも彼女を中心に回っているかに思える。あるいはこの街、この時代すらも。そんなエネルギーと魅力にあふれた人物。

ヒラティア=ロンシエラ、それが彼女の名だ。

この僕、ハティ=サウザンディアは幼い頃母を亡くし、数年前に父親が失踪し、以後は街に出てきて、この食堂の二階に下宿していた。ヒラティアとは同じ村の出身であり、一時は共に秘術探索者マギウスディガーを目指す同志でもあった。……そう、ほんの一時期だけだが。


「そっ、それに、いきなり何だよ、人生山あり谷ありとか、まるでもう落ちたみたいに言って」

「えっ受かったの!?」


…………


「い……。いや……落ちたけど…」

「くじけちゃダメだよハ」「それはもういいっ!」


素早く横にかわす僕のそばで、ヒラティアの両腕がぶおんと空を切る。


「ようハティ、やっぱりダメだったか、まあ人生いろいろあらあな」

「そうだぞ、なあに練兵学校なんざ入らなくったって、立派な仕事についたやつは多いさ」

「そうそう、俺の爺さんが言ってたぜ。マジメに生きてりゃそのうち幸運がやってくる。なぜなら幸運の女神は割とマジメに見てるから、ってな」

「う……うん」


朝っぱらから強い酒をガンガン飲んでるお客に言われたくはないが、僕はもはや抗弁する気力もなく曖昧にうなずく。


「それによお、男として成功したいんなら、秘術探索者マギウスディガーにこだわるこたねえや。学者様やら、商人やら、詩人になるってのもあるわな」

「そうだよ!! ハティならどれでも一流になれるって! 頑張ってるんだもん!」

「……」


僕は何も答えることができず、ただヒラティアの顔から目を逸らしただけだった。

ああ、自分の中で黒い負い目が広がっていくのを感じる。

今日、三度目の試験に落ちて、練兵学校への入学が絶望的になって、

それまで目を背けていたものが、ありありと眼前に突きつけられる気がする。

がむしゃらに頑張っていたことすら、その現実からの逃避だったように思えてくる。


仕方ないじゃないか。

生まれつき、才能がなかったんだから。

僕は心の中で、人生で初めての弱音を吐いた。

その弱音が、僕をより一層の暗がりへ突き落とすと、分かっていながら……。


「ヒラティア! あんたに仕事が入ってるよ!」


食堂の奥から、床を踏み割るほどに太ったマザラおばさんが現れる。ヒラティアの叔母であり、この食堂の経営者だ。田舎から出てきた僕たちの保護者であり、ヒラティアにとっては雇い主でもある。


「了解だよ! おばさん、内容は?」

「西にある洞窟にサーペンティア種族が湧いたんだとさ、その討伐依頼だよ。詳しいことは探索者ギルドまで行って、ギルド長のダズに聞いておくれ」

「分かった! じゃあちょっと行ってくるね、夕方までには戻るから!」


ヒラティアは炊事場の奥へと走って行き、すぐに戻ってくる。

その手には長さ2メーキ(1.99メートル)にも達する両刃の大剣。世界で最も強靭な素材である黒錬鋼グルーフェンを鍛え上げた武器だ。それを軽々と肩に担ぎ、またもう片方の手は、これは白雪鋼スノスティアを鍛え上げた、世界で最も魔法の影響を受けにくい鎧を小さくまとめて捧げ持っている。二つを合わせた重量は僕の体重の3倍に匹敵するというが、ヒラティアはまるで花束のように軽々とそれを持ち出し、僕の横を通って店を出てゆく。


「じゃっ、また後でねハティ!」

「あ、ああ……」


そう、これがヒラティア=ロンシエラ。

ワイアーム練兵学園、戦士科に歴代最高成績での入学を果たし、ワイアーム在学中ながら伝説級の秘術をいくつも見つけだし、神話級の魔物をいくつも討伐し、今や大陸でも最高クラスの秘術探索者マギウスディガー


それが僕の幼馴染であり、僕の……。


……僕とは、何の関係もない人物だ。




R1 7.2 章立てを行いました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ