21.千秋楽
千秋楽。
もともとチケットは完売していたが、昨日の西崎の騒ぎでさらに話題性が増し、劇場の外には数少ない当日販売のチケットを求めて早朝から長蛇の列ができていたという。早くも、同じメンバーでの再演を望む声が半端でない数に上っているという。
おれは初日前の緊張がうそのように落ち着いて舞台に立っていた。
練習をいやというほど繰り返したためか、演じるという意識ではなく自然に体が動く。まるで自分が役柄の人物と同化したかのように。
おれとは全く違う間合い、違うしゃべり方、違う性格を持つ人物の存在を自分の芝居で作り出している、という不思議な感覚がそこにはあった。
最後の場面。あれだけ苦労したのがうそのように、おれは、幽霊になった恋人の姿が、見えているかのように演じきることができた。本当言うと、実際には存在しないキャストである彼女の姿が舞台上では見えていた……ような気さえする。
千秋楽ということでいつもより多めのアンコールに答え、最高の気持ちで戻ってきたおれに、清水が大げさに声を潜めて言った。
『今日、出番がないから来ないって言っていたやつが、客席の右袖近くで見ていたぜ』
倉石のことだろうか? おれ見たんだけどさあ、あいつアンコールのとき、手を叩いてたぜ、という言葉に、おれは驚いて清水を振り返った。
「本当か?」
「さあね。おつかれさーん」
劇場を出ると、もうすっかり暗くなっていた。スタッフの撤収作業を待って、今夜は打ち上げだ。心地よい疲労と、やり切ったという充実感が体に広がり、おれは軽く伸びをした。
「ゆうき、お疲れ」
明るい声がして希が姿を見せた。寒空の下、ずっとおれを待っていたらしい。
舞台の感想を興奮気味に話す彼女は、この後、明日の仕込みをしに店に向かうのだという。 考えてみれば、希もいろんな経験を積んでパティシエという夢を叶え、さらに上を目指してがんばっているのだ。おれも彼女や、西崎に負けていられない。
希と肩を並べて歩きながら、おれは、先ほどの自分ではない人物になりきった感覚を思い出していた。長い試行錯誤の末に得たそれは、今まで味わったことがないほどの快感をおれにもたらした。
そこにたどり着くためなら、何でもできそうな気さえする。
今回の舞台で得た経験を脳裏に浮かべ、おれは、自分の進む道がはっきり見えたような気がした。
―了―
これでこの話も終わりです。自分としては楽しく書くことができたので満足しています。
舞台芸術の世界は好きなのですが、勉強不足でいろいろとおかしな点もあったのではないかと思います。
ご意見、ご感想等、お構いなければ聞かせていただけると嬉しく思います。
読んでくださってありがとうございました。




