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Steady go  作者: kataru
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1.顔合わせ

「よろしくおねがいします。」

 勢いよく頭を下げたおれに、相手が返してきたのは、軽い会釈だけだった。

 なんだよ、それ。初対面の相手に向けて、怒りがピクリと胸の中に頭をもたげたが、無理やり押さえ込んで、笑顔を作った。

「明日からの稽古、よろしくお願いします。」


 今日は都内の某スタジオで、2ヵ月後から始まる舞台の共演者の初顔合わせだった。学生時代から含めて、役者として5年の経験しかないおれは今回の出演者の中で一番の年下で、一番の素人だった。  

 わりと出演者の平均年齢が低い今回の舞台だが、一番俳優としてのキャリアが長いのが、目の前の男である。しかも、おれと同年齢で、一番年下だというのにだ。

 俳優、西崎恵にしざきけい。彼のキャリアはほかの俳優陣の中でもずば抜けている。子役のころからよく舞台や映画などに出演し、いずれも高い評価を受けていて、中堅の有名俳優に混じり、20代の若さで有名な演劇関係の賞をいくつもとっている。ちょっとした伝説のような人物なのだ。

(けど、愛想は最悪だな。まあ、おれに愛想を振りまく必要もないんだけど)

 立ち去っていく西崎の背中を見ながらおれは心の中で思った。

 彼はそのままスタジオの隅に行き、セルフサービスのコーヒーサーバーの前に立った。流れるような動作で伏せてあったカップにコーヒーを注ぎ、近くの椅子に腰掛けた。軽く足を組んで、カップを持っていない方のひじを組んだひざの上に乗せた。そこまで、ついぼうっと西崎を見つめていた自分に気づき、おれはあわてて目をそらせた。

 たったそれだけの動作なのに、自分がはっとするほど目を奪われていたことに気づく。

 彼が有名な俳優だからということではないだろう。今の瞬間は、そんなことは失念していた。周りに、それなりに有名な俳優はたくさんいるのだが、彼の一つ一つの動作のきれいさや、しなやかな筋肉の動きや静かな気配。すべての存在感が、周りと違って感じられた。西崎恵が俳優として舞台に立つたびに高い評価を受けるわけがなんとなくわかった気がした。


「じゃ、次回、今日わたした台本の読み合わせします。その次の稽古からは立ち稽古に入るので、それまでにはみなさん、大まかな流れを頭に入れておいて下さい。」

 はい、解散、という、スタッフの声を聞いて、役者たちは三々五々散っていく。すぐに次の仕事に向かう売れっ子もいれば、顔見知りどうし、今晩飲みに行く算段をつける集団も、さっそく台本をぱらぱらとめくるやつもいる。

 おれも、待ちきれずに台本を開いて自分の出番をチェックしながら、ちらりと西崎を見やった。

 彼は台本を無造作にズボンの後ろポケットに突っ込み、ちょっと体をひねって足元の荷物のバッグを肩にひっかけると、大またでスタジオの扉に向かって歩いていく。扉を開ける直前に演出家に呼び止められ、知り合いなのか、砕けた様子で二、三言葉を交わし、じゃ、と軽く手を挙げて出て行った。


 はっと気づくと、いつの間にか、おれは持っていた台本のページをめくり終わっていた。が、中身は全く頭に残っていない。

 あわてて台本を閉じ、荷物の中に片付けていると、さっき西崎と話していた演出家がおれの前で足を止めた。

「あ、お疲れさんです! この度はよろしくお願いします。」

 あわてて挨拶をすると、少し目を細めておれを見た。

「ええと、たしか、木下ゆうきくんだったね。今回はオーディションから受けてくれたんだよね。君の前回の舞台、僕は見てないけどなかなか評判だったそうじゃないか。」

 前回おれが出演した舞台は、有名なベテラン俳優が主演をした作品だ。おれは主要登場人物ではなかったが主役との絡みが多く結構いい役で出させてもらったのだ。“君の舞台”と言うのは違う気がするのだが、あえてそこには触れず、お礼を言った。

 すると、相手はふと気づいたように、

「ああ。確か、君は恵くんと同い年だったっけ。彼からもいろいろと学ぶといいよ。」

「はあ。」

 でもおれ、どうもまったく相手にされてないみたいなんですけど、と言いかけて慌てて言葉を飲み込み、おれは作り笑顔で相手を見送った。



初めまして。自分が好きな演劇の世界で物語を書きました。読んでいただけると嬉しいです。

素人作品で、読み難い点も多々あろうかと思います。ご意見、ご感想等ございましたら、ぜひ、よろしくお願いします。

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