9 はじめての魔法体験
「だから、どういう意味だってばよ!?」
興奮しすぎてどこぞの忍者みたいな口調になってしまった。
見た目で言ったら貴女も相当だと思うけど……
っつうか、その足枷は何なの?奴隷なの?囚人なの?
「この枷か?これはな、気づいたら足にあったのじゃ」
「いや、どゆこと?朝起きたら枷がついてましたって、どんな転生モンだよ!?いきなりハンデどころか行動に制限かける神様ってなに?」
「別に朝起きたらついていた訳じゃないのじゃが。それに神様につけられたのはありえないのじゃ」
「そ、そりゃぁそうだ」
彼女は転生してきたわけではないようだ。
しかし、枷なんて日本では絶対にお目にかかれない代物だ。この金属球、見るからに重そうだけど、彼女はこれをゴールキックよろしく蹴飛ばしていた。
実は見た目ほど重くないとか?本当は空気が入ってるだけのボールですとか?
「これか?これは正真正銘、金属の塊じゃぞ?持ってみるか?」
「え?あ、はぁ」
ひょいっと軽く金属の塊を持ち上げた彼女。実はこう見えて中身がスカスカで重くないとか。
「ほれ」
「……どうも。って重っ!?」
重すぎる。10kg以上はあると思う。多分。
こんなもの蹴ったりしたら足の骨が折れる。
彼女の足に異常があるようには見えないし、靴が特殊なのか?安全靴みたいに金属が入ってますとか?
それにしたって、足の指が折れなくても絶対どこかおかしくなる。
大体、これがあんなにぶっ飛ぶのもおかしい。
「そりゃ、魔法を使っておるからの。魔法がなけりゃそんなに速く動かすことはできんのじゃ」
「魔法ですかぁ……」
えらく物理な魔法だねぇ……
もっと火が飛び出すとか、落雷を発生させるとか、カッコいいのがあっただろうに……
「火も雷も無理じゃ。そんなもの出せたあかつきには神様の再来じゃといってお祭り騒ぎになるのじゃ」
「そんなに難しいの?」
「最も難易度の高い魔法が火属性魔法じゃ。世の理を全て解き明かした者のみが遣うことを許されると言われておるのじゃ」
「へぇ」
なんか思ってたんと違う。
火属性は魔法の基本中の基本っていうのが多かったと思うんだけど、この世界では違うみたいだ。
じゃあ、逆に魔法で何ができるんだってばよ。金属球飛ばすことしかできないのかい。
「魔法の基本は念力なのじゃ。物に触れずにそれを動かす力じゃ」
「念力……テレキネシスってやつかぁ」
「おお!その『てれきねしす』というやつじゃ!よう知っておるの!やはりおぬし、神様ではないのか?」
「いや、神様ではないです」
念力、英語ではテレキネシスやサイコキネシスと呼ばれる超能力の一つ。物体を意思の力で動かす能力のこと。
魔法とは別物扱いされることが多いんだけど、この世界ではこちらが主流のようだ。
ってか、それじゃやっぱり金属球飛ばすことしかできないじゃんかい。
「何を言っておるのじゃ。金属球動かす以外にも、風を起こすことも地面を隆起させることもできるのじゃ」
「そうなんですかぁ」
「なんじゃ、半信半疑じゃな?どれ、見せてやろう」
そう言って彼女は目を閉じた。
モノホンの魔法かぁ。想像してた魔法と違っても、私にとっては超常現象に変わりはない。ちょっと期待しちゃう。詠唱とかするのかな。
ヒュゥ……
心地よい林の風が私の顔に吹き付けた。
…………
……え?おしまい?
「なんじゃ?不満そうじゃな」
「あ、いや。なんか、もっと派手なのかと……」
「おぬしはこの一帯の木々を根こそぎ吹き飛ばす魔法をご所望か?」
「い、いえ。これで十分です……」
私の初めての魔法体験は、そよ風を感じるのみに終わったのであった。がっくし。
遅くなりました!