5 作戦決行当日
三月の中旬、作戦の決行の日。
私達は原付の荷台に荷物を載せ、車のいない静かな道を進んだ。
時間は明るくなるにはまだまだ早い頃。
顔に当たる風がとても冷たい。
ここ数週間に何度も通ったルートだから、もう地図も見てない。
神社の入口に原付を停め、荷物を担いで石段を登る。
「はぁ、はぁ。これだけは、慣れないわね」
「数週間で体力がつくなら苦労しないよ」
「でも、あんたは、あんまり、息あがって、ないじゃない。やっぱり、若いって、良いわねぇ」
「そんなに差ないでしょー?」
お参りという名の休憩を挟んだら、また荷物を担いで登り始める。
暗いけど月明かりを頼りに進んでいく。今日は満月だからよく見える。
初めて荷物を運んだ時は本当に真っ暗で大変だった。
「はぁ。やっと、着いたぁ……」
「まあ、これもこれで最後だと思うよー」
「……そうね」
洞窟の入口にあった金網は、とっくに外されて脇に放り出されている。
ここからは荷物を小分けにして、ランタンをつけて進む。
小分けの荷物も全て運び込んだら、金網を戻して入り口を塞いでおく。
着替えるし、人が来たらマズいからね。
……まあ、こんだっけやって一度も人を見てないから、大丈夫だとは思うけどね。
すでに運び込んであった大きめのプラスチックの箱を開けて、中にある服を取り出す。
「まぁ、服って言っても?ウェットスーツだけど」
「誰に言ってるの、お姉ちゃん。興奮しておかしくなった?」
「…………」
無言で私はウェットスーツに着替える。
ダイバーが着る、表面がつるつるの黒い全身タイツみたいなつだ。
実はこれ、無くてもいいらしいんだけど、異世界に出た先で露出の激しい水着はまずいかなって思って買った。
ってか、本当に着づらいなぁ。何度も試しに家で着てみたんだけど、毎回苦戦を強いられる。
なかなか足が通らなんのよ。これはかなりストレス……
「お姉ちゃん、まだ?」
「むぐぐ……」
「日が暮れちゃうよ?いや、日が昇っちゃうよー?」
咲にも手伝ってもらってなんとかウェットスーツを着ることができた。
そしたらフィンをつける。いわゆる足ひれだ。
次にタンク。これがかなり重い。10キロ以上はあると思う。これだけ重くても潜れる時間は1時間くらいだ。
私は地底湖の水面を前にして立った。
「お姉ちゃん」
「……何?」
「大丈夫!」
「…………しょうがないなぁ」
マスク(ゴーグル)を装着して、レギュレーターをくわえる。
水面を見つめる。どこまでも透き通った水。水面に映る私の姿。
縁に横向きに座り、足から水に入った。そして振り返り、縁に両腕を乗せた。
咲がロープの端をこちらに渡し、サムズアップ。
私はそれを受け取り、親指を立てた。
(いってらっしゃい!)
(いってくる!)
腰を90度に折って、足を一気に延ばして潜った。これはヘッドファースト潜降という方法らしい。動画を見てやり方を覚えたけど、初めての割には上手くいった。
そのまま底を目指して進んでいく。
そう時間もかからず底に着いた。
水面の方を見上げると、私が持ってきたロープが上に伸びている。
底の周りをぐるりと見渡すと横穴を見つけた。
横穴の上が出っ張っているため、たしかに水面からだと死角になるだろう。
ダイビングライトのスイッチを入れ横穴に向けてみると、穴は真直ぐ伸びていることがわかる。
(これが異世界への入口……)
どこが境界なのかはわからない。
あの記事には、横穴に入った途端に無線が途切れたらしいから、目の前の穴が境界かもしれない。
(進んでみるしかないか……)
私は穴に向かって泳ぎ始めた。
次回からやっと異世界編ですよ!
長かった!