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神様がいない異世界新生活  作者: 出佐由乃
国都・シント市への旅路 編
40/42

38 観光名所って、意外とショボかったりするよね。

「おはようございます、えみさん、火憐さん」

「おはようございます、来城(らいじょう)さん」

「おはようなのじゃ!」


 来城さんと軽賀(かるが)さんが牛車を志歩ちゃんちの前まで持って来てくれた。もうこのまま出発するらしい。


「審査学校へ入学するときにはここに寄りなさい」

「え、なんでですか?」

「志歩も一緒に連れて行ってほしいのよ」

「なるほど」


 その肝心の志歩ちゃんは、せんせいの殺気でダウンしたので部屋のベッドに寝かせている。またしばらく会えなくなってしまうのは寂しいが、今生の別れではないから。どっちにせよ、あと10か月弱もすれば飽きるほど顔を合わせることになるからね。


「えみ殿」

「は、はい」

「本当に政府で働くつもりは……」

「ないです」

「そうか」


 なぜか志歩パパは、必死に私を政府で働かせようとする。一体、どうしてだろうなぁ。んん?


「どうしたのかしら~、えみちゃん?」

「なんでもないですよ。それでは」

「ええ。えみちゃん、火憐ちゃん、元気でね」

「志歩ちゃんには、私が謝っていたと伝えてください」

「わかったわ」

(はる)ちゃん、北杜(ほくと)さん、また来るわ~」

「いつでもおいでください、星夏(せいか)様、えみ殿、火憐殿」





 北杜一家と別れて、またしばらくのんびり牛車の旅だ。

 相変わらず、火憐は身を乗り出して外の景色を見ている。対向車もいないし、ぶつかるものもないし、そもそも速度がめちゃくちゃ遅いから注意する必要もない。スピードは私が歩いたほうが速いと思う、たぶん。


「えみちゃん、一人で歩くのかしら~?」

「歩きませんよ。遠いでしょ?」

「次は近いですよ、えみさん」

「国都は丹良(にら)市から近いの?」

「いえ、国都ではありません」

「へ?いや、途中で寄るのは丹良市だけって言ってたじゃん」

「次に寄るのも丹良市です」

「は?」

「三重の宝塔を見に行くのよ~」

「『ほうとう』の名前の由来になったとかゆう?」

「そうよ~。丹良市の数少ない名所だもの~。見に行くわよ~」

「はぁ」


 三重の宝塔、ねぇ。京都にありそうなやつを想像すればいいのかな、三重塔。

 そもそも宝塔って仏教に関係する建物だったはず。この世界では宗教の話が全く出てこないのだが、一体どうなってるんだろうか。……それ言ったら、元の世界の日本という国の宗教観もおかしな話か。

 ま、ガチガチの宗教国家で信仰を強制されるよりは、はるかにマシか。


「三重の宝塔は、この地を治めていた貴族の祖先が建立したと言われています。その昔、まだ魔族の数が純人族の数より多かった時代、魔族に対抗して己の権力を示すために建造したとされています」

「昔は魔族の方が数が多かったんですか?」

「そうよ~。むしろ純人族なんて、ほとんどいなかったわ~」

「え?じゃあ、今いる純人族はどこから……?」

「今も昔も数は変わらないわ~」

「は?」

「だから、今も本物の純人族の数は昔と同じ。いえ、むしろ減ったのではないかしら~」

「んん?と、すると、魔族じゃない人たちは、一体何者なんですか?」

「純人族と呼ばれているわ~」

「……せんせい」

「なにかしら~」

「めんどくさいので早く結論を教えてください」

「あら~、えみちゃんはせっかちね~」

「せんせいが遠回しに喋るからです」


 本当に面倒なせんせいだ。とはいえ、ちょっと考えてみよう。

 魔族の数が減ったってことも考えられたけど、せんせいは『本物の純人族』と言った。ってことは、今たくさんいる『純人族』は『本当の純人族』ではなく、偽物。……混血か。


「せいか~い。さすがね~、えみちゃん」

「そんなに難しくはなかったですよね。もったいぶるようなことでもないですし」

「そう言わないの~。もう少し考えてみてちょうだい~?純人族の特徴は~?」

「純人族の特徴は、魔法を使えないこと。魔族の特徴は、魔法を使えること。……混血なら魔法使えるじゃん。それならみんな魔族じゃん」

「せいか~い。さすがね~」

「それ、さっきも聞きました。……でも使ってる人、火憐以外に見たことないですよ?」

「魔法は禁忌とされていた時代があったのよ~。今もそうなっている国もあるわ~。だから人前で魔法はあまり使わないのよ~」

「そんなこと聞きましたね、前に。火憐が毎朝魔法やってるから忘れかけてましたけど」

「それと、ほとんどの人は自分が魔法を使えることに気づいていないわ~」

「なるほどねぇ。せんせいは魔族の血が入ってる人と、そうでない人の見分けができるんですか?」

「入ってない人の方が珍しいかしらね~」

「できるってことですね、わかりました」

「そうは言っていないのだけれど~」

「星夏さん、えみさん、到着しました」


 話しているうちに着いたようだ。本当に近かった。

 軽賀さんが牛車の扉を開けてくれた。


「お疲れ様です」

「えみさんは難しい話もできるんっすね」

「そうは見えないってことですかぁ?」

「……そういうことじゃないっすけど」

「軽賀」

「すいません、来城さん」

「さて、こちらが三重の宝塔です」

「ん、おぉ。目の前だった」


 牛車降りてほんとに目の前。思っていたよりも小さい、というか周りを囲っている杉っぽい木がでかすぎて、より小さく見える。

 見た目はお寺にあるようなのと似ている。木造で、屋根は瓦葺き。

 権力を誇示するためと聞いていたから、派手なものを想像していたのだが、予想以上に地味だ。これ見せつけられて、私には権力がある、って言われても頭がおかしいとしか思えない。隣の杉の木の方がよっぽど強そうだ。


「周囲にある杉の大木は、この三重の宝塔の建立時に植えられたものです」

「もともとは建物より小さかったけど、追い越しちゃったわけか」

「そうです。それだけ大昔に建てられたものだということです」

「なるほどねぇ」

「とても大きいのじゃ!」

「まあ、今まで見てきたどの建物よりも大きいことはたしか、か」


 火憐は、また興奮気味に三重の宝塔の周りを駆けずり回っているが、私はあまり面白くない。

 志歩ちゃんちの方がよっぽど興味深かったわ、この世界じゃね。


「これは飾りのようなものね~。重要なのは向こうよ~」

「向こう?木の向こうですか?」

「そうよ~。この巨木たちの向こうには川があるのよ~」

「川……。もしかして、あの庭の」

「そうよ~。雨の少ないこの地域にとって、水はとっても貴重で価値のあるもの。それを独占することで権力を誇示したのよ~」

「なるほど。それを示すモニュメントみたいなものですか」

「えみえみ、もゆめんと、とはなんじゃ?新しい……」

「違う」

「そうか」


 飾りのような、じゃなくて飾りだね、これは。

 水のためにこんなでかい飾りをこしらえたわけだ。いや、この地域ではとても貴重なものなのだ。こんなもの建てるだけの意味があったわけだ。


「それでは、行きましょうか」

「行きましょうって、どこに?」

「国都である新杜市ですよ」

「え?じゃ、じゃあここはこれだけ?」

「はい、そうですね」

「三重の宝塔と川だけ?」

「はい、そうですね」

「名物、なんですよね?」

「はい、そうで……」

「丹良市、なんもないのね」

「三重の宝塔があります」

「ちっさいわ!こんなんじゃ人来ないでしょ?」

「来ません」

「それでいいんかい、委員会」

「歴史的な価値があります」

「この国には観光という概念はないんね……」


 もういいや。農業で成り立っているんね、この国は。

 まあ、自然がたくさん残っていて、私は好きだけどね。


「では改めて、出発しましょう」

「ほいほい」

「わかったのじゃ!」

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