4 異世界方針会議開催
あれから家に帰り、異世界に行くための会議を始めていた。
会議といっても二人しかいないけど。
「大丈夫!向こうに行けるなら戻ってくることもできるよ!」
「いや、あんたが貸してくれた小説、どれも主人公は元の世界に戻れてないじゃん!」
会議を行うにあたり、私は異世界の資料として咲が持ってる小説を読まされたのだけど、どの小説も異世界で楽しく暮らすという内容で、主人公が元の世界に全く未練がないものばかりだった。
「それは、そういう物語だからであってー」
「私はこっちに帰れないと困るのよ。単位取らないと卒業できないし。それにそろそろ就職について考えなきゃいけないし」
「えー。そんなこと忘れて異世界でスローライフしようよー。お姉ちゃんだって、将来の夢は田舎で自給自足生活です、って高校生の時言ってたじゃん」
「そうだけどさぁ。今の時代、何をするにしてもお金が必要なのよ」
「自給自足も?」
「自給自足も」
「それ、自給自足って言うの?」
「…………」
そこを突かれるとなんとも返せないからやめてほしい。
だって、土地を得るにも家を建てるにも作物を育てるにも、どうしたってお金がかかる。
「異世界ならそんなこと気にせずに暮らせるかもよ?」
「むしろ異世界だからこそ気にしなきゃいけない気がするんだけど」
「そう?」
「だって、小説の主人公はみんな神様からすごい能力を授かってるじゃない。だからお金稼ぐのも簡単だし、平和なスローライフが実現するんでしょうが。なんの能力もない、体力も平均以下の私が生きていけるほど甘くないわよ」
「そこはまあ、なんとかなるよ。きっと」
「きっと、じゃ困るのよ。確実じゃないと」
「お姉ちゃんは慎重だなー」
「あんたが適当なだけよ」
私は昔っから慎重で、失敗する可能性を少しでも潰さないと気が済まない性質だ。
逆に咲はいつも行き当たりばったりで、失敗したら引き返せばいいや、という思考回路だ。
これで姉妹間の仲がまあまあ良いのだから不思議なことだ。
「お姉ちゃん」
「……何?」
「行こう?」
「…………」
「大丈夫だよ」
「……しょうがないなぁ」
……仲が良いというか、私が妹の押しに弱いだけかもしれない。
それから話し合って、これからの予定を決めた。
「まず、確実にダイビングの装備は必須だね」
「3メートル潜るからね。絶対必要」
「お姉ちゃん、ダイビングの経験はー?」
「あるわけないじゃん」
「そーだよねー」
うちの家族はみんなしてインドア派だ。でもたまに思い付きで家族そろって山に登ったりするから、別にアウトドアが嫌いなわけじゃない。
でもさすがにダイビングの経験はない。
咲がダイビングについての記事をスマホで見ている。
「海潜るより地底湖潜る方が難しいらしいよー?」
「えぇ……どうすんの?」
「ぶっつけ本番?」
「…………」
練習する時間もないし、練習できる場所も無いからこればっかりはどうしようもない。
「地底湖内だと上下左右がわからなくなっちゃうらしいよー。それにあの横穴の先が分岐してるかもしれないし、迷ったら一巻の終わりだし」
「地上にロープを括り付けて、そのロープの反対の端を持って進めばいいんじゃないかな。最悪、それを伝って戻れるから」
それが上手くいけば世界間を行き来できるようになる。
ロープを伝わらせて大きな荷物を運ぶこともできるかも。そうすれば世界間貿易ができるかも。起業できるかも。そしたら就活に時間を割かなくていいし、憧れの田舎暮らしもできるかも。
おおお、素晴らしいな異世界……
「お姉ちゃん」
「…………」
「お姉ちゃん!」
「は、はい!何?」
「何を妄想してたのー?」
「あ、いや。……そうだ!お姉ちゃんが先に潜ってロープを張るよ。そうすれば行き来が安全だから」
「えー。お姉ちゃんが先に行くのー?ずるいー」
「私はお姉ちゃんだからね!」
「こういう時だけお姉ちゃん面してー」
こういう時じゃないとお姉ちゃん面できないんだよ……
たまにはお姉ちゃんらしいことをさせてくれ、咲さんや……
そんなこんなで異世界に持ち込む物が決まり、準備をすることになった。
大半はネットショッピングでお買い上げ。
貰いすぎた奨学金が貯まりに貯まってるから、必要なものを買いそろえることができた。
それでもダイビング道具は高かったから、ロープやテント類はワンダーフォーゲル部の部室からお借りした。
借りただけだから!いつか返すよ!
ついでに部室に柄が木製の古いピッケルがあったのでこれもお借りしといた。
ちょっとカッコイイ。
アンティークってやつ?こういうの好きなんだよね。
時代を感じる喫茶店とか憧れてたなぁ。入る勇気がなかったから入ったことないけど。
そうこうしているうちに一か月が経った。
準備はできた。
あとは向こうに行くだけだ。
次回、やっとこさ異世界にたどり着くよ!
……たぶん!