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神様がいない異世界新生活  作者: 出佐由乃
国都・シント市への旅路 編
34/42

32 隠されると暴きたくなる、よね?

 牛車(ぎっしゃ)に無理やり乗せられ連れ去られる私たち。一体私たちは何処に向かっているのだろうか。悲しそうなひとみで見てるよぅ?


「そんな人聞きの悪いこと言わないでちょうだい~?」

「目的も明かされていない旅に強制参加っていう時点で連れ去り、拉致、強制連行みたいなもんですよ、ねぇ?」

「わたくし、連れ去る側になってしまうので、そう言われましても」

「おお!大きな川が見えるのじゃ!すごいのじゃ!」

荒石(あらし)川っていう川よ~。有州(ゆず)市はこの荒石川と(かめ)川という川に挟まれてるのよ~」

「え、そうなんですか?」


 そりゃ初耳だ。試験のための勉強に出てくるのは国単位の知識ばかりだから、こういう身近な地理に関しては全くわからない。

 有州市には東西南北十字に街道が伸びていて、北は神性結界で行き止まり。今進んでいる東方面の街道は荒石川があり、西は瓶川があるってことか。南は遠いけど山が見えるから、防御面では優秀だね。

 でも川に挟まれてるってことは、水害とかヤバそう。増水したらたちまち沈みそうだ。


「えみちゃんは今の情報だけでそこまで考えることができるのね~。すごいわね~。政府に来ない?」

「遠慮しときます」

「あら~残念~」


 政府勤務とか、行動に制限が付きそうで嫌だ。せっかくの異世界なんだから、いろいろ見て回りたいじゃん。

 約二か月、道具屋勤務で軽く引き籠ってたけどね。


「挟まれていると言いましても、川と川の距離はかなりあります。それに、有州市の中心街は高い位置にあるので浸水の心配はありません」

「ほぇ、そうなんですか」

「防御として優秀というのはその通りです。北は神性結界、東西は川、南は大陸山脈に囲まれており、攻めづらく守りやすい立地であります。ですが、なぜそのような知識をお持ちなのですか?試験で問われるようなものではないと思うのですが」

「え?」


 いや、時代劇とかブラモリタとか見てればそんな知識もつくよね。川、山、傾斜……守りに使える地形としては常識レベルじゃない?


「えみちゃん、本当に政府に来ない~?軍の戦略担当の席に空きがあるのよ~。誰もやりたがらないから、どうかしら~?」

「火憐を戦争の道具にしたくないとか言っておきながら、私は道具にするんですかぁ?」

「冗談よ~」


 どちらにせよ、軍略はテレビ由来のあまあまのちょっと噛んだだけの知識だから、実際は使い物にはならないでしょ。こういうのは経験がものをいうもんでしょ。


「川が近づいてきたのじゃ!」

「そろそろ橋ですね。一度確認が入りますので、車を停めます」

「確認?」

「ええ。橋を渡る前に門衛が車内を確認します」

「もんえい?」

「橋が町の出入り口になるから兵士がいるのよ~」

「なるほど」


 ほどなくして牛車が停車した。人の足音がいくつか聞こえる。窓の方を見ても、窓の位置が高いから青い空しか見えない。火憐のように身を乗り出せば周りも見えるだろうが、さすがにそんな子供っぽい真似はできない。


「確認を行います」

「どうぞ~」


 ガチャ


「どうも~」

「こ、これは仙丈星夏様。失礼いたしました」

「いいのよ~、ご苦労様~」

「お、恐れ入ります。では」


 ガチャン


「確認ってこれだけですか?」

「本来は念入りに荷物や身分の確認があるのですが、星夏さんがいらっしゃいますから」

「本当にせんせいは有名人なんですねぇ」

「なりたくてなったわけでは、ないのだけれどね~」

「うわぁ」


 ガタタカタタガタタ……


「なんか音が」

「橋を渡っているのですよ」

「なるほど。けっこう長いですか」

「しばらくはかかりますね」

「あ、いや。橋の長さは」

「普段の川幅はさほどないのですが、雨が多いと水かさが増しますので長くなっています」

「やっぱりそうなんですね」


 見えないけどしっかりした橋のようだ。音からして橋は木造だろう。アーチ型かな?


「橋の上から川が見えるのじゃ!向こうの方で川が二つに分かれているのじゃ!」

「分かれているように見えますが、それは中洲です。この荒石川には中洲が多く、中洲が林になるほど広いのが特徴です」

「有州市の名前の由来でもあるわ~」

「なるほど……」


 ブラモリタの女子アナになった気分。台本なしのぶっつけ本番の旅、始まります。なによりあなたが元気でぇよかぁあったぁ。


「なんじゃ、その歌は。聞いたことないのじゃ」

「ん?あ、えぇっと、そうね。そうだ、せんせい」

「なにかしら~?」

「せんせいがえいゆ」

「な~に~?」

「えいゆ」

「な~に~?」

「だから、えい」

「な~に~?」

「……」


 何が何でも話したくないのか。だったら……


来城(らいじょう)さん、せんせいが英雄と呼ばれることになった出来事について聞きたいのですが」

「もちろんですとも」

「来城さ~ん?」

「もちろん話しません」

「ちょっと、せんせいっ!」

「なにかしら~?」

「いいかげん教えてくれてもいいじゃないですか!どうせ歴史の本とかに記されたことなんでしょう?」

「しょうがないわね~。来城さん、話してもいいわよ~」

「せんせいは喋らないんですね」

「私は話したくないもの~」

「はぁ」


 せんせいは自分の功績を頑なに話したがらない。革命の立役者、そんな立場だからこそ人に言えない裏の事情なんかがあるんだろうか。まあでも政府の関係者から聞ける英雄譚だ。政府の人しか知らない、公式には明かされない活躍劇なんかを期待しちゃうね。


「期待されても私も皆さんが知っているようなことしか知りませんよ?」

「それは政府として隠しておきたいってことですか?」

「いえ、私も実際この目で星夏さんの活躍を見たわけではありませんから」

「そうですか。それでもいいです。どうせ時間はたっぷりありますし、もし追加の情報があれば、えいゆ」

「えみちゃん?」

「……せんせいご自身からお話をいただけるでしょう」


 怖ァッ!そんなことで殺気を飛ばさんでください!火憐も珍しくビクゥッてしてるよ。

 ってか、せんせいは英雄って呼ばれたくないだけなんでは?


「……そうですね。ではまず、何から話しましょうか」

「せんせいは革命前は何をしていたのか、ですね」

「革命前ですか?革命前の話は私も知りません」

「さっそくせんせいの出番ですよ」

「えみちゃん」

「はい?」

「もしかして、仕返し?」

「そう思うってことは、仕返しされるようなことをした自覚があるんですね」

「えみちゃん、この一か月でたくましくなったわね~」

「もともとですけどね」

「慣れたってことかしら~」

「そゆことかもですね」

「えみちゃんに任せて正解だったわ~」

「話を逸らさないでください」

「やっぱりえみちゃんは面白いわね~」

「はぁ」


 どんだけ話したくないんだか、全く。そんなに隠したい秘密があるんだろうか。そうは見えないからちゃっちゃと話してくれればいいのに。逆にここまで引き延ばされると期待しちゃうわ。


「えみちゃん」

「いいから話してくださいよぅ」

「相手のことを聞くならまず自分から、じゃないかしら~?」

「自分から?そうですねぇ……」


 ……し、しまった!自分の過去の話ってことは、この世界ではなく元の世界での話をすることになる。これを話してしまっていいのだろうか。異世界モノでは自らの出自を話すタイプと、バレるタイプ、全く話さないタイプがあったけど、私の場合はどれだ!?ってか、まさかせんせいは知ってて誘導したんじゃ……

 そう思ってせんせいの顔をチラ見すると、いつも通りの微笑みでこちらを見ている。

 うわぁ、こう見ると裏に何かありそうだなぁ。ただの道具マニアだと思ってたけど、注意した方がいいかも。


「わ、私のこと聞いても得しませんよぅ、ねぇ?」

「え?わ、わたくしは、星夏さんのお話の方が気には、なり、ます」

「ですよねぇ!ってことで、せんせい。お話をお聞かせ」

「えみちゃんが話してくれないのなら話さないわ~」


 プイってそっぽを向くせんせい。……本当に裏があんのかなぁ。なんかただ言いたくないだけで、駄々をこねているように見えてきた。この人は本当によくわからないなぁ。

 ってか、それをやっていい歳じゃ……


「えみちゃん」

「は、は、はい……」


 や、やっぱ只者じゃないわ。こんな殺気を一般人が出せるわけないわ。殺気で相手を怯ませるとか、暗殺教師かよ……。そのうち猫騙しとか使ってきそう。


「に、丹良(にら)市まであとどれくらいですか……」

「は、半日ほどです。まだ橋も渡り切ってません……」

「あぁぁぁぁ……」


 異世界で初めての旅ですが、開始二時間でもうダウンしそうです……

 もう、この人やだぁ……

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