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神様がいない異世界新生活  作者: 出佐由乃
ユズ市の道具屋 編
31/42

31 臨時休業

 それは突然だった。

 いや、いつも突然じゃんって言うのもわかるけど、いつも通りただただ続いていく日常からしたら、イベントっていうのは突然に起こるもんだよ。予定されているならともかくね。


「今から出かけるわよ~!」

「せんせい、おかえりなさいなのじゃ!」

「ふぁあぁ、朝からなんですかぁ?ってか、せんせい帰ってたんですねぇ」

「えみちゃん、火憐ちゃん、行くわよ~!」

「あの、どこに行くんですか?お店はどうするんです?」

「行き先は行けばわかるわ~。お店は臨時休業ね~」

「そりゃ、行き先は行けばわかりますよ」

「とにかく行くわよ~!」

「わかったのじゃ!」

「はぁ、わかりましたよ」


 そんなこんなで、一家でお出かけイベントが開始されたのだ。せんせいはいつも突然だから、慣れたっちゃぁ慣れた。


 ガララ


「おはようございます、えみさん、火憐さん」

「えぇっと、来城(らいじょう)さん?ってことは……私たちが出向く必要があることってなんですか?」

「それは、むぐっ」

「ひみつ~」


 うわぁ、いやな予感しかしねぇ……

 せんせいは自身のことに関しては、なんでも秘密にしたがる。なんの意味があるのかって言えばおそらく、せんせいが楽しいからなのだろう。そういう人だ、せんせいは。


「まあまあ、そう言わないで~。これに乗って行くわよ~」

「これ、これって……」


 牛車(ぎっしゃ)。日本では貴族の乗り物として使われていた、牛が牽く車のことだ。

 目の前にあるこの車は木造で、見た目は地味だ。牛の方は黒くて、こちらも地味な普通の牛。牛をここまで間近で見るのは初めてだけど、黒毛和牛ってやつはこういうのを言うのかな。牛肉は滅多に食べないからわかんないけど。こいつも美味しいのかな。


「こいつは食べないでくださいよ」

「あ、えっと、食べませんよ」

「やつは軽賀(かるが)といいます。軽賀も政府の者なので大丈夫ですよ」

「大丈夫って何ですか。これから行く場所にすんごい不安を覚えるんですけど」

「ああっと、大丈夫ですよ」

「何が大丈夫なのか具体的に」

「えみちゃん、いいじゃない。それより、出発するわよ~」

「わかったのじゃ!」


 せんせいが一番不安なんだけど、もういいや。

 牛車は座席が対面する形で配置されていて、私と火憐、せんせいと来城さんが並んで座った。軽賀さんは牛の操縦っていうか、手綱を握るというか、横で一緒に歩くというか、とにかくそんな感じだ。だから車内に4人いることになる。

 犯人の護送を想像して嫌な感じだ。そういえば、せんせいと初めて会ったとき、せんせいが私のことを怪しいやつとして捕まえて上に突き出す、みたいな危惧をしてたけど、まさかね。……っていうか、せんせいそのものが“上”みたいなもんだから、意味がない?


「捕らえて牢に繋ぐ、なんてことはしないわよ~」

「あ、えっと、そうですよねぇ。あはは……」

「町の外に出るのか?」

「ええ、外に出ます」

「え、じゃあ、認定証が必要なんじゃ」

「軽賀もわたくし来城も認定証を持っていますし、護衛の資格を取得していますのでご安心ください。まあ、星夏さんがいらっしゃるので、わたくしたちの出番もないと思います」

「はぁ、そうですか。それで、どこに向かうんですか?政府の施設ですか?」

「国都の新杜(しんと)市よ~、えみちゃん」

「国都……」

「おお、初めて行くのじゃ!」

「国都に向かうのですが、途中で丹良(にら)市に寄ります」

「寄る?何かあるんですか?」

「丹良市は稲作ではなく、麦と呼ばれる穀物の生産が多いのが特徴ですね。その麦をひいてできた粉に、水などを加え練った麺で作る料理が名物となっています」

「うどん……?じゃなくて、そうじゃなくてぇ、何か用事があって寄るんですか?」

「いえ、用事はありません。宿に入るためです」

「宿?」

「えみちゃん、国都は一日じゃ着かないのよ~。だから途中で一泊しないと」

「ええっ!?店を二日も空けとくんですか!?」

「二日じゃなくて一週間くらいかしら~」

「なっ」

「初めての旅じゃ!楽しみなのじゃ!」


 せんせいの“出かける“は一週間の旅を指すのかぁ。んな、そんなわけあるかぁっ!なんも準備してきてないよ。服とかお金とか、その他諸々の持ち物も全部店に置いてきちゃったわ。


「服は用意しておいたから大丈夫よ~。お金も私が出すから安心してちょうだい」

「あの、こういうことは事前に教えてもらえると助かるんですが」

「びっくりさせるために直前まで秘密にしてたのよ~?教えちゃったら意味ないじゃない~」

「はぁ」

「わしはすごいびっくりしたのじゃ!」

「それはよかったわ~」

「えみさん、あの、難しいことはないので安心してください」

「安心できるかぁっ!目的も聞かされないで知らない場所に連行されてるんですよ?」

「えっと、大丈夫です」

「それしか言えんのかぁっ!?」


 ゆっくり進む牛車の中で、私はまだ見ぬ街並みに期待を抱き、興奮した火憐を落ち着かせながら車の揺れを楽しむのだった。


「って、そんな落ち着いてられるかぁっ!?」

「えみさん、落ち着いてください」

「みんなでお出かけは初めてだから楽しみね~」

「楽しみなのじゃ!」

次回、唐突な新章!?


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